『デスルーラ』
前回のあらすじ
あ、そのコイン、弐枚田のです。
①
時は戻ってスタジアム中央。
胸を貫かれて絶命した尾方は、いつもの通りピンピンしていた。
「やはり侮れんのう悪魔。人の生死についても弄くれるんかいな」
「目一杯侮ってくださいよ天使さん。もう二回も勝ってる相手なんだから」
苦い顔をする筋頭とヘラヘラする尾方。
勝敗に対してその反応は違っていた。
「さ、國門少年、選手交代だ。ここからはおじさんが負けてあげるから安心して休んでなさい」
「...なにを...馬鹿いうが...俺は......」
そこまで言うと國門は意識を失う。
尾方はそれを何処か優しげに見届けると、筋頭の方に向き直った。
「今聴いてた通り選手です。異議とかあります?」
「ないのう。天使が悪魔を倒すのに異議はなかろう」
「へぇ、ちなみに意義はあるんです?」
「口喧嘩はすかん」
筋頭は話を切って自身の拳をぶつけて重い音を鳴らす。
「さいですか」
尾方はトントンと靴を地面にぶつけて軽い音を鳴らす。
「戒位二十九躯 筋肉の天使、筋頭 崇」
「メメント・モリ戦闘員 屈折の悪魔、尾方 巻彦」
再度の名乗り合い。
万に一つも次はない事を、お互いに理解していた。
尾方がゆるりと一歩を踏み出す。
その一歩が終わるか終わらないかの刹那。
音もなく筋頭の拳は再度尾方の胸を貫いていた。
ドンッッ!!! と音が少し送れて事実を尾方に叩きつける。
尾方の四肢から力が抜ける。
「尾方の。わしは思ったんだが、さっきと違ってこの腕をお主から引き抜かなかった場合、生き返っては死ぬのかのう?」
尾方は血を吐く口で答える。
「...いいえ......」
尾方の全身から力が抜け、絶命した瞬間。
その場から尾方の姿が消失した。
筋頭が呆気にとられた一瞬。
その頭を後ろから思いっきり蹴り抜いたのは尾方巻彦で間違いなかった。
「生き返っては蹴ります」
②
「デスルーラ?」
姫子は素っ頓狂な声を上げる。
時は少し戻ってスタジアム前の廊下。
尾方は、話があると姫子に言うと、自分の権能について詳しく語り始めた。
「そ、面倒だからおじさんはそう呼んでる。僕の権能のオマケ的な能力かな」
尾方はあっけらかんに説明する。
「えーっとつまり、尾方のおっさんは自分が一度死んだところであれば何処からでも生き返る事が出来るって事ッスか?」
葉加瀬が尾方の説明を分かりやすく纏める。
「大体そういう事で間違いないよ。まぁ正しくは何処からでも始められるだけどね」
尾方は視線を少し下に向けながら言う。
「はぇー、なんと言うか。使いようによってはかなり強力な権能ッスね」
「うむ、ほらの! やはり尾方はすごいのじゃ!」
ドローンの向こうはワイワイと盛り上がっている。
尾方はいつもの苦笑い。
「ところで、なんで急に自身の権能の話を? 今まで頑なに話を逸らして来たじゃないッスか?」
尾方は頬の辺りをポリポリと掻きながら言う。
「ケジメ...かな。おじさんが話せる出来るだけの事を誠意として話しておきたいんだ。今からの戦いで使う事にはなるだろうしね」
そして替々、搦手の方を向く。
「そして把握してもらうためだ。そっちの情報を全部開示して貰う必要はないけど、僕の話す情報を持って、出来れば利用して欲しい」
尾方の言葉に、替々はやれやれと首を振り。
搦手は感心したように口笛を吹く。
「我が弟子なのに...どうも根本が似ないなーこれなー。いやまぁいいんだけどね。重々承知したよ」
「いいわね尾方ちゃん♪ そういうの好きよ私!」
二人の反応に尾方は満足そうに微笑む。
「この戦い、僕はこの権能を惜しげもなく使う。しかしそれに二人の力を合わせても勝利が絶望的なのは言うまでもない。師匠の権能は天敵足りえるけど、悪魔の身体能力じゃそもそも近づく=死だからね」
「うん、私もそう思うよ。触れればどうにかなるかもだが、少なくとも単体で私が近づくなんて無理も無理だね」
替々は心底同意するようにうんうんと頷く。
「そ、そこまでに強いのか筋肉の天使は...」
「一回戦ったから分かるけど、おじさんがちょっと瞬間移動出来る様になったからって、埋まる差じゃないよ」
尾方は乾いた笑いを上げながら言う。
「しかし、だとしたら後どうすればよいのか...」
「...例えば、少なくとも同じ土俵に立っているものがいれば、最低限気を反らせるかも知れない」
「そりゃあ、そうじゃろうが...それでも並の天使など束になっても厳しい相手なのじゃろう?」
なにを言うのかと姫子は疑問をそのまま言う。
「...じゃあ例えば、その天使が、何度負けても生き返り、瞬間移動さえするとすればどうだろう?」
「そりゃあ...それは...いや、尾方? それはどういう...?」
姫子声が動揺の色を見せる。
「そういう天使が居たとしてさ。ヒメ、そいつを味方に数えてくれる?」
尾方は先ほど四枚に斬ったコインを手の平に広げ、笑顔でそう言った。