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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ」
27/175

『組織運営会議<女子会』

前回のあらすじ

中年、事案

 ①


「第二回! メメント・モリ運営会議の開始を! ここに宣言するッス!!」


 閑話休題、発案、発議


 それは若いながらも培った場数をフルに生かした葉加瀬の奇策だった。


 全員が全員、固まって次の動きを探っていた状態にあった為か、葉加瀬のこの策は功を奏する。


 全員がちゃぶ台を囲むように席に着き、沈黙するに至った。


 若干、姫子と尾方はグロッキー気味だったが、皆が着席して暫くすると自然さを取り戻した。


 周りの空気を感じとり、葉加瀬がまたいの一番に動く。


「では皆さん、お集まりいただきありがとうございますッス。本日の議題につきましてですが、今後の組織の動き方について議論させていただければと思うッス」


 葉加瀬はあくまで淡々と言を述べる。


 すると替々が挙手して発言をする。


「のっけから失礼、一つだけどうしても質問したいことがあるのだが...」


 一同に緊張が走る。葉加瀬が発言を促すと替々は言う。


「えーっと、そちらの和服のレディはどちら様かな? 私知らないんだけど?」


 替々は清を指して言う。


 あー、その話か。一同は安心した後、再度返答に困る。


 どう説明したらいいものか。というかなんでここに居るのかっと。


 すると清が自ら挙手して発言をする。


「初めまして替々様、お話は伺っております。私は正端清。尾方さんの生活をサポートする為、付き添いしているだけの只の若女将です」


 突っ込み所満載の自己紹介に替々は尾方の方を見る。


 尾方は目線を逸らす。替々は諦めたように言う。


「OKレディ、今後とも不肖の弟子をよろしく」


「ええ、任されました」


 清は笑顔でこれを快諾した。


 清の素性等は、本人が自己紹介で避けたこともあり、他の面々はそこには特に触れなかった。


 あと特に紹介をしていないにも関わらず替々の事を知っていたことも疑問に思ったがやぶ蛇なので突かなかった。


 替々が失礼と会議の進行を促したことにより、葉加瀬が続いて発言する。


「えーっと、今回の議論内容ッスけど、先ほども言ったとおり、今後の組織の動き方について議論するッス。簡単に言うと目標作りッスね。その当面の目標を目指して、組織でこれをガンバろーとかそういう感じッス」


 葉加瀬の発言に皆は一考する。その様子をみて葉加瀬が続けて発言を促す。


「替々さんとかベテランとしてなにか、組織を立て直す時はこれから! とかないッスか?」


 話を降られた替々は返答する。


「ベテランって言うか引退してたんだけどね? まぁ、でも組織を立てるなら基地だろう。シャングリラに自分たちのアジトを持つ、これが足がかりだろうね」


 それを聴いて何食わぬ顔で姫子が尾方に問う。


「そういえば、シャングリラの前基地はどうしたのじゃ? それはそれは立派な基地があったのじゃろう? おじじ様も誇りに思っておった」


 尾方もこれまたケロっとした顔でこれに答える。


「おじさん一人になってからは維持も出来なかったから放置してたよ。その後、いくつかの悪の組織に入れ替わり立ち代り根城にされていたようだね」


 その情報に葉加瀬が補完する。


「先日の現地調査の情報にあったんスけど、いま前メメント・モリ基地を根城にしているのは、この間不治ノ樹海での壊滅が話しに上がった悪海組らしいッスね。それゆえ現状は少し見えないッス」


