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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『外側』

前回のあらすじ

 あの野郎……



「お嬢様、そろそろ此処を離れるのがよろしいかと」


 頃合いを見て小船屋の執事であるじいやが進言する。


「そうね、長居は無用よね、どう考えても」


 髪を指でサラッと流した小船屋は身を翻して装甲車に飛び乗ると声を張って号令する。


「撤収!!」


 すると部隊は即座に展開を解いて集合するとそれぞれの装甲車に素早く乗り込む。


「皆で纏まって移動すると目立つから散開して撤収すること。集合場所はマーカーして小隊長にメッセするから共有するように」


 返事の代わりに小さく敬礼した小隊長達は隊員を追ってそれぞれの装甲車に乗り込み発進する。


「さあ皆さん、どうぞお乗り込みあそばせ。長居は無用ですわ」


 装甲車の後ろが開き、一同はそこに乗り込む。


 無事に発進した装甲車に姫子と葉加瀬は深く安堵の息を吐く。


 そして姫子は深々と頭を下げながら言う。


「小船屋殿、加治殿。改めてメメント・モリへのご助力に感謝する」


 これを受けて小船屋は軽く言う。


「気にしないで。手を貸してた最初からこのつもりだったもの」


 また加治はまたも礼を片手で軽く制して言う。


「一度言ったが俺は間が悪かっただけだ。気にしなくていい」


 二人の返事に姫子は感動し涙ぐむが、すぐに鼻を啜って話を続ける。


「かたじけない。して小船屋嬢、今の目的地は何処になるのかの?」


「それは、どうかしらメメカ」


 小船屋は先程から端末を凝視している葉加瀬に話を促す。


「はいはい調べてまスよぉー……ふむふむ、やはり上元町全体に天使が展開してるッスね……こっちもダメあちらも駄目、こちらは駄目駄目と……」


 ブツブツと呟いた葉加瀬が更に続ける。


「はい、結論出たッス。ザ・エンドってね。いや、ジ・エンドですハイ」


 葉加瀬は結論を簡潔に言う。


「それは……」


「でしたら」


 反射的に口を開いた姫子を制するように小船屋が話を差し込む。


「シャングリラへの逃亡しかありませんわね」


「な!?」


 小船屋の言葉に姫子は虚をつかれて声が裏返る。


「それは……いや……だが……ぬう……」


 少し考えを巡らせた姫子はそれでもと言葉を続ける。


「危険過ぎるのでは……?」


 当然そんな事は全員承知な上なのを承知の上で姫子は言わずにはいられなかった。


「無論、命を賭す必要がありますわ」


 予算の見積もりを眺めて妥当と断ずる様にさらりと小船屋は言う。


 その様子に、姫子は少し焦りを見せる。


「ワシは……ワシは良い! だが、だが皆はどうなのだ?」


 躊躇する姫子に皆は言う。


「そりゃ怖いっスけど、首突っ込んだ時点で覚悟は出来てるっス」


「これは私の人生を賭けた反逆です。元より覚悟の上ですわ」


「人を治せるならどこでもいい」


 各々が瞳に光を宿して言う。


 それを受けて、姫子はか細い声で言う。


「だって……命が、だな……」


 だんだんか細くなる声は車の走行音にかき消された。


 だが、直ぐにぐんっと顔を上げると、力強く言う。


「了解した! 皆の命! ワシに預けてくれ!」


 葉加瀬は涙目を隠すように笑い。


 小船屋は先を見据える様に遠くを見て。


 加治は目を瞑って軽く頷いた。


 折り合いを見て、小船屋が口を開く。


「ではここからの情報共有を。ここからシャングリラまで我々は陸路で移動しますわ。無論、追手は途切れませんでしょうから、上元町脱出戦となります。先ほど別れた分隊達はもう少しで合流予定ですので、その部隊で我々の周りを固め、一直線に上元町を出ます」


