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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第五章「白星ルーザーと急襲アンダーグラウンド」
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『酔いどれたちの賛歌』

前回のあらすじ

本日はお日柄もよく。

 ①


 皆さんお久しぶりッス。


 え? 久しぶりでもない? そうッスか? なんかそう言わなきゃいけない使命感みたいなものに囚われたんスけど? 気のせいッスか?


 まぁ、いいッス。とりあえずこんちわ。ハカセこと葉加瀬芽々花ッス。


 今回はわたしさんが、メメント・モリ初の組織的な作戦。


 メメント・モリ アジト奪還作戦、オペレーション:アヴァンス(作戦名は後付)についての顛末をご報告するッス。


 といっても報告書なんてしっかりしたものでは全然なく。あくまで個人的な興味と記憶の確保の為に私さんが独自で行ったものなのであしからず。



 さて、事の発端は我ら新生メメント・モリが戦闘員、悪道替々氏の一言ッス。


 旧メメント・モリのアジトへの侵攻。


 我らのシャングリラでの拠点の確保とメメント・モリ襲撃の犯人の追及が可能となるこの提案は、まさに一石二鳥。我々は一も二もなく乗っかったッス。


 作戦決行までの猶予を一週間とり、その間に色々あったものの。結果として悪魔四大勢力が一角、悪海組の若頭、國門忠堅氏の力も我々メメント・モリに加わったッス。


 そして戦闘員三人、補助二人の小規模と言うには余りにも小規模なシャングリラ侵攻は幕を開けたッス。


 結果はご存知のとおり、紆余曲折ありましたが、我々は戒位29躯である筋肉の天使、筋頭崇氏を一人も欠ける事無く撃破。オペレーション:アヴァンスは成功に終わったッス。


 その後、悪の神様が降臨して、尾方のオッサンが花火になったりしたッスけど、それで満足した神様は特に言及する事も無く國門忠堅氏に元々の正装と違わぬ能力の権能を譲渡。


 展開についていけない私さん達をポツネンと残し、悪の神様は消えてしまったッス。


 ここから事後処理。


 アジトの状態維持は搦手さんが信頼の置ける部下を使って行うらしいッス。


 まぁ、私さんはまだ搦手さん信頼してないッスけど。


 でもまぁ我々、とにかく手が足りませんのでここは任せるしかないッス。


 そして倒した筋頭氏なんスけど、これタフの塊、昏倒してたはずなのにいつのまにか姿を消していたッス。


 これ立ち上がって第二ラウンド開始とかになってたら只ではすまなかったッスよね...。


 ちな、この事後処理中に國門氏は正式に我々メメント・モリに加入することになったッス。


 なんか色々抱えてる人っぽいのでうだうだ言ってたッスけど、まぁ概ね快諾だったと記憶してるッス。


 以上、これがオペレーション:アヴァンスの概要になるッス。


 その後はご存知のとおり、姫子さんが尾方のオッサンの葬式をするとか突然言い出してぐだぐだしたッス。


 ま、私さんは楽しかったので良かったッスけど。


 さて、事の顛末はこんなところッス。


 かくして我々新生メメント・モリは初の侵攻作戦を見事成功させ、華々しいスタートを飾ったッス。


 我々メメント・モリの今後の活躍に乞うご期待!っと放送開始前の番組の前口上っぽくこの報告を閉めさせて貰うッス。


 ご静聴ありがとうございましたッス。






 これは小さな悪の組織の小さな第一歩。


 しかしその一歩は確かに世界の芯を捉えていた。


 ②


「マぁマぁ~~~~、おかぁわりぃ~~~」


 ここは寂れた商店街のスナック。


 たちの悪い酔っ払い蔓延るサラリーマンの牙城。


 その中で一際たちの悪い酔っ払い方をしている中年の姿があった。


 もったいぶらずに言うとまぁ尾方巻彦である。


