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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『Butterfly effect』

前回のあらすじ

 雷雲注意報


「やめなよ」


 どさくさに紛れて動こうとした善の神を、私は手遊びで作ったピストルで制す。


「――――何が起こるか分かってますか? 貴方も唯では済みませんよ?」


 善の神は当たり前の事を言う。


「いいよ別に。もしかして私の性分も忘れちまったのか?」


「忘れませんよ」


 九 一(いちじく はじめ)は口を開いて空気を揺らす。


「……あっそ」


 私は面白くないなと口を尖らせた。


 ②


「今から教える」


 悪道総師が雷を纏い、空気に亀裂が入る様な火花(スパーク)音がけたゝましく響き渡る。


 尾方は反射的に替々の前に立った。


「馬鹿ッ!!」


 しかしその尾方の肩を替々は荒々しく持つと、後方にぶん投げる。


「姫子だ!! 尾方!!」


 替々の焦った語調に一瞬呆気に取られた尾方は、ハッと気付き、顔を投げ飛ばされた方向に向ける。


 そこにはぺたんと地面に座って動かない少女の姿があった。


「ッッ!」


 瞬時に替々の意図を察した尾方は、空中で身を翻して悪道総師と姫子の間に割って入る。


「お前は避雷針ではないだろ?」


 これに合わせて悪道総師は電力を練り上げる。


 ゆうに人を貫き直進する(エネルギー)の直線。


「盾にもならん」


 火花(スパーク)が尾方の反応よりも早く弾けた。


「おっさん!!」


 しかしそれよりも一瞬早く。


 尾方の手には葉加瀬芽々花から放られた包みが届いていた。


『バチッッッ!!!!』


 雷とは違う。


 (エネルギー)を無駄なく殺傷に特化させた閃光が、姫子を尾方ごと貫く。


 筈だった。


 ドガッッッ!!!


 火花(スパーク)音にも負けない無機物が砕ける様な音と共に、尾方が舞い上がった砂煙に包まれた。


「……なに?」


 怪訝に眉を顰めた悪道総師は、砂煙から出てくる尾方及びその周辺に更に眉間の皺を深くした。


 尾方は無傷であった。


 そしてその周りは無機質なコンクリートの様な物質が乱雑に隆起していた。


 尾方は驚いた顔で葉加瀬を一瞥する。


 葉加瀬は、親指を立ててこれに応える。


 尾方は浅く、だがしっかりと頷いた。


 油断なく構えたまま尾方は、抱えた包みを素早く開く。


 空に舞った布が日を一度遮った後、再び差した日が尾方の手前で鈍く反射した。


 そこには、見るからに角ばって荒々しい、そして重厚な印象を与える手を模った金属塊があった。


「メメカちゃん、これ……?」


「新しい義手っス! おっさん義手壊れっぱなしでもう一人の私さんがクレーム入れて来たッスよ!」


「いや、それは申し訳ないんだけれど。それより、なぜヒメは無事なんだい?」


 自分を当たり前の様に勘定に入れない質問を受けて葉加瀬は一瞬を眉を顰めたが、それどころではないので話を続ける。


「ループモノの基本ッスよ。一週目で詰んだ状況の先読み対策は」


『バチッッ!!!』


 葉加瀬の会話を遮る様に火花の音が響く。


 再び電気を纏った悪道総師は神妙な顔で尾方に抱えられた義手に目をやった。


「……エネルギーを軸層を介しての釘層での物質変換、また現層への出力」


 ぶつぶつと独り言を語り、ひと段落すると鋭い目線で私たち神を睨みつける。


 察した私は嘲笑しながら答える。

 

(わたし)の入れ知恵無しさ。彼女は自力で辿り着いただけに過ぎない」


「……ありえん。自分が言ってる意味が分かってるのか?」


「もちろん、|世界層理論(なぜか翻訳できない)は我々神の存命中は神を介して以外認識することが出来ない。その規則に変更はないよ」


「……だったら」


「自分で聴きなよ。神頼みも程ほどにね」


 私の言葉に口を不機嫌そうに噤んだ悪道総師は葉加瀬に向き直る。


「嬢ちゃん、名前は?」


「お久しぶりです、悪道総統。葉加瀬芽々花です」


 瞬間、悪道総師の眼の焦点が揺らぐ。


「お前さん、白式(あきのり)の娘の、あの芽々花か……? だが、しかし、それでもなぜ……」


 揺らいだ悪道総師の視線が尾方の義手の輪郭を撫ぜた時、ゆらりと陽炎の様なもう一人の葉加瀬芽々花の姿を、悪道総師は目の当たりにした。


 数舜の逡巡に目を強く閉じた悪道総師は、しかしゆっくりと諦めた様にその瞳を開ける。


 「……大きくなったな。っと声をかけるべきか?」


 「いえ、悪道総統はなぜこの技術を私が持っているのか聴く筈です」


 「……なぜだ?」


 「私は別に世界層の知識も技術も持ってないですよ。持っているのは、さっき目が合ったでしょう? もう一人の、未来の葉加瀬芽々花です」


 『その世界に、神はいません。いなくなりました』


 この言葉はこの世界では音を纏うことなく空気を揺らすが、ニュアンスを同じくして意味だけが悪道総師に伝わる。


 事情を、言葉ではなく意志で感じ取った悪道総師は、またひとつ深くため息を吐く。


 「……なぜだ?」


 「なにがです?」


 「……お前はメメント・モリを誰よりも恨んでいただろう? なぜ、いま其処に立っている?」


 「違うっスね」


 葉加瀬は口調をいつもの砕けた様子に戻し、尾方の後ろに回るとその背中を押した。


 「悪道総統の次にすべき行動は質問じゃないッス。電気の効かないこのおっさんをどうやって退けるかって言う心配っすよ」


 押されて前に出た尾方は義手を装着しながら困り眉で言う。


 「……メメカちゃん、もしかしてだけれど」 


 「は? そうッスね。私のメメント・モリ嫌いの74%は悪道総師総統に詰まってるッス」


 悪道総師が虚ろな目で虚空を見つめる。


 尾方はその様子をいたたまれない気持ちで眺めていた。


 「残りの26%は?」


 替々が無表情で聴く。


 「尾方巻彦っスね」


 尾方は普通に涙目になった。


『Butterfly effect』END

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