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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第三章「中年サヴァイヴァーと徒然デイズ」
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『悪神の難題』

前回のあらすじ

神、降臨

 ①

 死の間際、僕はその刹那によく過去を思う。


 僕は死ぬのなんて本当にだいっ嫌いだが、一つだけいい点をあげるとすれば、その瞬間は鮮明に観えるのだ。


 過去が、恋焦がれるほどの美しい景色が目の前に観えるのだ。


 思い出に甘えると、僕はたまに表現する。


 思い出とは常に自分に優しく、そして自由である。


 であるが故に僕みたいに弱い人間は、それに縋って生きていく。


 あの時ああすればよかったではなく、


 あの時ああだからよかったと。


 あの時あれをしなければよかったではなく、


 あの時あれをしてよかったと。


 過去を思う。


 過去を想う。


 今回は場所と最後に観た光景のせいか、昔活動していたチームのメンバーのことを思い出す。


 いいチームだった。皆が皆、同じ目的を目指して。


 同じ志の高さで横に並んで前に進んでいけるような。


 そんなチームだった。


 だからこそ考えてしまう。比べてしまう。


 今を。


 今は?


 そう、僕は夢想の最後に必ず今を思ってしまう。


 これが優しい夢から覚める合図。


 薄れ行く夢の中で僕は想う。


 今は、どうなんだろうか?


