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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『ブザービート』

前回のあらすじ


中年vs正義の向こう側



私には歳の離れた姉がいました。


そう、居ました。


いつの間にか居なくなってしまったあの人は、


思い出の中でいつも私に朗らかな笑顔を向けていました。


暖かい情景。春の人肌のような記憶。


きっと、きっとそう。


でも、それならなぜ、私の心は、この思い出を思う時、冷たさを感じさせるのでしょう。


笑顔のあの人は、姉は、なぜ私に謝っているのでしょう。


なぜ、なぜ、


私はあの人を、姉の顔を


思い出せないのでしょう?


尾方巻彦は動く。


自分が死ぬ事は構わない。そんなことは些細な事だ。


しかし、


尾方は姫子を見る。そして清を見る。


『ここで』『彼女に』殺されるわけにはいかない。


尾方の右手が素早く空を掴む。


その手先には真っ白な羽が摘まれていた。


「『自幽(じゆう)』」


それは記憶にまだ新しい。筋頭崇との戦いで使われた尾方の天使の残滓。


身体に常にかかっている負荷の枷を外す白い羽。


選ぶまでもなく尾方は脳の制御装置リミッターを外す。


少しでも速く、少しでも死より遠くへ。


猶予は無い、尾方は目を見開く。


イメージした千の太刀、その外側を探す。


外側? いや、違う


尾方は考えるより早く答えに向って足の力を込めていた。


内側だ。答えは内側。


そこは刃の内側、つまり正端清のいた場所。


姿勢低く飛び出した尾方はその場所に滑り込む。


そう、不可視の刃の一太刀目、その太刀筋は無数にあれど、自分自身を斬る事は在り得ない。


故に、尾方の判断は間違っていなかった。結果として現れるのはまだ少し先だが、確かにこのとき尾方巻彦はその一太刀目を見事に掻い潜っていた。


しかし、しかしである。この方法が使えるのはあくまで正端清の姿が視認出来る一太刀目に限った話である。


柄に触れて六秒間。世界に認識されなくなる清の刃は、今も今、二ノ太刀を構えていることだろう。


尾方には、その姿を認識する事が出来ない。


そう、清の姿を認識する事が出来ない。


しかし、今の尾方にはその向こう側、世界の揺らぎを視認することが出来ていた。


尾方は休む事無く足に目一杯の力を込める。


刹那刹那迫ってくる死を掻い潜る。


向こう側へ向こう側へ。


生と死のシャトルラン。


死のブザーより先へ先へ。


尾方は数瞬を幾度も幾度も繰り返し、ついにその時は訪れた。


六秒。


さぁ、答え合せの時間だ。



結論から言おう、答えは△。


正気を取り戻したらしい清は目の前の惨状に目を移す。


そこには、砂埃に包まれた影が一つ。


数箇所の切り傷の内、少し深い肩の切り傷を押えた尾方は、しかしその命を繋ぎ、数千の斬り跡の上に立っていた。


その場の尾方以外の三人は、思い思いに目を見開く。


それは驚嘆である。


それは安堵である。


それは―――


「あり......、えない...」


声を出したと言うより、出てしまったと言うのが正しいほどの微かな呟き。


その声の主は、小廻めぐるであった。


(ありえない、ありえないありえないありえない。正端清先輩の不知火だ。戒位第三躯、正義の天使の鉄槌だ。避けれるはずがない。生き残れるはずがない。間違うはずがない)


「...危険です。貴方は危険だ!」


今度はハッキリとその声が空気を揺らす。それは慟哭にも似た心の震え。


「指定、躯体を中心に範囲300m、非戦闘地区の限定解除。 大天使、小廻めぐるの銘において執行する」


言うが速いか小廻は姿勢低く駆け出す。


「戒位第十躯、流転の天使、小廻めぐる!! 参る!!!」


まだ砂埃の舞う斬撃の痕跡を払い、流れる風のような躯体を回転させながら、流転の天使は、屈折の悪魔に差し迫った。




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