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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ」
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『taboo』

前回のあらすじ

中年宅、敷金返上ならず

 ①


「なんだお前、そっち(尾方)系の悪魔だったのか。 応急処置は不要だったな」


 横で崩れ落ちている尾方を意にも介さず、加治医師は「ほう」と関心しながら言う。


 傷だらけの床に立つ國門は、加治医師の方に向き直り、いやいやと首を振る。


「いや、それはちゃうぞ先生。立つ気力も無しに、なんとでもなるそこのペテン師とは違う。俺の権能は、自分で立つことが肝要なんよ。無駄ではにゃあ」


 再度、國門は深々と加治医師に頭を下げた。


 加治医師は「そうか」と納得するように頷く。


 すると、フラフラと尾方が立ち上がる。


「どうでもいいけど元気になったなら出てってよ。少年もおじさんに用なんてないでしょ?」


 國門は今度は尾方のほうに向き直る。


「そうもいかん。不本意とはいえお前に恩が出来た。返さにゃいかん」


 尾方は心底嫌そうな顔をする。


 その目は床の傷跡を見ていた。


「怨じゃなくて? これ以上部屋を壊さないんだったらなんでもいいよもう...」


 中年は拗ねていた。


「よかない、なんか言えやこん野郎」


「えぇ...おじさんがお願い出来る側なんだよねこれ? なんか脅迫されてない?」


 尾方は溜息をして、「この部屋から出て行け」と言おうと思ったが、


 中年の中に微かに芽生えた組織の人間としての自覚が、次の質問に繋がった。


「いや、だったら...あの日の事について教えてよ」


「あの日の事?」


 國門はなんのことかと首を傾げる。


 尾方は、今は無き左手の根元を押さえながら続ける。


「今から約一週間前、悪海組が崩壊した日の出来事を、さ」



 ②


 その日、基地周辺、不治ノ樹海にて天使の偵察部隊が目撃されたとの報告を受けた。


 俺は、速やかに部隊を整え、樹海の中央へ中央へ歩を進めた。


 俺には自負があった。


 それは、誰よりも長く最前線に立ち続けた故の自負。


 それは、誰よりも永く最前線を進み続けた故の自負。


『俺より後ろに犠牲者は出さない』


 これは確定事項であり、誇りでもあった。


 今日もそれが揺らぐ事はない。


 明日も明後日も、これからもずっと。


 そう、信じて止まなかった俺の前に、其れは突如として顕れた。


 眩いまでの光を纏い、おぼろげなままの光を発し、


 天より澱たる其れは、


 俺は其れを、天使だと思った―――



「部隊がざわめいたと思ったら次の瞬間には、俺を除く『周囲全部の部隊』がほぼ同時に真っ二つにされ

ちょった」


 國門は、静かに目を閉じて、あくまで冷静に件の日の事件を語った。


 しかしその拳は、強く握られ、震えていた。


「成程な、お前はその権能ゆえ、唯一生き残ったという事か」


 いつの間にか話を聴いていた加治医師が横から言う。


「そうじゃ、気づけば前にも後ろにも犠牲者だらけ、俺はすっかり意気消沈したよ...」


 一連の話を黙って聴いていた尾方は、スゥッと目を開いて言う。


「おかしい...」


「尾方...間食は控えろ」


 加治医師の有難い忠言。


「なんでみんな僕が『おかしい...』って言ったら『お菓子ぃ...』って取るの!? そんなお菓子中毒者みたいに見える!?」


「なにが可笑しいがじゃ尾方!! 俺ら笑うたら承知せんぞ!!」


「これ。これが正しい。取り間違えるならこう取り間違えて」


「なんじゃあ気色悪い!!」


「気色に不調か? 座れ、診てやる」


 あっという間にワチャワチャする一行。


 もっとスムーズに会話出来ないのかこの悪魔達は...あと今回は医者が悪い。


 尾方が「待った待った」と一同に静聴を促す。


 二人が静かになるまで五分を要した。


 尾方が校長先生ならお冠だ。


「君達、もういい歳なんだから...少しは落ち着きを持ちなさいよ」


 二人に正座させて尾方は呆れた様子で言う。


 尾方校長はお冠だった。