 小船屋の案に、加治が手を挙げる。


「車の護りは必要ない。俺が車に触れている限り安静だからな」


 加治の言葉に、成程と小船屋は手の平を叩き、無線マイクに喋りかける。


「爺や作戦変更。護衛不要。部隊は我々の車両に付かず離れずで並走すること」


 作戦内容を聞いて、葉加瀬が小船屋に話しかける。

 

「散って攪乱とかはしないんスか?」


「相手の目標が分りやすい上にその目標が無敵なんて好条件、見逃す手はないですわ。私たちでヘイトを取りまくって被害を最小限にしますわ」


「成程、それはそれは確かに効率的っスね」


 葉加瀬は素直に関心する。


 作戦の効率性に付いて二人が更に語っているのを加治は眉をひそめて聞いている。


「まぁ、いいがね。呑気な奴らだ」


 加治はため息を一つ吐く。


「加治医師を信頼しておるのじゃよ」


 懐のノートに何やら書き込んでいた姫子はそれを閉じると加治に話しかける。


「信頼? まだ数えるほどしか会っていない人間を?」


「いや、ワシはそこまでお人好しではない。ワシが信頼しておるのは尾方じゃ」


「俺が尾方の主治医だからか?」


「尾方の友人じゃからだ」


「俺が?」


「そうじゃが?」


 怪訝そうな顔をした加治に姫子は言葉を続ける。


「尾方は別に点滴してなくてもお喋りな奴じゃぞ。加治医師の話も良くする」


「それは知らなかった。口煩い医者だと言っていたか?」


「口煩く頑固で融通の利かない医者じゃと」


「あの愚患者が……」


「じゃが、同時にお主が主治医じゃなければもうとっくに自分は死んでいたとも言っていた」


「死んでも死なないだろ。そういう病気だ」


「だが、そう言っておったよ。命の恩人で数少ない友人だとな」


「……」


 加治は少し押し黙り、考えてから言った。


「俺はアイツの内臓の位置まで知っている。親しいといえば親しいか」


「どんな納得の仕方? 医者の立場から少し離れてみてはいかがか?」


「医者目線でしか人と接して来なかったから、接し方が分からん。そもそも医者じゃない俺はただの嫌な奴過ぎるだろう?」


「うむ、お主は間違いなく尾方の友達じゃよ。ダメ方面のベクトルに謎の説得力がある」

 


 そうして皆がうだうだしている内に、車は上元町の駅を越えた。


 そのまま、シャングリラを目指して一直線で進むだろう。

 


 そうだ。


 

 折角なので、世界の外側についても触れようか。


 先に説明しておくと、シャングリラと上元町は地続きではない。


 線路の先にあるトンネルの中からのみ侵入が可能なのである。


 故に一行はそのトンネルを目指してひた走る。


 町の外の、『無の荒野』をそれをそれと認識することは、彼らには叶わない。

 

 この中で、その資格があるなら精々、悪道姫子ぐらいのものだろう。


 ここは蚊帳の外。


 最後の町、上元町でも。


 最後の神座、シャングリラでもない。


 世界の残滓の塗り残し。


 その一例。


 この世界は広いと思ったかな。


 国の話が出たかい?


 旅行の話は?


 隣町の話すら出てないんじゃないかい?


 まぁ、語らなかった部分を自慢げにつらつら語るのも格好が悪い。


 私の興味がある話には関係のない部分だしね。


 何が言いたいかって言うと。


 この世界で普通に暮らしている人間は、町の外に出ると言う発想がそも出てこない。


 ああ、シャングリラは別でね。


 手段とは言え、外を通路に選択出来ない。


 はずだ。


 故に彼らは分かりやすく外れている者なのだろう。


 原初の瑕疵であるオリジンの権能とも同種の例外。


 これは想定の範囲外の出来事だが、思えば尾方も初めはそうだった。


 つまり。


 これは面白くなってきたと言うことだ。


 少しちょっかいを出すのも、やぶさかでもない程にはね。

『外側』END

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