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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル」
53/175

『物証』

前回のあらすじ

中年、独り言が多い

 ①


 再びところ変わってここはドーム。


 広いドームの中央に、二つの影が相対していた。


 片や戒位二十九躯『筋肉の天使』筋頭 崇(すじがしら たかし)


 片や悪海組若頭『不屈の悪魔』國門 忠堅(くにかど ただかた)


 二つの影は、一定の距離を保って動かない。


 二人は構えを解いて、実に自然体で相対しあっていた。


 沈黙を破り、まず國門が口を開く。


「おじき...」


 その言葉を受け、筋頭も口を開く。


「まだそう呼んでくれるんか。察しのいいお前のことじゃ。ワシがここに居る理由、自分の立場、諸々もう気づいとるんじゃろ?」


 筋頭の言葉には、どこか申し訳なさのようなものが混じっているのが分かる。


 その言葉を受け、少しの間を置いて國門は頷く。


「はい、自分ももう聞き分けの無い子供じゃありません。それに、俺だってソレをやって来た側の人間だ。往生際の悪い事はしません。ただ――」


 そこで國門は言葉を詰まらせたが、意を決したように続ける。


「ただ一つだけ教えて欲しい。俺は、『()()()()()()()』のか、それとも『()()()()()』のか」


 その言葉に、筋頭は目を瞑り沈黙する。


 そして暫くの後、ゆっくり目を開き言う。


「お上は、計画の段階が速まったためと言っておる。だがワシは、最初からそのつもりだったのではないかと思っちょる。つまりおぬしは、『()()()()()()()』のだ」


 國門は、その言葉を受け目を見開いたが、少しして思い返したように大きく深呼吸をする。


「そうですか...だとしたら俺は」


 國門は筋頭に向かって構えをとる。


「往生際悪く足掻いて見せます。俺は、真の意味で、悪海組若頭、國門 忠堅であれるのだから」


 筋頭は、痛恨の表情をしたが、すぐに國門に応えて構えをとる。


「後悔はない。といったら嘘になるが、せめてこの戦いには悔恨を残さない様にしたいものじゃのう」


 二人の間に再び沈黙が落ちる。


 それは先ほどのように探る様な沈黙ではなく、これから始まる嵐の前の静けさであった。


「不屈の悪魔!! 悪海組若頭、國門 忠堅!!!」


「筋肉の天使!! 戒位二十九位、筋頭 崇!!!」


「「勝負!!!!」」


 二人は音を置いていく速度で地面を蹴り、ドームの中央にて激突した。



 ②


 またまたところ変わってこちら中年サイド。


 大広間をモーセの如く横断した尾方は、追撃も逃れ一直線にアジトを奥へと進んでいた。


『結局さっきの大広間の一件はなんだったんスか? 部屋が真ん中からズッパーンって? おっさんがやったんスか?』


「いやいやメメカちゃん、おじさんがあんな人間離れした事出来るわけないじゃない?」


『尾方は既に悪魔であるから人からは離れておるがの!』


「...悪魔離れ?」


『悪魔からさえ離れちゃったらもうそれなんなんスか...』


『天使じゃないかの? 彼奴らおっかないし』


『姫子さんにとって天使ってそんなに人から離れてるんスね...』


 一行はのんきであった。


 戦場でなにを与太話をしているのだろう。緊張感が足りてないと思う。


 しかもそうこうしている内に、目的地のボスの部屋まで難となしに辿り着いてしまったので始末に置けない。


 大扉の前で、尾方は立ち止まる。


「ここだよ二人とも、ここがオヤジ...メメント・モリの頭領、悪道総司の部屋だ」


『ここが、おじじ様の...』


 姫子は緊張しているように声を抑える。


『見るに電子ロックがあるッスよ。おっさん解除出来るんスか?』


 葉加瀬の言うとおり、扉の横にはセキュリティと思われる端末の画面が貼り付けられていた。


 尾方が端末の前に立つ。


「大丈夫、これ声紋認証だから、難しいパスワードとかおじさん覚えられないし」


 そういうと尾方は端末に触れて言葉を発する。


「オヤジ、尾方です。お待たせしました」


【ガコンッ】


 尾方の声に反応して、扉が開錠の音を響かせる。


『おお、本当に開いたぞ! 流石は尾方じゃな!』


「いや、登録されてる人なら誰でも出来るってこれ」


『でも登録されてるって事が凄くないッスか? 私さんの両親だって自由にボスの部屋に出入り出来ないって言ってたッスよ?』


「...それはまぁ、今回は取り合えず開いたんだからいいじゃない? まずは急いで中を確認しなきゃ」


 尾方は話を雑に逸らして扉に手をかける。


「よし、じゃあ行こうか」


 ここに組織壊滅のヒントがあるかは分からない。


 しかし、一向には得も言われぬ緊張感が走っていた。


【ガチャ】


 尾方は扉を開きその先を注視する。


 しかし、


「は?」


『ん?』


『え?』


 そこには、《()()()()()()()


 扉を開くとその向こうは無機質な壁で埋められており、部屋らしきものは見当たらなかった。


『...尾方、どういうことじゃこれは? ああ、まだ開錠すべき鍵があるのかの?』


「...え? いや...?」


 勿論、その状況に姫子も葉加瀬も動揺していたが、それ以上に尾方は動揺している様子だった。


 いや、それは焦燥とも見てとれた。


『尾方?』


 姫子の声を聞いて尾方は我に帰る。


「...間違いなくここにオヤジの部屋があった。それは間違いない。...ちょっと失礼」


 尾方はそう言うと扉から少し距離を置く。


『おっさん?』


 尾方は地面を蹴りだし、扉の向こうの壁を全力で蹴る。


【ボグッッッッ!!!】


 壁は無機質な悲鳴をあげ、天井までひびを走らせる。


 パラパラと天井から欠片が落ちる中、尾方は一息ついて言う。


「薄い壁を作って隠してるってわけじゃなさそうだなぁ」


 尾方は頭を抱えて考え込むが、通信機の向こうの二人はもっと違う部分に疑問が増えていた。


『(さり気なくやったけどなんだ今の蹴り...!?)』


『お、おっさん...? 今のは...?』


 葉加瀬が流石に追求しようとしたその時、


【カツン...カツン...】


 廊下の奥の方から高い音の足音が近づいているのに三人は気づいた。


 尾方は考えるのを止め、廊下の置くから近づいてくる影を注視する。


 そして廊下の淡い光に照らされて姿を表したのは、尾方には少し見覚えのある。


「やっと会えたわね尾方ちゃん。暫くねん♪」


 手中の悪魔、搦手 収(からめて おさむ)の姿だった。

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