 この男、自分の葬式を抜けてスナックに呑みに来ているのである。


 とんでもない奴だ。


 どうでもいいけど、自分の葬式を抜けるってワード二度と使わないだろう。


 スナックのママは溜息して、そして少し微笑みながらカクテルの準備をする。


「どしたのよ尾方ちゃん。なんだか良い事でもあったみたいじゃない?」


 尾方は空になったグラスを傾けながら言う。


「良い事ぉ? ないなぁい。新しい職場のパワハラがすごくてねぇ。悩んどりますぅ」


 ママはグラスに並々とカクテルを入れる。


「そうかしら? そういうことにしとこうかしら。はい、これおかわり」


 どこか引っかかるような言い方に尾方は苦笑いしながらグラスを受け取る。


 そしてそれを飲もうとグラスを持ち上げたとき。


「よ。久しぶり、相変わらずの様でなによりだ」


 隣の席に男が座ってきた。


 年齢は尾方と同じか少し上ぐらいだろうか。


 どこか気だるげなその姿はどこか尾方と同じ空気を感じさせた。


 尾方はグラスを下げ、その姿を確認するとニッと笑う。


「鵜飼さん。ご無沙汰。そっちもお変わりなく」


 鵜飼と呼ばれた男はスナックのママに挨拶すると酒を頼み尾方に再度向き直る。


「嘘付け、聞いてるぞ。また組織に所属したんだってな」


「あら耳が早い、情報屋でも兼業しだしたの?」


 そこまで言うと尾方はさっき呑み損ねた一口を煽る。


「なぁに言ってんだ。俺が兼業なんて器用な真似出来るわけねぇだろ。風の噂で聞いたのさ」


「風の噂ねぇ…」


 頼んだグラスを受け取る鵜飼に尾方は疑惑の眼差しを向ける。


 鵜飼は何処吹く風とグラスを煽る。


「まぁ、いいけど。酒の席でやる話題でもないしね」


「そりゃそうだ。酔っ払いが二人、世間情勢でも語って無難に過ごすに限るよ」


「鵜飼さんいま来たばっかりでしょ」


「酒の回りの早さには自身があるんだ」


 そういう鵜飼の顔は既に赤みを帯びている。


「あらほんと、そういう人って抜けるのも早いって言うよね?」


「あれ嘘。俺一晩寝たのに警察に世話になったことあるもん」


「酒気帯び運転?」


「いんや、寝てた場所が役所の前だっただけ」


「あんまり迷惑かけなさんな?」


 中身が無い。


 会話にあまりにも中身が無い。


 酒の力の前では人間は所詮動物に過ぎないと痛感させられる。


 脊髄で喋らないで。


 すると鵜飼は少し間を置いて、憂いを帯びた顔でグラスを揺らす。


「いや、でも俺は安心したよ。お前さん。前の組織の事、ずっと引きずってたもんな。どういう心境の変化があったにしろ。前に進めたようでなによりだ」


「え...? あ、いやぁ~...」


 尾方は一瞬感じ入ったような表情をしたが、なにかに気づいたように気まずそうに苦笑いをする。


「ああっと...鵜飼さん実は―――」


 その時、


「ああ! 尾方ァ! やっぱりここに居ったか! 捜したんじゃぞ!」


 いつかの時のようなスナックに相応しくない甲高い声が割って入ってきた。


「げげ!? ヒメ!」


 尾方は逃げ場を探す様に視線を動かして罰の悪そうな顔をする。


 姫子はヅカヅカと大股で尾方に近寄ると尾方の手をむんずと掴む。


「逃がさんぞ尾方! 葬式は兎も角! この後、新生メメント・モリの定例会があるのじゃ! お主がおらんと始まらんじゃろ!」


 姫子は四の五の言わさない勢いでその手を引っ張り、尾方はされるがままに引きづられていく。


「あ...待...、ママ! つけといて! 鵜飼さん! また今度!」


 静寂に包まれるカウンター。


 嵐の様に過ぎ去っていった尾方と少女を、鵜飼はポカーンと間抜けに口を空けて観ていた。


 しかし、暫くして


「...はは、なんだよ。進んでねーじゃん」


 笑いながらそう呟くと、


 どこか満足げにグラスを傾けた。




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