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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
159/175

『悪道』

前回のあらすじ

 これで勝ったと思うなよ


「さ! 取り敢えず一件落着! 良かった良かった! はい撤収撤収!」


 振り返った中年は爽やかな笑顔で言う。


「待たんか尾方ァ!」


 今度は本当に首根っこを捕まえて姫子は牙を鳴らす。


「いや、違くて、さっきのは『若気の至り』って言うか……」


「『中年の至らなさ』じゃろ?」


「わぁーん! 堪忍しておくれー!」


「コミカルに幼児対抗すな! 座れ! ここに!」


 正座した中年を一同は取り囲む。


「止められなかったらわしごとやっちょったじゃろ?」


「いやぁ……? まさかぁ?」


「目が座ってたッス、あの目のおっさんは世界だって滅ぼすッスよ、私さんが言ってたッス」


「マイ弟子よ、一から修行し直す?」


「いや、俺は普段からお前には文句しかなかが……一線があるじゃろ?」


「無価値」


「病人」


「ノーエレガント」


 多数の巨大な矢印に揉みくちゃにされた尾方が涙目で言い返す。


「前半はいいけど後半はここに居ないはずの部外者達だったよね! て言うかヒメも合わせてなんでココに居るか聞いていいかな!!?」


「話を逸らすな」


「はい……」


 これがこれまで長い長い七章を通じて八面六臂の活躍を魅せた悪魔の姿なのだろうか。


 今やその背中は丸まりに丸まり、尊大な少女より遥かに小さくなってしまった。


「弁解をさせてください」


「赦そう」


「ヒメを護りたかったんです」


「結果は?」


「ヒメを巻き込む勢いで暴れようとしました」


「弁解は?」


「どこにもありませんでした」


 中年の綺麗な土下座が飛び出した。


 一章以来だった気がするがやはり美しいフォームだ。


 どうでも良いが。


 はぁ、と姫子は深いため息をして尾方の肩に手を置く。


「その、護ろうとしてくれた事は助かった、ありがとうの」


「ヒメ……」


 尾方は顔を上げて姫子を見る。


 しかし尾方が見たその顔を苦しげに歪んでいた。


「だが、だがな尾方。感情を通して目的が霞んでしまうのは悲しい事じゃ。強い想いで本当にしたい事がわからなくなってしまうのはとてもとても悲しい事じゃ」


 心底辛そうに姫子は言葉を紡ぐ。


「わしは若輩であるが……何故か分かるのだ……それはとても、とても悲しい事であると……だから……だからな……」


 その顔が、声色が、余りにも痛切であったので、咄嗟に尾方が姫子の肩を抱く。


「…………ッ」


 しかし、言葉は出て来なかった。


 なにか大きな過ちを犯したのは分かる。


 それは罪ではないが、きっと間違いなのだろう。


 故に赦すように、許される様にただ慈しむ形を身体がとった。


 少しして。


 だが二人にとっては長い時間が流れ。


 少女の震える肩が治まり、尾方は胸を撫で下ろして肩を離した。


「こらぁ!!」


 怒り顔の姫子が尾方の頭に手刀を喰らわせる。


「あいたぁ!?」


「あー怖かった! 二度とやるでないぞ尾方!」


 それは先ほどまでのか細い少女ではなく、快活に笑う悪の華、メメント・モリ総統。


「さぁ、皆の衆! 凱旋大義である! 小休止の後、前進するぞ! 悪の道を敷く! 着いて参れ!」


 悪道姫子であった。

 

『悪道』END

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