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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『悪手』

前回のあらすじ

 キレる中年


 わかってる。


 僕は、見上天禄は。


 私は、上元守(かみもとまもる)は。


 わかっている。


 過去とか今とかそんな概念的な話ではない。


 この男を。


 尾方巻彦を。


 白貫誠を。


 その理を知っている。


 嫌というほど目の当たりにして来た。


 嫌というほど憧れて来た。


 その純白の様な眩しさを知っている。


 故に私は否定する。


 その悉くを否と断ずる。


 貴様は貴方という存在によってその正しさを否定されている。


 私の知る貴方はいつまでも今の貴様を否定している。


 だから、ではなく。


 それでも、私は私の意思で持って今の貴方を否定する。


 きっと矛盾しているのだろう。


 きっと見苦しいのだろう。


 きっと間違っているのだろう。


 でも、きっと、変えられないのだろう。



 私の名前は見上天禄。


 一の冠する第一の天使。


 白なる御身の御心のままに。


 その障害を打ち砕く者なり。



 一瞬の出来事だった。


 尾方の殴打を喰らった見上は、正装『銀無垢』にて殴打が『当たった』と言う事実に『躱した』と言う結果をぶつけて相殺。


 見上は尾方の腕を振り払うと二人はその場で20合ほど拳と脚を打ち合って互いに距離をとった。


 このタイミングで胸に穴が空いていた尾方の命が尽き、倒れる尾方を押し退けるように新たな尾方が生き返った。


「……」


「……」


 お互いに言葉はなかった。


 もうそんな段階は既に過ぎていた。


 目の前のお前が邪魔だ。


 ただ、それだけだった。


 それだけにこの事象は二人の間でどこまでも完結し、如何なる事象も入り込む隙間はなかった。


「こら」


 しかし。


 今まさに命のやりとりを再開せんとする二人の間に、なんとも小さな影が立ち塞がった。


 悪道姫子、悪の組織メメント・モリが総統である。


 しかしその肩書きに似合わず。


 それは余りにも場違いな闖入者であった。


 冷静に考えれば分かる。


 それは相応しくなく。


 それは分布相応で。


 それは身の丈に合わず。


 過分に不適当であった。


 つまり。


 それは正しくない。


 悪であった。


「……」


 予想だにしない乱入者に二人の時が刹那だけとまる。


 それは一瞬であった。


 悪手としか言いようがない。


 目の前の二人は既に決めてしまった人間。


 過程を無視して結果を決めるべく走り出した人間。


 二人の闘争に為す術なく少女が巻き込まれてしまうのは、変えようのない事実だった。


 しかし。


 ひたりと、両者の腕に手を添える老紳士が一人。


 また、両者の間には国門が手を添え、両者の足は鎖に絡まれた。


 「ここまで、でいいカナ?」


 手を添えた悪道替々の一言で、両者は肩の力をするりと抜いた様だった。


「……ごめんね、ヒメ」


 尾方巻彦は心底申し訳なさそうに後ろ頭を撫ぜる。


「……狙ってやったのなら大したものですね」


 分かり易く肩をすくめた見上天禄は踵を返す。


 その背中に姫子が問いかける。


「大天使よ、任務完遂の条件は良いのか?」


「ああ、良いんですよ」


「なにが良いのかの?」


「ええ、そういえばなんですが作戦の期限を書き忘れてしまいまして。実は別に今日じゃなくても良いんです」


「それはうっかりさんじゃな」


「ええ、全く」


 振り返った見上の左右に展開するように大天使が並び立つ。


「今回は軽い挨拶ですので、またの機会には、どうぞよろしくお願い致しますね」


 仰々しく頭を下げた見上の傍らで、各々が胸中に一物抱えている大天使たちはこの場を後にする。


「おいこらまて! 神はどうするのじゃ! お主らのところの頭じゃろ! どうにかせんか!」


 その首根っこを後ろから掴むような勢いで姫子が大声を出す。


 うっとおしそうに振り返った見上が言う。


「知りません、全ては我が主の御心のままに、です」


「要するに丸投げじゃろうが!」


「そうです。身投げでもします?」


「せんわ!!」


 そこまで聞くと見上は正装で大天使全員を転送して消えた。


 その時、尾方は一瞬、正端清を見た。


 しかし、その視線が交差することはなかった。


『悪手』END

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