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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『第一回メメント・モリ役職会議』

前回のあらすじ


真っ白い部屋って掃除大変そうだよね


ところ変わってここは悪道邸。


メメント・モリの臨時アジトにして悪道姫子の住居。


新生メメント・モリの主だった面々はこの少女の屋敷にたむろっていた。


いや、正しくは目的のあるたむろである。


名目上はメメント・モリの定例会。その集まりである。


だがそのメメント・モリの現党首である悪道姫子が、「尾方を連れてくる! 待っておれ!」と飛び出して入ったため、


一行はその帰りを待つ間すっかり手持ち無沙汰になっていた。


各々は各自で暇潰しをはじめる。


悪道替々は慣れた手つきでコーヒーを作ると、窓際の洋風の椅子に座り、老眼鏡をかけて本を読みはじめる。


葉加瀬芽々花はノートパソコンを立ち上げ、高速タイピングでなにやら打ち込んでいる。


搦手収はなにやらゆるキャラのストラップを取り出し、一緒に自撮りをしている。


そしてその様子を、國門忠堅は呆れた様子で眺めていた。


「いや、緊張感ないな...仮にも組織の集まりなんだよな?」


痺れを切らして國門が苦言を呈する。


すると替々が本を読む手を止める。


「緊張感? 必要ないとも。組織に肝要なのは信用と利害の一致。これに限るのだからね」


すると搦手も手を止めて会話に入って来る。


「あらおじいちゃん、良い考え方してるわね。そうよ國門ちゃん、組織に緊張感なんて必要ないの。必要なのはキューティーさよ」


「きゅ...? なんじゃて? というかオカマは組織の一員ではないじゃろ! なんで普通におるがや!」


「別に私がどこに居たっていいじゃない。狭量な新入りねぇ」


「おまんの組織の新入りではないがじゃ!」


背後で騒がれ、葉加瀬は面倒そうにヘッドフォンを外して言う。


「いや、それを言ったら私さんだって正式な組織の一員じゃないッスし。組織外とのコネクトを大切にするべきッスよ現メメント・モリは」


「...今更じゃが大丈夫かこの組織」


「沈む船からは逃げる派ッスか國門さんは?」


ヘッドフォンを付け直しながら葉加瀬が言う。


國門はふんっと鼻を鳴らす。


「初めてじゃ沈むような船に乗るのは...落ち着かん」


すると搦手がにっこり笑いながら言う。


「私は沈まないような大船に乗って海を眺めてるだけなんて言うより好きよ。やっぱり人生にはスリルがないとねん」


「スリルねぇ...」


國門はどこか遠くを見る。


すると玄関が大きな音を立てて空き、甲高い声が飛び込んで来た。


「皆! 待たせたのう!! メメント・モリの定例会をはじめるぞ!!!」


「確かに、面倒な事を考える暇はなさそうだな」


國門は呆れた風に、しかし少し安心するように笑った。




「第一回! メメント・モリ! 役職会議を執り行う!!」


あれ? 定例会は? 経緯はこうである。


尾方の首根っこを捕まえて居間にやってきた姫子は、定例会が始まる矢先にこんな事を言い出した。


曰く、尾方が逃げ出すのは組織としての責任感が足らないから。こうなったら役職に着かせて責任で縛ってしまおうと。


まぁ、これは建前で、要は姫子がボスらしいことをしたいと言うのが本音であったわけだが。


この場の一同(尾方以外)は、その気持ちを汲み。役職決めが急遽始まったのである。


「はい、記録及び書記は私さんが勤めさせていただくッス。よろしくお願いするッス」


使っていたノートパソコンに続きタブレットを取り出した葉加瀬が言うと


「おお、するとハカセから決めるとするかの。その後の進行が円滑になるだろうし」


「ええー、私さんからッスか? 一応余所者ッスよ自分?」


「寂しい事を言うでない。ハカセは協力者とはいえ初期メンバーではないか? な?」


姫子に諭され、葉加瀬は困った顔で尾方を見たが、尾方が微笑み返したので、諦めたように言う。


「まぁ、いいッスよ。恐縮ですけど。私さんからどうぞッス」


葉加瀬の応えを得て、姫子は目を輝かせる。


