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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『拝啓神様、裏路地にて』

前回のあらすじ

 人間ってそんなものね


 あれはとある冬の日。


 氷点下の夜明け前の出来事だった。


 月明かりの届かない真っ暗な裏路地で、ゴミ袋の山にもたれ掛かる男が点滅する電球に辛うじて照らされていた。


 ワシは『それ』を見下ろしながら声をかける。


「……こりゃ驚いた、アンタの頭の高さがワシより下になる事があるんだな」


 『それ』はぴくりと微かに反応を示し、口を開く。


「……その声、悪道総師か」


「お前が視界が不明瞭になるほど消耗するとは、なにがあった?」


 『それ』は貼り付けたような無表情のまま言う。


「なんでもいい、話しをしないか?」


「おいおい、儂にその義理があるのか?」


「いいから」


 投げ捨てるような言葉とは裏腹に、その言葉には懇願のような必死さが纏わりついていた。


 儂は興味が勝り、口を噤んで言葉を促す。


「生まれ変わりを信じるか?」


「は?」


 言葉を遮るつもりはなかったが、余りにも『それ』から縁遠い言葉に無意識に気の抜けた声が出てしまった。


「どうなんだ?」


 そんな儂に構わず、『それ』は言葉を続ける。


「どう、と言われてもな……」


 意図が読めない質問に儂は言葉を濁す。


 しかし。


 無機質に、しかし渇望する様にジッと『それ』の瞳が儂を写し続ける。


 間柄、色々考えはしたが。


 その頑なに、ともすれば縋る様な視線を汲んで、素直に答える事にした。


「信じる」


「……」


 『それ』は沈黙を持って続く言葉を促す。


「信じるが……儂はそれを証明する手を持たぬ」


 その返答に『それ』は微かに口角を上げる。


「そうか……では証明してくれないか」


 『それ』は震える手で背に生えた純白の翼を潰す様に握りしめる。


 そして躊躇なくその一部を引きちぎり、手のひらの中でその白を赤く染めた。


「なにを――」


 儂の疑問を遮る様に『それ』は、血の滴る羽の一部をこちらに差し出す。


「『尾方巻彦』」


「うん?」


「生まれ変わった私の名前だ、それぐらい決めさせろ」


 滴る血で出来た水たまりが月に反射して裏路地を微かに照らす。


「明日から気分新たにって意味じゃないよな?」


「違う。羽を使え、あとはお前の権能で可能だろう」


「可能だろうって、生まれ変わりがか?」


「そうだ」


 既に覚悟する様に目を伏せた『それ』は、当たり前の様に言う。


「…………お前、儂が思っとったより阿保なんじゃのう」


「自棄だ。わかるだろ?」


 これ以上、儂と話す事もないと言う様に、『それ』は沈黙する。


 なんて勝手な奴だ。


 儂が、儂らが倒そうと、斃そうと躍起になっていた化け物が。


 どうぞと首をもたげている。


 大体、なんで儂がお前の言うことを聞く事前提なんだ?


 腹立たしさに儂は投げつける様に言う。


「わかった。お主の生まれ変わり手伝おう。ただ、生まれ変わった後のお主を儂がどうしても文句はないな?」


「好きにしろ」


 それは心底つまらなそうに言う。


「よし、覚悟しろよ。儂がお前を真人間に生まれ変わらせてやる」


 考えつく限り最大の皮肉を投げ付けた。


 ザマアミロ。


 お前は後悔の中に死ぬんだ。


 しかし儂の心中の黒さとは裏腹に。


「…………は」


 その言葉を受けた『それ』は。


 『白の天使たち(ファースト・オーダー)白貫 誠(しらぬき まこと)』は。


 初めて歯を見せて笑った。


 儂は投げ返す様に歯を見せて笑う。


 悪事は笑って。


 それは儂の矜持だった。


「――さよなら人間」


「――ようこそ天使様」



 

 血塗られた白羽を握りしめた悪道総師の左腕が、ぱちりと光り。


 裏路地を一瞬だけ照らした。

『拝啓神様、裏路地にて』END

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