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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『廻れ右』

前回のあらすじ

 巡りめぐって水天日光


 どうも小廻めぐるです。


 戒位第10躯であり、大天使その末席に名を連ねる者です。


 いきなりの自分語りで恐縮してしまいますが、もう少しお付き合いください。


 始まりは嫉妬だったと思います。


 私よりほんの二、三年前に入った新人の天使が、戒位第三躯になったと言う報を小耳に挟み。


 足音をたてて会いに行ったのが始まりなのだから。


 私が言うのもなんですが予想よりもずっと小さかったその大天使は、その体躯より更にずっと謙虚な姿勢で私に挨拶してくれた。


 体躯と態度ばかりが大きい大人達に囲まれていた私の価値観は大きく揺らぎ、そしてそうありたいと、初対面にして思ったのを覚えています。


 そしてその感心が尊敬に変わるまではそう時間はかからなかった。


 聞けば年齢はずっと上のお姉さんで、あまりの若々しさ、いや、あどけなさに驚いたものでした。


 若輩の私を、しかし物怖じしないことを気に入ったのか、清先輩はよく面倒をみてくれました。


 そしてある日、修行を手伝ってほしいと言われ、私は二つ返事でお供しました。


 この時私が知ったことは三つ。


 一つは彼女は努力の人であると言うこと。


 彼女の特訓はその質、量、共に常軌を逸していた。


 二つ目はその努力のせいで重ねる年月に不具合が生じているということ。


 柄に触れることで自身の存在を六秒間世界の認識外にズラす正装『不知火』。


 文字どおり世界の認識外へ自分を跳ばすその六秒間、彼女に刻は干渉しません。


 故に彼女の経る時は、人より穏やかなのです。


 うん? 話が見えない? たった六秒?


 ですから、彼女はその六秒を幾重にも折り重なるほどの常軌を逸した頻度で使用しているいるわけです。


 触れて消えて。


 触ってズレて。


 撫でて失せて。


 幾度もなんども幾重にも。


 積み重ねた6秒が、正端清を世界から置き去りにするまで。


 ただただ振るっていたのです。


 朝から晩まで、清先輩にとっては30分程度に感じるそうですが。


 振るっていたのです。


 故に、誰も知らないのです。


 誰も。


 清先輩でさえ。


 そんな狂気の鍛錬。


 最後まで付き合おうなんて、私以外、誰も思わず、そして出来なかったのですから。


 三つ目。


 それは彼女の意思とは別に身体が命の危機を回避する為に行われる退避手段。


 疲労による気絶の際に起こりました。


 偶然私だけが目にした欠陥。


 六秒経過のおり、現れたのは倒れた清先輩とその手から離れた刀でした。


 『刀から手を離したら斬れない』


 正しくは、『柄に触れてから行った六秒間の事象は、6秒経過時に柄に触れていないと事実として現実に反映されない』だと思います。


 兎に角、清先輩がモノを斬り損ねるとしたらそこしかない。


 斬った事実を、この世に固定させるまでに刀から手を離させる。


 そんな事は事実不可能なことは誰よりも私がよく知っていますが。


 それでも。


 蹴るしかなかった。


 信仰する神を蔑ろにしながらそれでも私は。


 祈りながら蹴ったのです。


 間違いなのも。

 

 余計なお世話なのも。


 出る幕で無いことも。


 全てわかって尚。


 嫌だなぁと、私は思ったんです。


『清先輩が、人を傷つけませんように』


 


 からんと刀が落ちる音が聞こえ、同時に私の足に何かを蹴ったような鈍い、衝撃が走りました。

『廻れ右』END

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