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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『到達点』

前回のあらすじ

 めでたしめでたし



 今日、自分より強い相手を明日叩きのめしたい。


 ワシの、筋頭崇の人生とはとどのつまりその通りであった。


 止まることが嫌いだ。


 静止が。


 停止が。


 静観が。


 諦観が。


 諦めが嫌いだ。


 小学校の誰より非力だった僕が。


 中学校の誰よりも非力だった俺が。


 天使の誰よりも非力だったワシが。


 留まれないという最大の欠点を武器に。


 前へ前へ。


 日に数ミリでもいい。


 留まらない。


 留まれない。


 前進し続けて来た。


 そうだ。


 ワシには大層な信念などはない。


 仕方がなく。


 性分であるから仕方がなく。


 昨日の届かないを届かせ。


 昨日の握れないを握り。


 昨日の上がらないを上げる。


 前へ。


 ただ前へ。


 今、手が届かない『ソレ』を目の前にして。


 ワシの。


 俺の根幹が激しく鼓動していた。


 前へ。


 激しい憤りや焦りが一瞬あったと思う。


 しかし、不思議と心は直ぐに薙いで。


 俺はいつもの様に。


 その『届かない』に手を伸ばした。


 


 彼は気づいてない。


 それは人のオリジンの一部。


 その極めて純度の高い結晶。


 人が届かないものに必死に手を伸ばすその行為を。


 神は『挑戦』と呼んだ。

 

 

 ②


 世界と世界の合わせ鏡。


 それは過程の撹拌


 それは結果の拡散。


 参劫正装(さんこうせいそう)『八咫鏡』。


 善の神『九 一(いちじく はじめ)』の正装。


 その影響下で動ける存在は限りなく限られる。


 しかし、特例は何事にも存在する。


「……」


 尾方巻彦と色無染。


 特例二人は空に舞う善の神を睨み付ける。


「……先輩」


「分かってるゼンちゃん、時間がないね」


 尾方の四肢にノイズが走る。


 色無が四肢に無機質な白を纏う。


『『参劫正装全顕現』』


 平導が捻じ曲げ、閉輪が馴らし、自幽で纏う。


 規則には規則に拮抗する力が、権利がある。


 故に二人は特例足り得えているのだ。


 ダンッッ!!!


 距離を殺すように荒々しく跳躍した二人は、善の神に相対する。


「――――――」


「……」


 それは沈黙ではない。


 それは静寂(しじま)である。


 この場にて言葉は意味がなく。


 意義が無く。


 異議がない。


 故に空気を揺らすのは。


 尾方の蔓延るノイズと。


 色無の隔たる光体と。


 九の意志なき五体だけだった。


 空気が圧縮されているような緊張感。


 誰が動けばではなく、誰かが動けば理が変わる。


 言葉通り、世界が軋む。


 尾方の。


 いや、人類の目的は1つ。


 終わりの制止。


 今の今で終わりを停止させること。


 絶滅に相対する2つの影が激しく揺れた。


 ガキッ!!!!!!


 歯車の咬み合わせが外れたような金属音が、意識が遠くなる様な大音量で空間に広がった。


 善の神の金属の翼と色無の右腕が火花を散らしていた。


 視認は出来なかったが、尾方の左腕もノイズ交じりに火花を纏っている。


 目にもとまらぬ速さで打ち抜いたのだろう。


 そして、再び尾方の姿がかすみ、善の神の周囲に火花が走る。


 色無もこれに続き、回転した閉輪のギアを上げて善の神を打ち据える。


 文字通り目にもとまらぬ攻防は一瞬で数百合の打ち合いとなり、目まぐるしく動く尾方と色無を善の神が静かに捌く。


 見た目で言うとこの打ち合い、五分の様に見える。


 しかし、五分では止められない。


 善の神の正装の範囲は、今も加速度的に広がり続けている。


 もはやスタジアムをすっぽりと包み込んだその『終わり』は。


 尾方を大いに焦らせる。


 しかし、お得意の選択に迷う段階はとうの昔に過ぎている。


 もうやるしかない。


 事態が『ここ』まで来てしまったのだから、自分が。


 「――――尾方さん、それを迷いと呼ぶのですよ」


 油断ではない。


 単純に速度で、力で、勝った善の神の一閃が尾方の義手を吹き飛ばす。


 「……あ」


 尾方の口から絶望にも似た吐息が漏れる。


 この段階で尾方が片腕を失うことは、そのままの意味で詰みを意味していた。


 反射で尾方を守りに入った色無にも致命的な隙が生じる。


 両者の隙を目を逸らしながら受け取った善の神は、目を伏せて言った。


 「――――ごめんなさい」


 無機質な鏡の光が、世界を照らしていた。




 


「だらっしゃああああああああああああああああああッッ!!!!」


 バキィィィィィィィィ!!!!!!!

 

 

 その時。


 極太の腕が善の神の顔面を一閃した。

 


 漢の名は筋頭崇。


 筋肉の天使である。


『到達点』END

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