表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
153/175

『望』

前回のあらすじ

 人違いです。



 私には、歳の離れた妹がいます。


 可愛い可愛い私の妹。


 大切な大切な私の宝物。


 貴女は清く。


 貴女は正しく。


 貴女は美しい。


 全て。


 私には届かないもの。


 私はなるべく清く。


 私はそれなりに正しく。


 私は見目だけ美しい。


 私は、どこまでも半端者だ。


 思慮する偽物は、体現する本物には敵わない。


 だから。


 だから。


 だからだからだから。


 清、貴女は私の唯一の救いだ。


 私の人生に意義があったとしたら、それは貴女の姉として相応しく振舞おうとし続けられたこと。


 選ばれた貴女が、少しでも楽に道を歩けるように。


 姉として、いや、貴女を尊敬する人間として。


 私が貴女を不格好でも導ける様に。


 想像する清さを。


 知っている正しさを。


 取り繕える美しさを。


 貴女に伝わる様に演じる。


 貴女は清く。


 貴女は正しく。


 貴女は美しい。

 


 私の選択に後悔はない。


 当然とすら思える。

 

 私はどんな姿になっても。


 貴女を支え続ける。


 万が一にも貴女が間違わない様に。


 私の理想が、決してブレない様に。


 貴女が。


 貴女が。


 貴女が貴女が貴女が。


 貴女が。





 なぜ私ではないんだろう?



 



 

 ②


 「…………正端……清望?」


 色無の言葉を受けて、正端清の視界がぐらりと揺れる。


 「キヨちゃん!!」


 この隙をついて清の体を貫こうとした色無の手刀を尾方が受け流す。


 崩した態勢をふわりと直した色無はジトッとした眼で尾方に言う。


 「……先輩、この人は天使ですけれど?」


 「そうかい? 僕は尾方巻彦だけど」


 心底嫌そうな顔で尾方の軽口を受け止めた色無は、閉輪を回転させながら構え直す。


 呼応する様に尾方の片腕にノイズが走った。


「……先輩はこの女のこと(事情)知ってましたよね? どうしたいんです?」


「いや、買い被りだよゼンちゃん。僕は彼女の抱えた問題に向き合えてすらいないんだ」


 尾方の顔に少し影がかかる。


 すると逆に色無の顔は色付いた。


「じゃあ向き合う必要なんかありませんよ! ほんとくだらない、ペラッペラの事情ですから! 先輩が関わる必要なんてこれっぽっちもありません!」


 すると尾方は、少しの間考え込み。


 ハッとした顔で言った。


「確かに、よくよく考えたら別に付き合う筋合いはないかも……? 痛いのも死ぬのも嫌だし」


 尾方の言葉に目の色を輝かせる色無。


 しかし。


 尾方は、ケロッとした顔で、こう付け加えた。


「でも毎日ご飯作ってくれるしなぁ。(あの肉じゃが)好きなんだよなぁ」


 ビキッと色無の額に青筋が通った。


「よくも私の先輩をたぶらかしたな小娘!!!」


 鬼の形相の天使が清に迫り、慌てた尾方が割って入る。


「落ち着いてゼンちゃん!!」


「離してください!! かくなる上はコイツを殺して先輩も殺します!!」


「それただのキルスコア高い人だからね!!」


 揉みくちゃになった二人だったが、尾方が色無を巴投げして距離を離す。


 すかさず清の側に寄った尾方が清を見ると、清は虚な目で頭を抱えていた。


「キヨちゃん! 大丈夫!? おじさんのこと分かるかな!?」


「……私のこと好きって言いました?」


「駄目だ! 記憶が混濁している!」


 ヤケ気味に叫ぶ尾方だったが、気づけ、原因は君にある。


「言ってない!!!」


 涙目で突進してくる番外天使もこの場の混沌に一役買っていた。


 尾方は逃げ出したい気持ちを精一杯抑えながら、色無の突進をいなす。


「受け流すな! せめて受け止めてください先輩!!」


「比喩抜きで粉々になるからね?」


「受け止めてください!!」


「多分だけど話を聞いて尚言ったよね?」


「3機だけでいいから!!」


「人の命を残機計算したね」


 軽口とは裏腹に二人は音速の戦闘を繰り広げる。


 弾ける衝撃波の音を片手を付いて聞いている正端清は、頭を抱えて震えていた。


「正端……? 正端……清望?」


 常日頃から感じていた違和感の糸を辿る様に、脳裏にとある情景が浮かぶ。


 見慣れた老舗旅館。


 その裏庭。


 そこに立つ。


 朗らかな笑顔の女性。


 春の木漏れ日の様な暖かさを、自分は感じている。


「――――――――」


 私に何か語りかけているその人は。


「――――キヨちゃん」

 

 私の姉で、間違いなかった。


『望』END


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