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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『小廻めぐる』

前回のあらすじ


会議中は寝ないようにしましょう。


尾方巻彦は困っていた。


ここは追い出された自分の前住居、アパートの前。


別に纏めるほどの荷物も無い尾方がここに戻った理由は一つ。


アパート前の旅館の若女将に挨拶に来たのである。


いつもより時間がズレていた関係上、若女将の姿は確認できず。


尾方はまだ撤去されてない瓦礫に座り、タバコに火を付けようとした時だった。


「失礼、ここは喫煙所ではないのですが? タバコを吸われるおつもりですか?」


座った尾方と同じぐらいの高さから甲高い声が聴こえ、尾方が手を止めた。


目だけ正面に向けると、そこには女の子としても小柄な少女が、凛とした顔で両手を腰に当て立っていた。


尾方は苦笑いすると、タバコを手の内に隠しながら言う。


「これは失礼お嬢さん、誰もいないと思ったものだからつい、ね」


尾方の回答に不満足そうな顔をした少女は、腕を組んでから言う。


「まるで誰もいなかったら吸ってもいいと思っているかのような言葉選びですね」


ジロリとした目を向けられた尾方は困った様に頭を搔く。


「いや困ったな。お嬢ちゃんの言うとおりだ。深く反省するから許しては貰えないかな?」


尾方は軽く頭を下げる。


尾方の態度に、腕を組んでいた少女はハッとして姿勢を正す。


「い、いえ、わかって頂けたのならばいいのです。私も未遂の方に対して言い過ぎました。頭を上げてください。えーっと...」


「尾方だよ、許してくれてありがとう礼儀正しいお嬢ちゃん」


「小廻です。小廻めぐるといいます。尾方さん、どうぞよろしく」


二人は軽く会釈をする。


さて、ここで奇妙な少女ともお別れと思った尾方だったが、小廻と名乗った少女は尾方の隣にチョコンと座る。


「ん? あ、えーっと? え?」


尾方は戸惑いを隠さず愛想笑いをする。


「いえ、ここで会えたのもなにかの縁です。実は私、ここで人を待っておりまして。それまで少しお話ししましょう」


少女は無垢な笑顔で言う。


尾方は、この感じどこかでと思いながら、後で吸いなおそうと思っていたタバコを胸ポケットにしまった。


「尾方さんには憧れの人っていますか?」


尾方から貰った飴を口に放りながら小廻少女は突然質問を投げかける。


尾方は不意の質問にふと考えるが直ぐに答える。


「いるよ。おじさんの周りは凄い人ばかりだから」


その返答に、小廻はほうっと感心するように吐息を漏らす。


「周りを立てているんですね。素晴らしい事です。尾方さんは謙虚な方なんですね」


「おじさん自分を客観視するのには一家言あってね。正当な評価だよ」


「ふむ、心からの尊敬であると?」


少女に問い返され、尾方もう一度少し考えてみる。しかし、すでに答えは出ていた。


「心からの...かどうかは難しくておじさんには少しわからないけれど。信じられる人達だよ」


ほえ...っと小廻の時が少し止まる。しかし直ぐに飴を噛み砕くと、


「尾方さん、貴方は富んだ素養と豊かな教養をお持ちですね。驚きました」


と真っ直ぐに尾方を見つめて言う。その眼差しには光が色濃く出ている。


尾方はその眼差しを眩しそうに目を細めて言う。


「過大評価だよ。おじさんは周りに恵まれているに過ぎないさ。本人はとんだろくでなしさ」


ポケットにしまったタバコを見せる。


「ふむ、こういった人も居るのですね。一概に人を評価できないとはこの事ですか。ふむふむ」


尾方の反応など気にする事無く。一人で小廻はなにかに納得している。


尾方はどこかむず痒くなり、話題をそらす為に質問を投げる。


「小廻ちゃんは? 尊敬する人はいるの?」


小廻は待ってましたとばかりに目を輝かせて言う。


「私ですか!? 私ですよね!? 答えはイエスでづ! 噛みました! イエスです! なにを隠そう私はその尊敬の先輩を待っているのですよ!!」


熱弁する小廻に少し圧倒されながら尾方は言葉尻を拾う。


「へ、へぇ? 先輩さんなんだ? 同じ学校なのかな?」


その言葉に、ピタっと一瞬動きを止めた小廻は目を逸らしながら言う。


「え、ええっと、そう...とも言えます...かね?」


「ん? 近所の年上さんとか?」


「それ...もそうとも言えるよう...な...?」


「(ふむ...)」


尾方は察しが悪い方ではない。どちらかと言うと人生経験に基づいた推測は得意と言えよう。


故に尾方は悟った「またなのか...」と、


そう。『尾方の知り合いみんな天使』の流れである。


恐らく待ち人も自分と一緒であろう。尾方は顔を覆った。


「尾方さん? どうしたのです?」


尾方の気も知らない小廻は尾方を心配する。


心配の種は君なのである。


「い、いや、少し肺が痛くてね...タバコの吸いすぎかな、あはは」


これ以上面倒な事にならないうちに逃げの一手だ。


尾方はいつも通り逃走の算段を立てる。


「それはよくありません! 急に動かないようにしてください!」


適切。


これは裏目に出てしまった。


焦る尾方。


恐らく時間が無い。お約束である。ここになって待ち人現るは、これ以上ない最悪のお約束である。それ以上の出目はないほどの最悪...それだけは...


「おお、おったおった尾方! ここに居ったか捜したぞ!」


投げたサイコロが爆発する。なぜかここで待ち人ではなく悪道姫子のエントリーだ。


尾方は気が遠くなりそうな眩暈に襲われる。


「おや、尾方さんの知り合いですか? 初めまして、私は先ほど尾方さんと知り合ったばかりの小廻と申します」


尾方のそんな気は知らず小廻は挨拶をする。


一縷の望みに賭け、尾方は姫子に目配せをする。意味が通じないのはわかっている。でも、そうせずにはいられなかった。


「どうした尾方? 調子でも悪いのかの?」


うん駄目でした。尾方は心で涙を流す。


「あ、そうなんですよ! 尾方さん肺が痛いそうで!」


「なんじゃと尾方! それは本当か! 大変じゃ大変じゃ!」


二人がわちゃわちゃしている内に尾方は心労が限界に達し、フリーズしてしまう。


そうしている内に審判の時は来てしまった。


「あら、尾方さん? ...と小廻さん?」


聞き慣れた温和な声が場に響く。その声に反応して皆が動じに口を開く。


「あ! 清先輩! 尾方さんが大変で...! え、なんで名前を?」


「死ぬな尾方! お主は悪魔の希望! 『メメント・モリ』の将来を背負った男じゃぞ!」


「えっと...? 小廻さん? 尾方さんとは...どういった関係で...?」


...。


しーらない。


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