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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル」
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『自幽』

前回のあらすじ

筋肉とくんずもつれつ


「なんてムチャクチャな!」


ところ変わってこちらはドローンによる観戦組、葉加瀬と姫子。


尾方に隠れててと言われ、通路から戦いの様子を見守っていた二人だったが、戦いの舞台が吹き飛んで置いてけぼりになっていた。


慌ててドローンで後を追う。


「葉加瀬! 葉加瀬! あっちじゃ! ビルが...折れとる!?」


「もう何でもありッスね...規模が桁違いッスよ...」


遠目にみてもその戦闘の規模は明らかだった。


葉加瀬は不安そうに言う。


「おっさん達、大丈夫なんスかね...この戦い、勝ち目はあるんスかね...」


「大丈夫じゃ、尾方がそう言った以上、ワシは信じる。信じきる」


姫子は震える手をもう片方の手で抑えながら言う。


「そ、そうッスね...でも、私さんが心配な点はもう一点ありまして...」


「うん? 心配? なにかあるのかのハカセ?」


姫子が不思議そうに尋ねると葉加瀬はおどおどしながら言う。


「はい...時間がなくて仕方がなかったとは言え、おっさんの義手にもう一人の私さんを入れたのはちょっと...軽率だったッス」


葉加瀬は部屋に置かれたブラウン管テレビを横目で見ながら言う。


「戦況が緊迫して、もしもの事があったら、私さんなら『アレ』をやりかねない...いや、私さんが私さんである以上きっと使うッス」


「ふむ? アレ? それを使われるとなにか不味いのかの?」


葉加瀬は頭を抱える。


「まず...くはないッス...むしろおっさん達にとっては起死回生の一矢になるかも...」


そこで葉加瀬は一度口を噤む。


「でも...『アレ』がなにかが分からない以上、私さんが私さんであっても、それにきっと頼るべきではないんスよ」


「―――ハカセそれは」


その時、一際大きな破裂音のような音が向っている方角から聞こえて来た。


その後、少し送れて衝撃波がドローンを襲い、カメラが揺れる。


「今のは...!?」


葉加瀬が慌ててドローンの体勢を整える。


「尾方は!? 尾方達は無事か!?」


姫子が身を乗り出す。


葉加瀬はモニターに素早く目を走らせる。


「これは―――」


葉加瀬は目を丸くする。


「おっさん以外...そんな...」


それはそれぞれに持たせていた通信機兼発信機のモニタリング画面。


そこには尾方を除いて、LOSTの文字が並んでいた。





「難儀な体じゃの。尾方の」


巨大なクレーターの中央、筋肉の天使はゆっくりと体勢を起こす。


クレーターの中央より少し外れ。そこに立つもう一つの影がゆらりと揺れる。


その影、尾方は頭を掻いて煙を上げる義手を不思議そうな目で眺めている。


「いや、今回のは僕の権能うんぬんじゃなくて...いや、いいやよく分かんないし」


尾方は動かなくなった義手をガチンっと外して側に置く。


筋頭は肩を回して尾方の方に向き直る。


「さて、後はお主一人になったわけだが、どうする?」


その言葉を受けて、尾方は軽く視線だけで周りを見回す。


瓦礫の中に替々、搦手、國門の姿を認める。


皆、ピクリとも動かない。


それでも尾方は、息を整え、片腕で構えをとる。


「どうするもこうするもないでしょ筋頭さん。天使と悪魔だよ?」


「...その前に人と人じゃ。正直、お主を殴るのは、存外しんどい」


その言葉を受けて、尾方は少し寂しそうな顔をする。


しかし、構えを解く事はない。


「...仕様のないのう」


筋頭は尾方に向って歩を進める。


そして尾方の間合いに入った瞬間、


先に動いた尾方が強烈な勢いで弾き飛ばされた。


空高く打ち上げられた尾方は受身もとれずに地面に叩きつけられる。


完全に静止した尾方は、数秒後に何事もなかった様にムクリと起き上がった。


それを見て筋頭は言う。


「完全に絶命してからの生き返り...と言ったところか。とんでもない権能じゃのう」


「そんな上等なもんじゃないですよ。もっと僕のは情けない感じのやつです。これホント」


尾方は砂埃を払いながら事も無げに言う。


「悪魔か。言い得て妙じゃな。そこまで自分の生を捻じ曲げられてまで、なにを得ようと言うんじゃ」


尾方の目つきが少し鋭くなる。


「得ようってんじゃない。天使でいて喪うのが嫌だったんだ。貴方なら分かるでしょう?」


「......」


筋頭は口を閉ざす。


「この手の議論は何処まで行っても平行線だよ筋頭さん。ほら、お仕事しなきゃ」


「そうさな、問答は埒もなし。わしはわしらしく腕っ節でどうにかするしかないわなぁ」


筋頭はその場で腕を素振りをする。


尾方は軽くその場でジャンプすると、地面を強く蹴り、前方に大きく跳躍する。


筋頭はそれに悠々と一歩を踏み出す事で応えた。




そこから先は圧倒的の一言に尽きた。


無数の命を持って挑む尾方を、筋頭は腕の一本で完封する。


何度絶命しても怯む事のない悪魔と、何度殴られても微動だにしない天使。


もはやクレーターの中に尾方が出現出来ない場所がなくなって来た頃。


尾方には疲労の色が見え初めていた。


身体に傷はないが、その顔色は見る見るうちに血の気を失っていた。


その姿を見て、筋頭が不意に口を開く。


「最後にもう一つだけ問うが、諦めるつもりはないか?」


尾方はスッと目を閉じて、だらんと気だるげに天を仰ぐ。


「『諦める』か...生憎だけど筋頭さん。僕の一生は毎回、ご覧のとおり惨めで情けないものだけれども...」


屈折の悪魔は、脱力した片腕で宙をスッと掴む。


「それだけはナシだと決めている」


()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()


その手には、純白の羽が一枚握られていた。


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