「それで尾方、なにがおかしいんだ?」


 説教など毛ほども気にせず加治医師が質問する。


「國門少年が言う事が本当なら、國門少年が生き残っているのがおかしいんだよ。僕は件の天使の正装を知ってる」


「な...!?」


 尾方の発言に、國門は驚きを隠せない様子であった。


 そして直ぐに尾方に問い詰める。


「あいつを知っちょるのか!? ありゃ何者じゃ!? なんで俺が生き残っとるのがおかしい!?」


「ちょちょ、待って待ってててて」


 尾方は肩を持って前後に揺さぶられ、首をガクンガクン揺らされる。


「落ち着け國門、なにも尾方は教えないとは言ってない」


 加治医師に促され、國門はハッと肩を離す。


 解放された尾方はふぅっと一息付く。


「教えてもいいけど、その前に國門少年。君、僕達になにか隠してるよね?」


「...なんの話じゃ?」


 國門は、敵意を隠さずに言う。


「いや、これは天使の正装にも関わる話なんだよ。話せば否応にもなく君は説明しないといけなくなる。それでもいいかい?」


「...上等じゃ。アイツの事が知れるなら関係あるかい」


 尾方の質問に、國門は覚悟を決めたように頷く。


 その返答を貰った尾方は、こちらもまた覚悟を決めたように頷く。


「じゃあ、単刀直入に言おうか。あの天使は、戒位―――」


 尾方がその言葉を言うまでコンマ何秒かのその時、


 ザン!!!!!


 國門の足元に、再度無数の裂けるような傷が出現した。


 その衝撃と突拍子の無さに目を丸くする國門と加治医師。


 一方尾方は、瞬間姿勢を低くし、玄関を細切れに斬って現れた、その見覚えがある襲撃者を見据えていた。




 ③


 ザン!!!!!


 尾方は衝撃と共に姿勢を低くして思考していた。


 狙ったようなタイミング、衝撃の正体、その目的。


 それぞれの疑問に仮説を立てる。


 タイミング、実際に狙ったのだこのタイミングを。


 衝撃、先ほど体感した衝撃と全く同じ。


 目的、僕の話を遮ること。


 そして仮説を元に尾方は玄関の方を見て答え合わせをする。


 斬り刻まれた玄関の扉の隙間から、和服の少女の姿が垣間見えた。


 尾方の解はこうだ。


 天使は、件の天使の話をされたくない。


 執行者たる清が襲撃し、まずは國門を斬ったのだ。


「成程だよね!」


 尾方は玄関に向かって壁を使い三角跳びをし、刻まれた扉をキヨに向かって蹴り飛ばす。


 その扉の破片は、清の身体をすり抜けた。


「ああ、柄触れてからの六秒間ってこっち残像なのね...そう言うのは先に教えとい欲しかったなぁ」


 カンっと尾方は玄関前の手すりに着地する。


 すかさず振り返った尾方は、部屋の方を見る。


 そこには、戒位三躯、正義の天使。正端清の姿があった。


 その目には、光が無い。


「やぁキヨちゃん。帰ったんじゃなかったの? 盗み聴きなんてキヨちゃんらしくないんじゃない?」


 尾方がいつもの様子で語りかけるが、返事が無い。


 その目は、ただ真っ直ぐに尾方に向けられていた。


「これがそうか...アレルギー。修行、もう少しやっておくんだったなぁ」


 カンッと尾方は手すりから降りる。


「さて、やれるだけやってみますか」


 尾方は構えをとろうとしたその時、


「手前!!」


 國門が清に殴りかかった。


 ガッ!


 清はその拳を、一瞥もする事無く刀の柄で受け止める。


 ギリギリと精一杯の力を入れ、拳を振るわせる國門だったが、


 清の身体はピタリと止まってビクともしなかった。


「またおまんか!! 俺になんの恨みがあるんじゃ!」


 清に向かって國門は怒鳴る。


 その様子を見た尾方が、ハッと國門に叫ぶ。


「國門少年! 『柄に触れてる』! 下がって!」


 尾方は叫ぶが早いかその瞬間。


 ドンッ!!


 大きな衝撃音と共に、國門の足元の床が弾け跳び、一階が露わになる。


 瞬間一階に落ちる國門の首を清が掴んだ。


「ぐっ...ッ! てめ...ぇぇ...」


 ギリギリと清の手に力が入る。


 國門も抵抗しているが、まるで歯が立たない。


 慌てて尾方が清を挑発する。


「いいのキヨちゃん僕を放っておいて? 言っちゃうよ? 件の天使の戒位は――」


 ブン!!!


