『大天使』
前回のあらすじ
役所の前で寝るのはやめましょう
①
静寂
『せいじゃく』ではない。
この場は『しじま』である。
大聖堂。
天の使いの座するこの世界の善性の中心。
この場にて紡がれる言葉は、神のそのモノだけであり、
故に、天に異を示す者はおらず。沈黙にてその絶対を示す。
七の席に座る天の使いは皆、目線を落としてその意思を待つ。
『―――――』
耳の奥に響き、しかし心地良く、また重たいその耳鳴りは、神の吐息である。
『―――依然変わりなく』
『―――天に遣える愛しき子供達よ。自由であれ。私はその意思をこそ子として愛し、個として繋ぎます』
『―――不純なる世界に各々の正道を。白き世界で逢いましょう』
『―――――』
神の言ノ葉は、ただ黙々とその場に透き通る。
水面に落ちた水滴による揺らぎがおさまるのを待つように。
天の使い達は静寂を保ち、暫く席を立つ事をしなかった。
②
所変わってここは大聖堂のとある一室。
距離感を誤りそうなほど真っ白なその部屋に、先ほど大聖堂にて神託を受けていた天使達が円卓を囲って座っていた。
皆、静かに座っているが、先ほどの厳かな雰囲気とは違い、どこか柔らかな印象を受ける。
さて、この七人、言わずもがな戒位十躯以上の大天使達なのだが、
面白みも兼ねて戒位を伏せ、ここで簡単に名前と通称をご紹介しよう。
順番は発言順としようか。
すると、一際身長の高い温和そうな男が口を開く。
「えーっと皆さん、これより定期報告を行いますのでね。皆々様の近況を教えて頂ければと思います。ちなみに私は、一から変わりありません」
【一の天使】
『見上 天禄』
「変わりないようで何より。我らも星巡りに実に澱みなし。...あ、縁に変化なしって事ですハイ」
【縁の天使】
『江見塚 〆』
「ワン!!」
【忠義の天使】
『八※』
※柴犬:血統書つき
「ルカはねルカはね! ファンがまた増えたの! だから今度スタジアムでライブしたいな! 偶像は不滅なの!」
【偶像の天使】
『瑠花 留佳』
「...変わりなし」
【悪魔の天使】
『悪道 宗吾』
「はい! 大天使、小廻 めぐる! 定期報告を行います! 流れに変わりありません! 次! 清先輩どうぞ!」
【流転の天使】
『小廻 めぐる』
「ありがとう、めぐるさん。はい、正義に変わりはありません」
【正義の天使】
『正端 清』
以上七躯、この場に揃った大天使達は円滑に定期報告を行う。
察しの通りこの定期報告に大きな意味は無い。
例え、この中の誰かが死んだとしても、各々の報告内容に変化はないだろう。
何故ならこの報告は各々の天使が大天使足りえるかの報告。
自分の正道を歩いているかの報告である。
故にこの大天使たちに変わりはなく代わりはない。
この世界の善性の象徴たちはその普遍を報告する。
そして今回も定期報告後、早々に解散すると思われたその時、
「あ、そうだ。少し良いですか皆さん」
一の天使、見上が口を開く。
「折角皆さん揃っておりますし、少し小耳に挟んで貰いたい事がございます。まぁ、些事ですが」
見上の言葉に、一同は各々少なからずの興味を示す。
定期報告での報告以外の談など例がなかったからだ。
「【メメント・モリ】なんて組織を覚えておいでですか?」