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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
148/175

『人質大作戦』

前回のあらすじ

 箱庭

 

 ところ変わってこちらはシャングリラ戦線サイド。


 色々あって替々に投げられた尾方は尻をさすりながら立ち上がっていた。


「いちちち、ふざけてる場合じゃないですよ師匠」


「いや、一回は一回だからネ」


「別になにもしてないじゃないですか」


「本当に?」


「それは……そうですね」


 納得した尾方は背筋を伸ばす。


「さて、逃げますか」


 落ちてくる瓦礫を避けながら小走りを始めた尾方に替々と國門が続く。


 本格的に走り出す前に國門が尾方に聞く。


「……叔父貴は、置いていくんか?」


「……」


 尾方は一瞬だけ視線を逸らしたがすぐに國門の目を見て言う。


「違う、筋頭さんが勝つんだよ」


 本当にそう思っていると、思わせる程の雰囲気で尾方は言い切った。


 それを受けた國門は、快活に笑って言う。


「そりゃそうか!」


 様々な事実に目を瞑った錯誤的な結論だが、それはそれで筋頭的ではあった。


 満足気に手を打った國門は尾方に続く。


 しかしそこへ。


「先輩、どちらに行かれるのですか?」


 色無 染が立ちはだかった。


「まぁ来るよね、想定の範囲内」


 そして。


「逃すとお思いですか?」


 大天使『一の天使』見上天禄が立ち塞がった。


「……なんで?」


こっちは予想外だったらしく心底疑問そうに尾方は首を傾げる。


「…………」


見上は首に青筋を立てながらあくまで冷静に話す。 


「生憎私の信仰は常住坐臥でして。それに。神の御心に添うのもまた祈りに違いないでしょう」


「あ、敵なんだ」


「ずっと敵ですが!?」


 我慢ならず声を荒げた見上は咳ばらいをする。


「ごほん、兎に角。あなた方はここでお終いだと言うことです」


 そこへ。

 

「同じ天使のよしみで一度だけ忠告します。巻き込まれても恨まないでくださいね」


 番外の大天使、色無が見上の横に並ぶ。


「おかないなく、お互い様ですので」


 見上は笑顔でこれをサラリと流した。


 並ぶ二躯に寸分の隙もなく、メメント・モリの面々は文字通り窮地に追いやられた。


「実際、どうするのかな弟子殿? ボロボロの我々は逃げるのだってままならないのだが」


 替々が半分あきらめ顔で言う。


 尾方はヒソヒソ声で替々に伝える。


「僕に考えがあります、国門君。君の協力が不可欠だ」


 思わず自分の名前が挙がり、国門は疑問顔で尾方の言葉に耳を傾ける。


 そして顔を青ざめさせると一通り小さな声で必死に抗議したが、尾方に頼み込まれて諦めたように頷く。


「秘策の相談は終わりましたか?」


 すまし顔でメメント・モリの相談を眺めていた見上が尾方に声をかける。


 尾方はどや顔で振り返って言う。


「うん、待っててくれてありがとう。とっておきのがあるんだ」


 尾方の自信をそれでも大天使二躯は澄まして流す。


「そうですか、一応言っておきますけど何にもさせませんよ」


「なにかしたとしてもその前に先輩、貴方を殺してさしあげます」


 ニコニコと並ぶ大天使、実際この二躯にはその力があり、判断ができた。


 この中の尾方が、国門が、替々が、どのような攻撃を、奇をてらおうと、対処できる事実があった。


 しかし。


 「――――は?」


 色無と見上は、同時に疑問符を上げると同時に頭が真っ白になる。


 目の前の、尾方の頭に国門が銃口を突き付けたからである。


 「……な、なんのつもりですが?」


 見上が冷静を装っている風に言う。


 「どっちかでも動いたら撃つ」


 苦虫を嚙み潰したような顔で国門が言う。


 「……い、意味がわかりません。ふ、ふざけてるなら直ぐに殺してしまいます?」


 若干呂律が怪しい色無が目を泳がせながら言う。


 「僕は本気です!」


 何故か人質が覚悟を示す。


 「…………」


 謎の緊張感が天使二躯を支配していた。


 だって、動くと、人質にされた憎き敵が、死んでしまうのだから。


「見上さん……でしたっけ、どうしました? 敵が阿呆な事をしているのですから乗ずるべきでは?」


「色無さんこそ、貴方ならもう一瞬で事がすむのでは?」


「いや、余りにお粗末な秘策に呆れ果てて、な、謎の脱力感が……」


「私も余りの愚かさ加減に無気力になるといいますか……」


「…………」


 変な牽制をし合う大天使達。


 何故か銃を突き付けながら苦しそうな国門。


 謎の空間は、謎の硬直を見せていた。


 誰か助けてあげて欲しい。


 しかしその時は、哀れかつ無慈悲な首謀者兼人質によって訪れた。


「てぇー!!!」


 ドォンッ!!!


 尾方の合図に半分驚いた形で国門は引き金を引いてしまった。


 大口径のハンドキャノンの威力で尾方巻彦の顔面がはじけ飛ぶ。


 スローモーションの様にその様子を眼に映した大天使二人は、白目を剥いて驚いている。


 また、撃った国門も、白目を剝いて意識を手放そうとしていた。


 「残酷過ぎる……」


 その言葉を漏らしたのは人質の師、悪道替々。


 この空間を作り出した首謀者の人質は、勿論この場の大天使二躯の複雑な心理に働きかける策に出たのではない。


 シンプルに、単純に。


【二人は良い人だから人を見殺しに出来ないよ】


 そんな考えから編み出された愚策。


 しかし、お察しのとおり、とある三人にとっては最悪最善の奇策となったのであった。


 結果、大天使二躯は決定的な隙を晒すことになる。


 その隙を、尾方巻彦は見逃さない。


 生き返った瞬間に地面を蹴ると、見上と色無を掴んでスタジアムの反対側まで跳躍した。


 「ここまでくれば皆は大丈夫だ。ふふ、残念だったね天録、染ちゃん」


 澄まし顔で振り返る尾方を。


 「なにやってんだお前!!!!!!」


 見上、色無、国門の上段蹴りが待っていた。


 正直これはそう。


 尾方が悪い。


 神が許そうと思う。


 もう何回か蹴っていいよ。

『人質大作戦』END

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