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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル」
46/175

『屈折の悪魔vs筋肉の天使』

前回のあらすじ

中年、帰郷

 ①


 旧メメント・モリ、アジト。


 それは神宿の端にある巨大なドーム上の建物を土台に建築された悪魔が誇る大アジトである。


 その施設の殆どは地下に張り巡らされており、その全貌は明らかにされていない。


 正に悪魔側の持つ最大の秘密基地であった。



 そして今宵、そんなドームの入り口に立つ人影が三つ。


 月はそれを、雲の隙間から眺めていた。


「で、國門君、その兵隊というのはどこに居るのかな?」


 アジトの入り口まで着た一行は、そこで國門忠堅の招集した部下たちと合流する予定だった。


 しかし、そこには誰の姿も見えなかった。


「どうゆうこつじゃこりゃ...」


 國門は動揺を隠せずに周りを見渡している。


『どうしたんじゃ尾方? 状況を説明せい』


 OGフォンから姫子が問いかける。


 すると横から葉加瀬の声が割って入った。


『その必要はないッスよ姫子さん。無論、旧OGフォンの機能は全部網羅してるッスから』


 そう言うやいなやOGフォンは見覚えのあるドローンの形に変形する。


 そして周りの風景を高画質で姫子達に届けた。


『これは...!』


 そう、誰も居ないアジトの入り口は、激しい争いの痕を残していた。


 血痕や抉る様な傷痕、それは尋常ならざる力の存在を示唆している。


『天使か...?』


 不安そうに姫子が囁く。


 それを受け、替々が口を開く。


「この様相だ、可能性は高いだろうね。悪魔同士の抗争の線も拭い切れないが...」


 替々は振り返る。


「尾方はどう思うかね?」


 話を振られた尾方は、アジトの入り口をジッと見つめて微動だにしない。


「尾方...?」


 再度替々が名前を呼ぶと、


「あ、はいはい、なんでしょうか師匠?」


 ふと我に返り替々の方を向いた。


「おやおや大丈夫かい尾方? 戦場で呆けるなんて君らしくもない」


 尾方は申し訳なさそうに頭を下げる。


「面目ない。久々なもんで...ここ...」


「それもそうか。君にとっては因縁の地な訳だものねここは。...も少し感傷に浸って行くかね?」


「ご冗談、もう浸りつくしてふやけてますよ、僕は」


 尾方は失笑しながら数歩前に出て周りをよく観察する。


「天使...っぽくはないですな。どの地面のひび割れも何かをぶつけられた様なものに見える。天使なら思いっきり踏み込むだけで地面がひび割れるからね。こんな大味じゃない」


「と言うと?」


「他の悪の組織からの襲撃。その線が濃いかな」


 すると周りをうろついていた國門が戻ってきて言う。


「どこの組織じゃそんな舐めた真似するのは...!」


「そこまでは流石に...全滅した大組織のアジトが欲しいなんて奴らは、それこそ星の数ほど居るからねー」


 尾方の言葉を受け、國門は屈んで考え込む。


「どこのどいつじゃ一体...まさか...いや、じゃが...」


 ブツブツと呟く國門を尻目に替々が入り口の奥を覗き込む。


「血痕はアジトの奥に続いているね。尾方の読みが正しいなら急いだ方がいいんじゃないかね?」


 替々の言葉に國門はバッと立ち上がる。


「こうしちゃ居れん! 先に行くぞ!」


 そう言うが早いか、國門はアジトの入り口目掛けて駆け出した。


「あ、こら、國門少年! 一緒に行動したほうが良いって!」


 尾方が制止するが國門は構わず駆ける。


 そしてアジトに入ろうとしたその瞬間、


 ドンッッッッ!!!


 途轍もなく大きな何かが落ちたような衝撃と音。


「なんじゃあ!?」


 走っていた國門も足を止める。


 振り向くと、尾方たちの後方に巨大なクレーターが出来ていた。


 一体なにが落ちてきたと言うのか?


