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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ」
25/175

『22』

前回のあらすじ

中年、背中は流されたくない

 ①


「では尾方さん、おやすみなさい。また、御用であればいつでもお申し付けください」


 大家に怒られた尾方と清は、大いに反省し、そこで解散となった。


 尾方はこの時、初めて大家に深く感謝した。


 なんだかんだ言って午後の休暇中も色々あった尾方はこの後すぐに風呂に入って寝た。


 尾方にとっては、シャングリラに行かずに寝る夜は久々で、その時間はゆっくり穏やかに流れて行った。


 翌日、特に何事も無く起床した尾方は、少し片付いた部屋で簡単に身支度を終えると、外に繰り出した。


 姫子宅には、昼頃に集合という話だったので、少しウロウロしようと考えたのだ。


 アパートの階段を下りて家前の道路に出た尾方は違和感に気づく。


 いつもの箒の音がしない。そう、清の姿が見られなかったのである。


 尾方は少しがっかりしつつも、まぁ、天使の仕事もあるのだろうと軽く流し、市街のほうに歩みを向けた。


 特に当てがあるわけでもなかったが、ジッとしているのは尾方の性に会わなかった。


 少し商店街でもウロウロしよう、そんな心持で尾方が歩いていると。


 トンっと軽く正面から歩いて来た男とぶつかってしまった。


 尾方は「すいません」と軽く頭を下げると男は気にする様子も無く歩いていった。


「(やれやれ、少しボーッとしてたな。気をつけないと)」


 尾方が気を少し引き締めようと考えていると、尾方はふと微かな違和感を感じ、ポケットに手を入れる。


「あ、サイフ!?」


 スリに合った事を瞬時に悟った尾方は慌てて振り返る。


 幸いまだぶつかった男は目視で確認出来る位置に居た。


 尾方は黙してダッシュする。


 すると尾方の足音に気づいた男も走り出す。


「あ、待ちなさいって!」


 男の反応を見てスリを確信した尾方は速度を上げる。


 すると正面に数人の通行人を見つけ、尾方は叫ぶ。


「その人スリです! 捕まえてもらえませんか!」


 尾方の声を聴き、通行人は動揺の色を見せる。


 スリの男が声を荒げると、皆避けてしまう。


「ちょ、ま、...仕方ない!」


 尾方が少し気合を入れて走ろうとしたその時、


「たぁ!」


 脇道から現れた青年が、スリの男にとび蹴りを食らわせて転倒させた。


 青年は倒れたスリに素早く近寄り、逃げないように手で腕を、脚で背中を押さえ付ける。


 その手際は、尾方の目から見ても良いものだった。


 少し遅れて尾方もその場に到着する。


 青年は尾方に確認する。


「この人がスリで間違いないですか!」


 尾方は男が手に持ったサイフを確認して言う。


「そうだよ。そのサイフは僕のだ。ありがとう君。助かったよ」


 確認とお礼を受け取った青年は素早くサイフを男の手から奪い取り尾方に差し出す。


「どうぞ、何事も無くてよかったです」


 尾方はサイフを受け取り、中身を確認して言う。


「君のお陰で無傷だ。重ねてありがとう」


「いえいえ、役に立ててなによりです」


 尾方がその好青年っぷりに感心していると。


 いつの間にか周りの人が通報していた様で、警察が駆けつけた。


 犯人はその場で警察に引き渡され、連行されていく。


 それを最後まで見届けた尾方と青年は、一心地着いたように顔を見合わせる。


 すると、


「あ! 貴方は先日の!?」


 青年が尾方の顔を見るなり声を上げた。


「先日?」


 尾方は青年の顔を見てハテナを飛ばす。


 先日と言うからには最近なのだろうが、その顔にてんでピンと来ないのだ。


 その様子から見て取った青年は、一つ結びにしていた長い髪を露にする。


 そしてそれを二つ結びに結んだ。


「私です。弐枚田 弐樹です」


 印象的過ぎるツインテールを見た尾方は、瞬時に先日の事故を思い出した。


 ②


「先日はご迷惑をおかけしました」


 立ち話もなんですしと弐枚田にカフェに案内された尾方は、そこで弐枚田と話をしていた。


 そこで突然謝られ尾方は困惑の色を示す。


「いやいや、ご迷惑もなにも天使と悪魔だよ? 戦うのは当然だし、謝ることじゃないって」


 慌てて尾方がフォローする。


「いえ、戦闘になにか問題があったという訳ではありません。問題は、えーっと、テンションと言いますか」


 弐枚田はとても話しづらそうに言う。


 そういえばと気になっていた点を尾方が追求する。


「確かに、初めて会ったときと随分っというかかなり印象が違うよね弐枚田君。なにかあったの?」


 弐枚田は渡りに船とその言葉を拾い言う。


「そうなんです! 私、弐枚田は、正装を持つとですね。こう、なんといいますか、舞い上がっていましまして...」


「先日のようになると」


「そうなんです!」


 弐枚田は前のめりになりながら肯定する。


 それを受けて尾方は苦笑いする。


「にわかには信じがたい話だなぁ。今話してる君は、好青年と言う印象しかない。それに引き換え、先日の彼は...その、かなり個性的だった」


 尾方は言葉を選ぶ。


 先ほどの恩もあり、あまり直球でものを言いたくなかったのだ。


「ウザかったですよね」


 しかし、この青年、ど真ん中ストレートで尾方の気遣いを無下にする。


「いや、そんな身も蓋もない言い方しなくてもさぁ」


 尾方が慌ててフォローする。


「いや、いいんです。わかってます。あの時の自分がいかにウザったらしいか理解しています」


 弐枚田は俯いて言う。


「毎回、戦闘の後、後悔するんです。なぜあんなことを言ったのか、あんなことをしたのか...しかし、なんど試みても正装装備後の自分のコントロールはきかなんだ...!」


「弐枚田君...」


 尾方が励ましの言葉を口にしようとしたその時、


「しかし、この間! 尾方さんに敗れてから! 少しだけコントロールが出来るようになったんです!」


「へ...?」


 予想外の返しに尾方が呆気に取られる。


「実は私、先日尾方さんに敗れるまで、決定的な敗北って経験したことなかったんです」


「へ...?」


 尾方はまた呆気に取られる。


「だから! 今まではあの状態でも、勝ってたから矯正しようにも怖くて! あの状態だから負けないんだって! でも敗れた今だからこそ言えます! あの状態だから強いわけではない! 直すべきなんです!」


「はぁ...」


 尾方はグロッキーだ!


「私は、色々あって一家八人を食べさせて行かなくてはいけません。その重圧が、知らず知らずの内にあの人格を作っていたのでしょう! ですがもう大丈夫! あの敗北から学びました!」


「ほぅ...」


 尾方はマヒして動けない!


「私は、私として活躍し! 家族を養う! ありがとう尾方さん! 貴方のお陰で希望が持てた!」


「えぇ...」


 尾方はからだがしびれ うごけない!


「この弐枚田弐樹! 恩は忘れぬ! いつかこの弐枚田の力が必要な時! 一度だけ手を貸そうではないか! 悪魔には勿体無いほどの二度と『二度』とないビックチャンスだ!」


「ん...?」


 尾方は こんらんしている!


「精々その比肩無き光栄に咽び泣くがいい! 屈折の悪魔! さらばだ! 会計はこっちで持つ故、味わって飲むがいい!」


 そういうと弐枚田は会計を済ませて颯爽と店から出て行った。


「......」


 尾方は卓上のコーヒーを静かに飲み干すと大きく呼吸を置いて言う。


「素では」


 尾方は何事も無かったかのように店内を後にした。

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