「では! ハカセの役職から決めるものとする!」


皆はやれやれと言う顔をする。


「案がある者はおるか!」


しかし次の言葉で顔が引き攣る。


「え? ヒメが決めるんじゃないの?」


思わず我関せずと欠伸を決めていた尾方が苦言を呈する。


「うむ、最初はそう思っておったのだがな。それでは独裁ではないか? そう思い、皆の総意を募ろうと思ったのじゃ」


「いや、悪の組織なんて独裁してなんぼじゃない?」


「む、考え方が古いぞ尾方。ソレは昔ながらの悪の組織の悪しき風習じゃ。時代は組員の心に寄り添ったまごころ運営じゃ」


悪の組織の会議でまごころって言葉を聞くとは思ってなかった組織員達は面食らっている。


だがひとり満足そうに微笑んでいる搦手が挙手する。


「流石は姫子ちゃんね。時代の最先端を行くダイナミックな組織運営。大いに結構、そこで案の前に質問いいかしら?」


「うむ! なんでも聞くがよい!」


褒められ、上機嫌で返事する姫子。


「先にその人が組織でどんな役割をするのか教えてくれないかしら? その方が決め易いと思うの私」


「ふむ、なるほど! もっともじゃ! では先に役割を紹介するぞ!」


姫子は懐から手帳を取り出してふむふむとなにかを確認する。すると、


「ハカセの組織での主だった役割はじゃな。当組織への技術提供及び兵器・備品開発またその管理・サポートじゃな」


思ったよりしっかりした返事が帰ってきたので組織員達は少し関心する。


搦手は満足そうに頷く。


「うん、ありがとう姫子ちゃん。少し考えさせて貰うわねん♪」


姫子は頷き返すと、一同を再度見渡す。


「さて、案が出来た者は遠慮するでないぞ。どんどん来てよいからな?」


すると、替々がゆっくりと挙手する。


「失礼、いいかな?」


「うむ! 大叔父上! どうぞ!」


「私もこの業界長いが、何分初めての催しなもので。なにか例を挙げてはくれないだろうか?」


催しって言ったぞこの人。皆はそ知らぬ顔でスルーを決め込む。


「ふむ、なるほどもっともじゃな! では! 特別にわしの案を発表しよう」


やはり合ったのか。一同は苦笑いをする。


「ハカセに相応しい肩書き! それは! 『メメント・テクノロジー科学技術局長』! これじゃな!」


なるほど。


一同に以心伝心が走る。姫子はそっちか。


皆は一挙に目を見合わせる。其処には謎の緊張感があった。


意を決して、葉加瀬が口を開く。


「な...長くないッスか? ほら、大変ッスよ? 私さんが自己紹介するときとか...」


「これでも頑張って短くしたんだがの? だが確かに名乗る方からすれば不便かのう?」


続いて替々が苦言を呈する。


「えーっと、この名前だと直訳で『思い出せ・科学技術科学技術局長』になってしまう。科学技術が渋滞してしまっているよ?」


「むむ、確かにそれはおかしいのう。メメントも切るとそんな意味になるとは...」


次は國門が口を開く。


「局長もおかしくないか? メメント・モリとは違う組織の長じゃろそれ? あくまで一個人の協力者に組織の長の肩書きはどうじゃろうか」


「それもそうか...確かにこれじゃとメメント・モリの傘下に科学技術局なる組織が無いとおかしいのう...」


姫子はなにやらメモをしながら各々の話を聞く。


「では皆々のアドバイスから生まれた新しい役職はこうじゃ! 『技術顧問』!」


一同は感嘆の吐息を漏らす。


なんだ! 教えたら伸びる子じゃん!


「あ! いいッス! それいいッス! 私さんそれでいくッスよ!」


すかさず葉加瀬が肯定する。


「おお! ハカセも気に入ってくれたか! 皆も意義はないかの?」


一同は皆、納得するように頷き黙認する。


「よし! ではハカセはこの場よりメメント・モリ技術顧問じゃ! よろしくのハカセ技術顧問!」


「はいッス! 謹んでお受けしますッス!」


と言うことでここに晴れて葉加瀬技術顧問が誕生した。


文字にすると中々絵になる。


かくして、突然始まったメメント・モリの役職命名会議は、つつがなく進行されていくのだった。

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