 尾方達は、緊張しながらその立ち上がる砂埃をジッと見つめる。


 するとそこに、巨大な影が姿を現した。


 生き物の様なそれは、こちらの様子を覗っているように見える。


 そして――


「おお、こりゃ久しぶりだのう國門」


 巨大な影は土煙の中からフッと消え、尾方達の向こう。國門の目の前に突然巨漢が現れた。


「お――」


 そして國門はその巨漢に腕を掴まれてアジトの中央、ドームの上空高く投げ飛ばされた。


 その姿が一気に豆粒のように小さくなる。


「まぁ、向こうでゆっくり話そうや」


 そう言うと、巨漢はゆるりと尾方たちの方へ振り向いた。


 尾方はその顔を見て深い溜息をする。


「なんで僕の知り合いって揃いも揃って...」


「おう、誰かと思えば尾方のじゃないか。奇遇だのう」


 巨漢は尾方の方を見て二カッと笑う。


 その巨漢は、正端清の旅館の常連にして尾方の顔馴染み。


 筋頭崇【すじがしら たかし】、その人だった。




 ②


『なんじゃ尾方! 知り合いか!?』


 OGフォンから姫子が語りかける。


「うん、少しね...」


 尾方は苦笑するしかなかった。


 そうして巨漢の方に向き直り、口を開く。


「貴方もなんですか筋頭さん...」


 尾方は再度深い溜息を漏らす。


「まぁ、そう言うこともあろうよ尾方の。そう気を落とすな」


 尾方の心情を知ってか知らずか筋頭は快活に笑う。


 尾方は仕方がなさそうに筋頭に声をかける。


「顔馴染みのよしみで教えて欲しいんですけど、ここに来た目的ってなんです?」


「おう、侵攻だ」


 その言葉は、場の空気をピリッとひり付かせた。


「それは...なんとも穏やかじゃないね」


「そうとも、戦争だからのう」


 ビリビリと空気が揺れるような威圧感。


 そこに居るのは既に顔馴染みの男ではなく――


「戒位二十九位、筋肉の天使。筋頭崇」


「メメント・モリ一般戦闘員、屈折の悪魔。尾方巻彦」


 名乗り上げと共に筋頭は筋肉を肥大化させ上半身の服が弾け飛ぶ。


「行くぞ、尾方の!!」


 間合いを踏み躙るように筋頭の巨体が尾方目掛けて飛んで来る。


 大きく振り被った体勢は次の右拳の振り下ろしを告げていた。


 尾方は直前まで肘のプロテクターで受ける姿勢をとっていたが、勢いを見るや否や瞬時にこれを避ける判断に移行。


 出来るだけ身体を半身に捻り、後方に回転しながら飛び退く。


 ドゴッッッ!!!!


 先ほどまで尾方が居た場所にこれまた大きなクレーターが出来た。


 拳圧に吹き飛ばされた尾方は体勢を立て直して着地する。


「師匠! 離れて! 接近戦は不味い!」


 尾方が替々を心配して声を上げるが、その師匠はもうその場にいなかった。


「なにをキョロキョロしとる尾方の。おいとの一騎打ちじゃ不満かいな?」


 筋頭も尾方の事しか見ていないようだ。


「(あの師匠黙って逃げやがった!!)」


 尾方は声にならない声で糾弾する。


 ドゴッッッ!!!


 再度尾方の居た場所に拳が振り下ろされる。


 寸でのところで避けた尾方は離れた場所に着地して苦笑する。


「些か派手過ぎじゃない? も少し色々抑えてさぁ」


 パッパッと砂埃を払う。


「実戦とは鍛えた筋肉の披露宴よ! 抑えるなんて勿体無いこと出来んわい!」


 尾方の真上からその声は聞こえた。


 咄嗟に尾方は肘を上に向ける。


 そこへ筋頭の両拳が降って来る。


 ガキィン!!!!!


 激しい金属音と共にとんでもない衝撃が尾方を襲った。


 全身の骨が悲鳴を上げる。


 そして押し潰されそうになった次の瞬間、


 バチッ! と肘のプロテクターから電流が筋頭へ流れた。


「おう!?」


 突然の衝撃に筋頭は後ろに下がる。


 何が起こったか理解が追いつかない尾方だったが、この好機を逃さず体勢が崩れた筋頭を狙う。


「せい!」


 尾方は筋頭の顔面に飛び後ろ回し蹴りを浴びせる。


 尾方が知っている中で最も力が乗る蹴りだ。


 しかし、蹴った感触がいつもと違いすぎる。


 蹴り抜いた筈なのに、蹴り抜ける距離なのに。


「狙いは良いが筋肉不足だのう尾方の」


 筋頭は顔面で蹴りを受け止めていた。


 その表情筋で、その首で、衝撃は完全に殺されていた。


「あ、不味い――」


 尾方が足を引くより速く、筋頭は尾方の足を掴み軽く放る。


 その挙動は、本当に軽くであったが、尾方は宙に回転をつけて投げ出される。


 遠心力で体勢を立て直すことも出来ない。


「さて、尾方の。すまんな」


 筋頭はそう言うと、右肩を左手で押さえ、右手を横に伸ばす。


「断頭ラリアット!!」


 その鉤手は、的確に回る尾方の首を捉え、尾方の体から、綺麗に首だけが弾け飛んだ。


 尾方は刹那。


「謝ることないですよ」と言ったが、その音が震わせる喉はもうなかった。



『屈折の悪魔vs筋肉の天使』END

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