 清は持っていた國門を尾方に向かって片手で軽々と投げる。


 その勢いは、高所からの自由落下を國門に思わせた。


 ガキャ!!! と鉄が曲がる鈍く重い音が辺りに響く。


 國門が手すりに叩きつけられた音。


 重症免れないと思われた國門であったが、


 しかしなんとか、足から手すりに着地していた。


 結果、衝撃を被った手すりは激しくひしゃげて、落ちていく。


「大丈夫かい國門少年?」


「なんとかのう。あとすまん。部屋はもう壊さん約束じゃったのに」


 律儀に謝る國門に、尾方は苦笑する。


「でも確かに、ここで戦うのは色々拙い、もう敷金が諦めたけど被害者が出かねない。そんなこと―」


 キヨちゃんは望まないはずだ。と、その言葉は呑み込み、尾方は清を見据える。


「こっちだキヨちゃん! いつもの所でやろう!」


 尾方は言うと同時に地面を蹴り、いつも清と話すアパート前の道に飛び込んだ。


 そして尾方が着地の態勢に入ったその時、


 自分の両足の足首から先が無くなっていることに気づいた。


 いつ斬られた!?


 尾方は慌てて右手で着地をする。


 当然体勢を崩したが、衝撃を肩で受け流しながら前転する。


 両足は思い出したかのように血を噴出す。


 だが、気にしている場合ではない。


 バッと尾方が前を見ると、


 月明かりを背に、いつもの場所に、いつものように、正端清がそこに立っていた。


「やぁ、キヨちゃん」


 尾方はいつものように語りかける。


 だが、清のその手は、正装【不知火】の柄に触れられていた。


 ドン!!!!!


 尾方の体に途轍もない衝撃が走る。


 重量をそのまま、拳大に小さくなったダンプカーがぶつかった様な。そんな衝撃。


 それは清が、尾方の後ろから、胸の中心を拳で打ち抜いた。その衝撃であった。


 尾方は前方に落ちる、恐らく自分の心臓であろうモノを見る。


 体中が焼けるように熱い。


 息を吸いたいのに溢れ出る血を吐き出すことしか出来ない。




 死の間際、僕はその刹那によく過去を思う。


 僕は死ぬのなんて本当にだいっ嫌いだが、一つだけいい点をあげるとすれば、その瞬間は鮮明に観えるのだ。


 過去が、


 恋焦がれるほどの美しい景色が目の前に観えるのだ。


 思い出に甘えると、僕はたまに表現する。


 思い出とは常に自分に優しく、そして自由である。


 であるが故に僕みたいに弱い人間は、それに縋って生きていく。


 あの時ああすればよかったではなく、


 あの時ああだからよかったと。


 あの時あれをしなければよかったではなく、


 あの時あれをしてよかったと。


 過去を思う。


 過去を想う。




 今は?


 そう、僕はここに来て、今の日々を思い出す。


 過去ではなく、今の。


 この時を、想う。


 優しい夢でも、過去の仲間でもなく。


 今の人々を想う。


 薄れ行く意識の中で僕は想う。




 皆の処に、帰らないと。




 問いの答えは、思い出の中になど無かったのだから。




 『taboo』END


「「次回予告」」


「ワシじゃ! 最近おっさんトリオのせいでメッキリ出番が無い姫子じゃ! オマケになんか微妙に口調が似てるようで似てないヤクザが出て来て危機感を感じておる(作者が)」

「そねー」

「尾方、心ここに在らずといった感じじゃのう」

「実際無いからね今」

「ハートが無くてもソウルを燃やすんじゃ! 尾方!」

「ソウルは体のどこにあるの?」

「さぁ...? 脳かの?」

「じゃあ今稼動してないや」

「喋っておるが?」

「脊髄が頑張ってる」

「尾方は反射で人と会話出来るのか?」

「簡単だよ。相槌打つだけだし。よく師匠も引っかかるよ」

「師匠思いのない奴じゃのう」

「師匠が教えてくれたし」

「自業自得じゃったか」


「「次回」」

「隻腕リヴェンジャーと奪還キャッスル」


「心を失った尾方はハートレスとノーバディどっちになるのか!? まて次回!」

「キン〇ダムハーツは3のボリュームがなぁ...」

「尾方ァ!!!!!」

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