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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第四章「隻腕アヴェンジャーと奪還キャッスル」
42/175

『事の始まり』

前回のあらすじ

中年、ハートキャッチ


 ①


 思うに僕の人生は、引き算で前に進んできた。


 勿論、引かれる事に無抵抗だった訳ではない。


 抗って、でも引かれて。


 逆らって、でも引かれて。


 そして、引かれる度に僕は、引かれたモノを忘れるように、惹かれたモノを忘れるように、前へ前へ進んでいった。


 辛くなかったのかって?


 辛くて堪らなかったさ。


 諦めようとなんども思ったさ。


 でも、そんな僕をいつも引き止めてくれたのは、僕の人生にたまに訪れる。


 些細な足し算だった。


 毎度毎度、失ったものに比べて些細と言わざるを得ない足し算だったが、


 確かにそれらは、僕に引かれたもの以上の価値を感じさせた。


 僕は折れなかったんじゃない。


 僕は諦めなかったんじゃない。


 僕は、都合よく何度も救われただけに過ぎない。


 だから僕は、恩返しがしたかった。


 誰かのなにかになりたかった。


 それが出来るまでは諦めるわけには行かなかった。


 例えそれが――




 いつでも諦める事が出来る人生であっても。




 ②


 時は尾方宅が正端清に襲撃されてより一日。


 場所は悪道姫子宅。


 新生メメント・モリ一同+部外者一名は、暫定作戦会議室である居間に集まっていた。


 そも、今回のメンバー召集理由は、


 前回、話し合いの結果延期になった。旧メメント・モリアジト奪還作戦の詳細な打ち合わせであったのだが、尾方が召集時間に血だらけの服で登場し、なんか知らない男も連れていたので、そうもいかなくなった。


 姫子の一存で、一旦この場は、尾方に言及する会となっていた。


 居間には沈黙が続いている。


 どこから聴いたものかとメンバー全員はジッと尾方を見ている。


 しかし当の尾方が欠伸をしながらムニャムニャしているので、どこか緊張感に欠ける微妙な空気になっていた。


 意を決して、新生メメント・モリ技術提供協力者、葉加瀬芽々花が口火を切る。


「おっさん...色々聴きたい事はあるんスけど。まず、その隣に居る誰かさんは誰さんッスか?」


 とりあえず目の前の疑問から投げかける事にした葉加瀬に、全員(國門含む)が頷く。


「ああ、ごめんごめん。紹介がまだだったね。彼は國門忠堅。悪海組の若頭だよ」


 紹介され、國門は頭を下げて挨拶をする。


「悪海組若頭の國門ちゅうもんじゃ。色々あって少しこの男に同行しちょる。よろしゅう」


 一同にどよめきが起こる。


 それはそうだ。


 噂の悪海組の若頭である。


 経緯が全く見えないのだ。


 流石にこれには姫子が口を挟む。


「尾方? 詳しく頼めるかの? ワシにはなにがなんだか...」


 いつものメモ帳を片手に目を回している姫子。


 尾方は苦笑して、昨夜起こった事について説明し始めた。


 途中、襲撃者正端清について誤魔化そうとしたが、國門に咎められ仕方なく包み隠さず話した。


 話の内容を聞いた一堂は皆、驚き、沈んだ表情を見せる。


「そうッスか...清さんが...」


 葉加瀬は痛恨そうに顔を傾ける。


「清......」


 それは姫子も同じだった。


「え? あの子? 天使? 戒位三位...?」


 壮絶な冷や汗をかく替々。


 若干温度差があったが、一同沈んでいる。


 慌てて尾方がフォローに入る。


「いや、キヨちゃんと言うか。悪アレルギー発生中のキヨちゃんだから。前も一回有った事だしさぁ」


 すると姫子が恐る恐る言う。


「して、その清はどうしたのじゃ? 前みたいにど心配して病院にはいかなんだか?」


「それは...」


 尾方は、苦笑して「あはは...」と笑う。


 見かねて隣から國門が言う。


「件の天使ならハッと目に光が戻ったと思うたら、顔を真っ青にしてその場から消えよったぞ」


 その言葉に、女子組は更に顔を暗くする。


 一同の間に沈黙が続いた。。


 その様子に、ベテランである替々がパンパンと手を叩き言う。


「はいはい皆の衆、私情はどうであれ、まずは機械的に現況の整理が必要だ。冷静に考えて見給え、我々はなんの被害も被ってないぞ」


 替々の言葉に、姫子が少し顔を上げる。


「大叔父様...?」


 替々はニッと笑う。


「戦力の話さ。尾方戦闘員、無傷。私、無傷。更に話を聞くに、國門君も戦力に数えられそうだ。状況は悪くなっていない。いや、寧ろ良くなっているとさえ言えるだろう。うん」


 替々は続けて語る。


「つまり、前回話していた旧メメント・モリのアジトの奪還作戦。大いに遂行可能という事だよ。元々はその為に集まったんだ。そこについて話さないと集まった意味もなかろうって話さ」


 替々の話は、ともすれば冷酷に感じられるものだったが、一同はその話の真意を汲んだ。


 そう、組織で立ち回る上での話である。いつまでも一個人に拘ってはいられないのだ。


 姫子が口を開く。


「そうじゃな。そうじゃ。今は尾方の無事を祝い、組織を前に進めるべきじゃな。有り難う御座います大叔父様」


 替々は姫子のお礼にウィンクで返す。


 姫子は自分を納得させるように一度「うむ」と頷くと、目線を前に向ける。


「色々あったが、今日は皆良くぞ集まってくれた。これより第三回メメント・モリ運営会議を開始する」


 姫子の言葉に、一同は視線を前に向けた。


 これから始まるのは、物語の始まりに語ったシャングリラを騒がせる大騒動。


 その発端として語られる一騒動である。



『事の始まり』END

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