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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『知らぬ存ぜぬ』

前回のあらすじ

 あなたの事が嫌いです。


「……はぁ」


 悪道総師は、瞳に色を返して再度、雷を纏う。


「儂は友の娘すら手にかけねばいかんのか。流石に不運が過ぎるんじゃないか?」


 尾方が義手の接続を数回確認して一歩前に出る。


「いや、そうでもないですよ? 神は殺さずに済むじゃないですか?」


「……芽々花の世界…やはりお前か」


「正しくは『この』僕ではないですけど。一応ですが言葉遊びではないですよ?」


「……分かるわそれぐらい」


 分かる。


 理解る。


 わかる。


 が。


 納得は、したくなかった。


白式あきのりは、知っているのか?」


 尾方は葉加瀬芽々花を一瞥して声のトーンを一つ落として言う。


「……とぼけてる訳じゃないなら答えますけど、私が最期に会った組織員が白式博士です……亡くなりました」


 その言葉に悪道総師は目を見開き、しばらく後大きな溜息を吐いた。


「……白式、お前も気付けなかったのか」


「……知らなかったんですか?」


 悪道総師の様子に、尾方は一瞬息が詰まる。


 それはそうだ。


 尾方にとって悪道総師とはあの事件の全貌を把握した支配者。


 更には今まさに立ちはだかる敵意の塊だ。


 感覚的には主犯に劣るとも劣らぬ対立者に、尾方は見えていた。


 しかし。


「……すまん、知らなかった」


「……ッ」


 そう、尾方は流れから激しく対立したこの親代わりの総統の事情を知らない。


 思いを知らない。


 想いも憶いも。


 知りはしない。


 しかし、それで問題はない。


 普通。


 命を脅かした敵対者の『それ』など。


 歯牙にも介さない、介すべきではない事象ではある。


 だが。


 彼は尾方巻彦である。


 故に、澱む。


 バチバチと威嚇ではなく攻撃の前の溜めである破裂音に似た雷の予兆が容赦なく悪道総師の周囲に展開される。


 対する尾方は動かない。

 

 このところ、そんな尾方を激昂し、前に押し進めた小さな影が傍に有ったが、今その影は陽炎に揺れていた。


 それは、もはや迷いではない。


 思考のキャパオーバー、様々な考えが、感情が、飛来しては形を成す前に消えていく。


 僕は、俺は、私は。


 いったい……何を。

 

「おっさん!!」


 背中にバンっと響いた衝撃に尾方のブレた焦点が一瞬定まる。


「……メメカちゃん?」


 思いっきり尾方を叩いたその手の痺れが熱さに変わる中、真っ直ぐ狙いを見定めた瞳で葉加瀬芽々花がグッと身体に喝を入れる。


 私さんには、私には、葉加瀬芽々花には。


 代わりになることは出来ない。


 きっとあの世界でも。


 なろうとして。


 決して代わりにはなれなかった。


 が。


 事実。事実がある。


 私は。


 それでも彼の隣に立っていたのだ。


 隣に。


 立ちたいと。


 おもっていたのだ。


「私は大丈夫です」


 何が、とは言わなかった。


 尾方も、疑問には思わなかった。


 渾身の力で震脚にも似た一歩を踏み出す。


 その姿を眺めていた善の神がポツリと呟いた。


「……気味が悪い」


 私は、それを眺めて。


 気味が良いと、そう思った。

『知らぬ存ぜぬ』END

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