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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
151/175

『力』

前回のあらすじ

 パワー!

 ①


 先に言っておくと。


 参劫正装(さんこうせいそう)『八咫鏡』の影響下で、特例を満たさない存在が行動することは、理論上可能である。


 そう、『理論上』可能である。


 八咫鏡は過程の遅延が及ぼす過程の拡散と結果の撹拌が目的の正装である。


 端的に言うと過程と結果までの距離を極端に引き伸ばすことで発生するはずの行動と結果の結びつきを緩くして過程と結果を霧散させる正装である。


 つまり過程と結果の結び付きが常軌を逸して強固であれば、結果を無理矢理起こすことが可能である。


 可能ではある。


 が。


 この前提を持ってしてやはり結論を言わせて貰うと。


 参劫正装を持たない存在が八咫鏡の影響下で動くことは『不可能』である。


 話が違うって?


 だって仕方がない。


 八咫鏡の影響下で人が『一歩』歩く為に必要な体感時間は12年。


 そう、12年だ。


 それだけの時間の間、歩くという意識を1秒すら手放さずに思い続け、実行し続ける必要がある。


 だってブレる筈である。


 だって折れる筈である。


 起こらない結果を疑わずに過程を行い続けるなんて、不可能な筈である。


 だが、この事実をどう説明すればいいのか。


 過程霞む世界で。


 結果なき世界で。


 神を殴打した特例中の特例。


 進めないを進み続け。


 届かないに伸ばし続け。


 殴れないを殴り続けた。

 

 漢の名は筋頭崇。


 神がこれまでと定めた上限を超えた。


 超越者である。


 ②


「だらっしゃああああああああああああああああああッッ!!!!」


 剛腕、そうとしか表現できない腕が善の神顔面を振り抜く。


「――――――――」


 善の神は反応出来ない。


 出来る筈がない。


 起こる筈がないからである。


 起こらないと定めたからである。


 切り捨てた可能性に殴り付けられたからである。


 善の神は瓦礫を砕く鈍い音と共にスタジアムの観客席に叩き付けられた。


「……筋頭さん!?」


 反応が数瞬遅れた尾方が筋頭に声を掛ける。


「……」


 当然反応は無かった。


 が。


 行け。と


 そう言われた気がした。


 事実この瞬間、八咫鏡の規則は綻びを見せていた。


「ゼンちゃん!!」


 尾方は色無の名を呼ぶ。


「はい!!」


 色無は直ぐに頷くと、無機質な無垢な翼をはためかせる。


参劫正装(さんこうせいそう)『自幽』。存在普遍(ただこれひとつ)


 それは色無が人形戦で見せた自幽のルール付与。


 空間軸という『枠』を取り払う無縫の構え。


 色無はいま、どこにでも在り、また何処にも居ない。


 また、無数にあり、零でもある。


 つまり。


「完了しました!」


『八咫鏡』規則範囲内の生存者全員を同時に範囲外に避難させる事が出来る。


「ありがとう」


 尾方は礼を言いながら自分に残った右手にノイズを纏う。


 それは無論追撃のため。


 善の神に畳み掛け。


 ある筈のなかった勝機を見つけるため。


 しかし。


 パシッ


 空を蹴って善の神へ突撃した筈の尾方の身体が、その場に引っ張られて急停止を強いられる。


「んっ!?」


 驚く尾方の右手は、筋頭の巨大な腕に力強く掴まれていた。


 無論、八咫鏡の影響下ゆえその男に言葉はなかったが、確かに聞こえた。


 『あっちに行っとれ』、と。


 唖然とする尾方だったが、反応するより早く。


 ブン!!!!


 スタジアムの外までその身体は投げ飛ばされた。


 信じられないと言った顔をした色無も後を追ってこの場を去る。


 

 後には大男と、瓦礫より立ち上がる善の神が残った。


「――――――――――」


 額から頬にかけて、ヒビが入った善の神は。


 いや、その()()は、直ぐに微笑んで言う。


「――――――貴方のことを尊敬しています」


 もうその言の葉が、空気を揺らす振動でしかないことを知ってか知らずか。


 筋頭崇は右こぶしを振りかぶった。


 いいから来いと。


 そう言っている様な気がした。


『力』END

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