 すると少し前のめりに姫子が言う。


「絶好のチャンスではないか! 今こそ我らが牙城を取り戻す時じゃ!」


 しかし替々は苦笑いしながら言う。


「他の組織も同じ事を考えているだろうけどネ。取り合いになったら数の暴力に押し潰されるよ私たちじゃあ」


 そこに尾方が発言する。

「アジトは取り戻すかどうかは一回置いておいて、おじさんは一回この目で【あの事件】後の基地を見ておきたいなぁ。なにか犯人についての情報が残っているかも知れない」


 すると替々が言う。

「おや、そういえば尾方、しっかり確認してなかったが、君は犯人探し、すなわち仇討ちを優先しているのかナ?」


 尾方は自信を持って頷く。


「ええ、仇討ちも組織復興の一環です。そこはボスの折り紙つきですから」


 ポンッと姫子の頭に手を置いて尾方は言う。


 姫子はニカっと笑う。

「うむ、組織の精神的主柱を形成するのに不可欠な事項じゃ! ワシも優先すべきと考えておる」


 替々は一瞬目を丸くしたが、少ししてニヤリと笑いながら言う。


「困難な道には違いないが...また組織を立て直しましたが同じ奴に滅ぼされましたって御話になるよりはマシなのかナ?」


 うんうんっと姫子が頷き、話しが途絶えたタイミングを見はかり、葉加瀬が話を纏める。


「つまり、情報収集も兼ねて、一度メメント・モリの元基地へ侵攻しようって話になるッスかね?」


 姫子もこれに賛同する。


「うむ、我らの存在をシャングリラに示す為の基地奪還、及び仇討ちの情報収集作戦。文句なしじゃ!」


 各々が各々に言いたいことはありそうだが、その場では、皆がその言葉に賛同して頷く。


 いや、清は頷いちゃ駄目だろ。なんだこの集団。面白いな。


 しかして、当面の組織の目的は決まった。


 シャングリラでの基地確保と仇討ちの情報収集。


 しかしこの時点でこの目標が、


 どれほどのものであるか理解できているのは、


 悪道替々ただ一人であった。


 ②

「第二回! メメント・モリ+α女子会の開始を! ここに宣言するッス!!」


 運営会議が終わって早々、葉加瀬と清は、尾方と替々を部屋から退席させると。


 姫子を中央に座らせ、声高々に女子会の開催を宣言した。


 姫子はキョトンとしている。


「ハカセ? キヨ? どうしたんじゃ急に? ワシは尾方に急ぎの用事がじゃな」


 するとビシっと姫子の口に人差し指を当てて清が言う。


「それです! その用事に、私は用事があるんです!」


 再び姫子はキョトンとする。


「用事に...? 一体どういう...?」


 ゴホンと清は座りなおして言う。


「まず初めに、貴方に純粋な畏敬の念を。素晴らしい勇気です。恐れ入りました」


 清は礼儀正しく姫子に頭を下げる。


「また同時に謝罪を、貴方の気持ちを踏みにじるつもりはないのですが、結果として邪魔をしてしまいました」


 横で続いて葉加瀬まで軽く頭を下げるので、慌てて姫子は言う。


「な、なんじゃなんじゃ!? 頭を上げよ二人とも!? なんの話しじゃ!?」


 姫子は混乱している。


 すると、頭を上げた葉加瀬が微笑みながら言う。


「砕いて言うと、好きな人に告白するなんて女性としてその勇気を尊敬します。また、告白邪魔してごめんさない。ってことッス」


 これを聴くと、思い出したのか姫子の顔は真っ赤に染まる。


「い、いや、あれはじゃな。勢いというかなんと言うか。好みのタイプだけ聴いて止まろうと思ったんじゃが...ついついあそこまで...」


 あうあうと喋る姫子は、ふとピタリと止まり、一呼吸置く。


「いや、言い訳はやめよう。ワシは尾方へ感じる感情を、信頼や尊敬の念だと思っておった。そう思うようにしておった。しかし、あの時、尾方にそれは違うと言われたような気がして...いけぬと分かっているのに...」