 その問いを、思い出は答えてくれない。


 ②

「やぁやぁ! 皆の衆! これでゆっくり話しが出来るね!」


 とりあえず尾方をサイコロ大に刻んだ悪の神こと私は話を前に進めようと手を打って言う。


「で、出来るか! 尾方になにを! 誰であれ許さんぞ!」


 ほう、この状況でいの一番に異を唱えられるのか。


 年齢とは裏腹に存外骨のありそうな娘っ子だ。


「さっきも言っただろう? 私は悪の神! どうぞ称え奉っておくれ!」


 ははーとか言って五体投地しておくれ。


「これはこれは...お久しぶりです我が神」


 威嚇する娘っ子の後ろから老人が話しかけてくる。


「おお、転覆のか! 久しいな! というか老け過ぎ! もうそんなになるか!」


「なりますとも。貴方、神と比べられては困りますな」


 そりゃそうだ。失敬失敬。


 しかし、そろそろか。


 私は宙に浮いて姿を変えず空気と同質量に変化する。すると、


「なにしてくれてんですかこの神が!!」


 復活した尾方の右ストレートが私の居た場所の空を切った。


「おお、おはよう屈折の! 気分はどうかな? なんで怒ってるの?」


 起き抜け一発神にストレートとは相変わらず面白い奴である。


「なんでかもなにもありやがりますか! 時と場所を考えて僕を殺しなさいよ! ここアジトの部屋! 仲間の前! 最悪! 最悪の神ですか!? 貴方様は!?」


 なるほど、仲間を想っていたのか。納得だ。私は深く反省した。


「それはすまなかった。でもどうだい。そっちのが分かりやすいだろう?」


 私は尾方の左手が有った場所を指差す。


 そこには、もう左手はなかった。


「私がココに出た理由は二つ、その戻らない左手と、天罰の件さ」


 無くなった左手には一瞥もくれず仲間と私の間に割ったように仁王立ちをして睨みつける尾方。


 なにか言いたそうな仲間達を右手で制している。


 なんだかワクワクしてしまうな。


「天罰の件だけ聞きますよ。左手の件は僕の話なんでね」


 今は無き左手で中指を立てるように半身で前のめりにヘイトを取る尾方。


 うーん、一心不乱とはこのことだな。関心する。


「最低限の用件しか聞いてくれないのかい? 私は君と話しにきたんだよ?」


 くるんっと宙で一回転してみせる。尾方は私から目を離さない。


「ですからお聞きすると言ってあげてるんですよ神様。天罰でしたっけ? 偉そうですね? 喜んで御受けいたしますよ」


 ふむ、適当にカマをかけただけなんだけど乗る気なのはいいこどだ。ここはとびっきりのをあげよう。


「じゃあ、お願いもとい天罰なんだけどさ。君達、今新生メメント・モリをしてるんだって? いいね。 この組織をバランサーにまで大きくしてよ」


 突飛に思いついたにしてはいい案である。こうすればまだまだ永く遊べる。


「この組織を? それはまた無理難題ですなぁ? 一応聞きますけど期限とかあります?」


 またこれは面白い質問だ。この尾方巻彦に期限とはまたまた。


「無論、君が諦めるまででいいよ。ギブアップしたくなったら僕の名前を呼ぶといいよ」


 モチロン僕の名前は教えてないし、ましてや僕に名前なんてないけどね。でもこの場合は必要ないよね。そういうことなんだから。


「...了解しました。やるだけやってみますよ。で? 用件それだけ? じゃあ、帰った帰った」


 残った右手でシッシッっと神にあっちにいけとジェスチャーする尾方。


 釣れないなぁ。でも話しに付き合ってくれたことだし助言の一つだけでもしてあげよう。


「あとそうだ、バランサーとなっていた組織が二つなくなったことでこれからのシャングリラは荒れに荒れる。困るね」


 混沌は好きだ。というかそのために私はここまでしているのだ。楽しくなるぞと私は宣言する。すると、


「それもどうにかしろと? はぁ、やれるだけやるだけですからね」


 そう、尾方巻彦ならこう返す。私は私の楽しみを壊すものを容赦しないが、それが新しい楽しみなら別だ。


「よろしい。楽しみにしてるよ屈折の」


 本当に楽しみにしている。これでまた暫く退屈しない。


「では、本当にこれでそろそろお暇させてもらうよ新生メメント・モリの諸君。励みたまえよ~」


 ヒラヒラと尾方の真似をして手を振った私は、尾方の飛び廻し蹴りを避けてフッと消えた。


 ③

 こうして私は地の分に逆戻り。テンションも平で行かないとね。


 さて、私を見送った尾方はやれやれと振り返り仲間の方を見渡す。


「ごめん、大変お見苦しいところを...」


 いつもの調子に戻った尾方が謝ろうと頭を下げると。


「お、尾方ぁ! 生きた心地がしなんだぞ! 神様相手になんなんじゃあの態度は!?」


「そうッスよ! いつもの下からご機嫌取り姿勢はどうしたんスか! 今こそ本領の発揮どころだったじゃないッスか!」


「君...もしかして私が師事してた時も裏でそんな感じだったの? 怖い」


 被弾の嵐であった。慌てて尾方は申し開きする。


「いや、違くてね? おじさん昔色々あって腐れ縁的なアレなんだよね。ていうかああでもしないと凄いんだからあの神」


 こやつめ、照れておるわ。


「まぁ百歩譲ってそれはよい、それはよいが。尾方、その左手は...その、なぜ戻らぬ」


 少し話し辛そうに姫子が言う。


「あら、神様と勝手にした天罰の約束の方が重要じゃない?」


 ヒラヒラと右手の無事をアピールするかのように振りながら尾方は言う。


「それも重要じゃが、其れよりも尾方の左手の方が優先順位は上じゃ。なぜなら...」


 姫子は左に控える葉加瀬の方を観る。


「ハカセが顔面蒼白でグロッキー状態になっておる。ワシとて心配で適わぬ。早急になぜ元に戻らぬのか伝えよ」


 姫子の言葉の通り葉加瀬は顔がダッフルコートで半分隠れているにも関わらずパッと観でわかるほど真っ青な顔色をして完全停止していた。


「ええ!? メメカちゃん大丈夫? どこか具合悪いの?」


 うろたえる尾方に見かねた年長者がフォローに入る。


「いや、具合が悪いのは君だろう。姫子ちゃんの言うとおりだ。なにがあったのか説明したまえ」


 やれやれと言った具合に師匠に理由を伝えられた尾方はハッとして語り出す。


「ああ! これか! これはね。とある天使の正装にやられたんだよ。とっても特殊な正装でね。他は守れたけど左手だけはどうしようもなかったんだ」


 残った右手を目一杯使って元気アピールする尾方は続けて言う。


「でもこれで済んだのは運がいい方さ。残りの傷は綺麗さっぱり消えてるから。心配しないで」


 ハハハと笑いながら言う尾方に姫子より喝が入る。


「心配するに決まっておろうが! とりあえず病院じゃ! 病院にいくぞ尾方!」


 残った腕を引っぱられる尾方。


「心配って? おじさんだよ?」


「そうじゃが!? なんの話しじゃ! いいから行くのだ!」


「......」


 二人でワチャワチャしていると替々が提案する。


「では、とりあえず今日はこれで解散でいいかな? 積もる話もあるだろう、しかし事が事だ。明日、昼ごろにでも再度話し合いといこうではないかネ」


「うむ、今日はありがとうございましたなのじゃ大叔父様!」


 姫子に深々とお礼をされ、替々は笑顔で返す。


 そして杖を使い立ち上がると、踵を返す。


「では尾方、詳しい話はまた明日、こんな形ではあったけれど、また会えて嬉しいよ」


 尾方も軽く頭を下げながら別れを言う。


「こちらそこ師匠。また様々な悪巧み、期待してますよ」


 首だけで軽く振り返った替々はニッと笑って部屋を出て行った。


 その後、姫子は病院に行く準備をバタタバと進めていが、その間も葉加瀬はボーッと虚空を見つめていた。


 心配になった尾方が話しかける。


「メメカちゃん、本当に大丈夫? おじさんと一緒に病院行くかい?」


 するとスッと葉加瀬の目に光が戻る。


「あ、おっさん。いえ、大丈夫ッス...。私さん、少しやることがあるので部屋に篭るッスね」


 ヨロヨロと立ち上がった葉加瀬は、自分のラボへと消えていった。


 その姿を尾方は心配そうに見つめる。


「大丈夫かなぁ。ヒメ、もしよかったら気に掛けてあげておいてよ」


 大きなリュックサックを背負った姫子が部屋の奥から出てくる。


「心配されておるのはお主の方だ。わからんか尾方巻彦」


「......」


 尾方は神妙な顔で少し考えると、なにかを思いついたようにハッと口に出す。


「もしかして、みんな僕が傷ついたのが悲しいのかい?」


「なにを当たり前の事を言っとるんじゃ! いいから行くぞ!」


 重いリュックを背負いフラフラと尾方の手を引っぱる姫子。


「......」


 尾方は姫子からリュックを取り上げて右肩で背負う


「これ、怪我人が無理をするでない!」


「いいよ、これぐらい。心配してくれてありがとう」


「そういえば、今回は病院なんて行く必要ないっていわないのかの?」


 思い出したかの様に姫子が言う


「言わないよ。容態はともかく、心配、されてるからねぇ」


 尾方は笑うと、病院へと自分の意思で歩いていった。

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