『総統』
前回のあらすじ
全く新しい役職名ってだれが決めてるんだろうね
①
突然始まった役職決め会議であったが、そこから先は極めて円滑に続いた。
姫子が案を出し皆がそれに意見する事で、それらしい役職名が次々に決まった。
悪道替々、役割:組織運営等への助言・補助。役職名『相談役』
國門忠堅、役割:一般戦闘員、同盟先派遣戦闘員の統率・管理。役職『兵隊長』
搦手収、役割:同盟組織との窓口・戦力支援。役職『特務大使』
各々が納得し、役職を姫子より承った。
さて、皆もお気づきであろう。この会議、ここで一旦詰まる。
理由は語るまでも無い。尾方巻彦、この男の存在である。
本人は一般戦闘員で良い所と高を括って呆けていたが、姫子がそれを許さなかったため話は拗れた。
「良いか尾方。お主は事実上のNo.2じゃぞ。それに相応しい役職名にせねばならんのだ。わかるか」
姫子が諭すように言うと、
「ご冗談をお姫さま。おじさんをNo.2になんてしちゃったら組織の品性を問われちゃうよ? それに、向き不向きぐらいヒメにも分かるでしょう?」
尾方はかわす様に言う。
役職名以前に役職位置で揉めている二人。
話はどこまで行っても平行線だったため、埒が明かないと多数決がとられた。
Q:尾方巻彦をNo.2にしますか?
賛成:悪道姫子、葉加瀬芽々花、搦手収
反対:尾方巻彦、悪道替々、國門忠堅
はい、組織真っ二つ。
「いや、尾方が入ったら拗れるじゃろ! 本人は参加不可じゃ!」
「あら独裁? 部下の意見聞くなら総数で取らなきゃ意味ないじゃない?」
「組織の為を思ってここは手を下げるのじゃ尾方!」
「組織の為を思うと自然と手が上がっちゃう」
こういうの延々出来るのかなこの二人...組織員は苦笑いでこの状況を眺める。
すると、見かねた相談役、替々が口を開いた。
「あー...どうかな? この話は一旦保留と言う事にしては? なにも決めないと何かが前に進まないと言う話でもなし。このまま組織として活動を積んで行く事で自然と収まるべき所に収まるのではないかな?」
まさに渡りに船。一同は一も二もなく同意した。
姫子は不満顔であったが、尾方は心の底から安堵したようだった。
「まぁ、そういうことなら今回はここまでじゃな。では定例会に...」
「あ、待って待ってん」
口を尖らせながら話を進めようとする姫子を搦手が制する。
「なんじゃ搦手特務大使?」
「姫子ちゃんの役職は? 決めないの?」
搦手の質問に姫子は目を丸くする。
「わし? わしの役職? もう決まっとるじゃろ? ボスじゃが?」
「いや、それはそうだけどボスの肩書きにも色々あるじゃない? 悪海組なら『組長』、睦首劇団なら『団長』。メメント・モリはなんにするのん?」
なるほど最もである。組織の長にはその組織に合った肩書きが必要だ。
姫子はほうっと唸る。
「考えた事もなかったのう。そうか...わしか...」
すると、
「『...総統』」
尾方が口を開いた。
「総統? そう言ったのか尾方?」
尾方はしまったというように口を覆う。
「あ、ああ...いや、そういうのもあるよって意味でね...?」
すると替々がにやけ顔で言う。
「いいじゃないかね『総統』。偶然、前メメント・モリの悪道総統に通ずるしネ」
「おじじ様が...!」
目を輝かせる姫子。尾方はバツが悪そうに明後日の方向を見ている。
「よいぞ! 決まった! わしの役職は『総統』じゃ! 改めてよろしく頼むぞ!」
一同は皆、納得したように頷く。
ここに改めて、組織に総統を据えた新生メメント・モリは新たに活動を開始した。
その旅路が世界を動かすのは、これより少し先の話である。