「姫子さん...」


 姫子の言葉に、葉加瀬と清は言葉を詰まらせる。


「しかも、結果としてキヨとハカセの二人を出し抜いてしまう様な形になってしまったのは申し訳なかったの...」


「え?」


「e?」


 二人の身体が固まる。


 姫子が続ける。


「ん? なんじゃ? 二人とも尾方に恋愛感情があるじゃろ?」


 二人の体が砂になる。...ように感じるほど動揺を示す。


 辛うじて口が開く清が質問する。


「ひ、ひひ姫子さん...? だだ誰にそれを...?」


 姫子はなんとなしという顔をして言う。


「いや、誰に聴いたでもなし。見れば分かるじゃろ?」


「み、見れば...? ていうか葉加瀬さん? 貴方も...? 本当なんですか...?」


 葉加瀬は横で白目を向いている。


 この時点で判明したことが一つ。


 この三人、恋愛に関する観察眼が最も優れているのは、まさかの最年少、悪道姫子であるという事実である。



 ③


「はっはっは! なんじゃ二人とも! お互いには気づいておらなんだか!」


 姫子は、この上なく愉快そうに笑う。


 清と葉加瀬の二人はなんともバツが悪そうな顔をしている。


「いや、すまぬすまぬ、笑って悪かったの。なにも馬鹿にしているわけではない。純粋に随分奇妙な状況だったのだなと思っての」


 フフっと姫子は笑って言う。


 清はそれを受けて不満顔である。


「笑い事じゃありませんよ...色々どうするんですかこれ」


 意識が戻った葉加瀬も言う。


「そうッスよ...即刻早急にこの場から逃げたいんスけど私さん...」


 肩を落とす二人に姫子は申し開きをする。


「いやいや、なにも気を落とすことはないじゃろ? ワシは嬉しいと思っておるぞ」


「嬉しい...?」


 二人は疑問符を飛ばす。


 姫子は笑顔で言う。


「尾方には人を惹きつける魅力があると肯定されているようで嬉しい!」


「あ、それはちょっとあるッス...私さん自分は変わり者なのかと思ってたッス」


「私も...仕事のし過ぎで拗らせてるのかと...」


 三人は顔を見合わせると、愉快に笑い合った。



「はっくしょん!!」


「尾方、風邪かね?」


「いや、大丈夫です。17」


「そうか。念のため気をつけたまえ。18、19、20」


「...21。師匠...これ本当に必勝法無いんですよね? 先攻後攻は有利不利に関係ないんスよね?」


「ないともさ愛弟子殿。ほら、次も先手どうぞ」




「しかし、先ほどは二人ともワシに頭を下げたが、真に頭を下げるべきはワシの方じゃ。助かった、ありがとうございますじゃ」


 姫子は深々と頭を下げる。


 清と葉加瀬の二人はここはなんのことか悟ったのか、静かに礼を返す。


 姫子は困り顔で続ける。


「あそこで二人が中断してくれなければ、ワシは間違いなく、何日間か尾方を追い掛け回さなくてはいけなくなっておった」


「でしょうねぇ」


「そうッスねぇ」


 二人は口々に同意する。


 そう、ここで語られているのは尾方の性質についてである。


 尾方巻彦が困難な選択、悩ましい状況、決断迫られる場面に陥った際に起こす現象。


 逃避。エスケープである。


 先ほどのあの状況、尾方が逃亡を計るのは目に見えていた。


 そうすれば本日は運営会議どころではなかったし、姫子と尾方の関係もギクシャクしていたであろう。


 あそこで、無理やりにでもなあなあにするというのは、荒治療だが最善だったのである。


「しかしおっさんさすがッスね。惚れられた三人に同じ結論出させるなんて」


 葉加瀬が笑いながら言う。


「本当ですよ。全く、思い人として情けないやら悲しいやら」


 清も笑いながら言う。


「思えばワシは初対面のときも逃げられたものじゃ」


 姫子も快活に笑う。


「つまり、尾方と恋愛関係になる最低条件は、『尾方から告白させる事』になるわけじゃな」


「少なくとも、今の尾方さんからは想像出来ないですね...あの人、組織復興に執心中ですし...それまで他の感情なんて押し殺してそう...」


「無理難題ッスよ。組織復興が前提条件ッス。組織復興が果たされて初めてスタート地点に立てる問題ッス...惚れた弱みと言うのは恐ろしいものッス」


 三人は困り顔である。


「でも―――」


 しかし、困り顔の三人は、顔を見合わせて笑顔で言う。


「それが尾方のおっさんッスから」


「それが尾方さんですもの」


「それが尾方じゃからのう」


 再度三人は、顔を見合わせて笑った。




「ぶぁっくしょい!!」


「尾方...? 風邪だよね?」


「そうかも知れません...あ、左指一本で攻撃です」


「気をつけたまえよ、季節の変わり目なのだから...あ、二と二に割るよ」


「...師匠、この両方の指が五になったら負けの指遊び...必勝法ないんすよね? 先攻後攻は有利不利に関係ないんすよね?」


「無いともさ愛弟子殿。ほら、先行の番だよ?」




 そこで、女子会が終了し部屋から姫子が飛び出してくる。


「おお、尾方。話し合いは終わったでの、部屋に入ってよいぞ! お茶を出そう」


 姫子は尾方の前に行くといつも通りの調子で言う。


 対する尾方は恐る恐るといった感じで、半身になって言う。


「あー、ヒメ? さっきの話なんだけど...」


 すると姫子はピタリと止まり、一呼吸置いて振り返る。


「さっき? なんの話じゃ? 運営会議の話か?」


 その顔は快活な笑顔だった。


 尾方はそれを受けて、少し目を丸くし、頭を掻いて申し訳なさそうな顔をしていたが、暫くして微笑みで返す。


「なんでもない。なんでもないよ。ごめんねヒメ」


 姫子は少し不器用な微笑みで返す。


「変な尾方じゃ。ほれ、部屋に入って座るのじゃ。ワシが直々に組織運営の持論を展開してやろう」


「お手柔らかにお願いね?」


 その後尾方が促されるままに席に座ると、女子会の面々に囲まれ、長らく弄られ倒した。



 廊下からコッソリその様子を覗いていた替々はボソリと言う。


「嘘、私の弟子モテすぎ...」


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