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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
145/175

『ブラックジャックによろしく』

前回のあらすじ

姫子狙われすぎ問題


 そう、貫いたのである。


 天使の手刀だ。


 人の体など、豆腐の様に抉る暴力だ。


 無論、姫子の華奢な身体など、一瞬で砕き抉る筈だ。


 しかし。

 

 ギィン!!!


 その実、手刀は金属音にも似た鋭い音と共に弾かれ、天使は数歩飛びのいた。


 一瞬の出来事に、当事者でもある姫子も目をパチクリさせながら固まっていたが、その肩に何者かの手が置かれているのに気付いた。


「患者を増やすな馬鹿者め」


「主治医殿!?」


 そう、そこに立っていたのは尾方巻彦の主治医である『加治かじ 健二郎けんじろう』であった。


 彼の権能『医者倒し(ドクターストップ)』は触れているモノの状態の完全固定化。


 つまり、彼が触れている物体はなんであれ変化しないのである。


 例えそれが天使の腕力であっても、悪魔のルールの前には等しく無力である。


 驚く姫子の頭をポンポンと叩いた加治医師は天使の前に立ちはだかる。


 その様子をぽかんと眺めていた姫子の隣に小船屋が立ち並んで言う。


 「あらやっぱり知り合いですのね。私が雇ったの」


 「や、雇った?」


 「そう、尾方さんの知り合いだって言うから」


 「し、しかし上元中央病院より好待遇な所などなかろう?」


 「知らないけれど病院辞めたらしいですわ」


 「なんと!? あそこ辞めるという概念があったのか!?」


 「そうよね……まずそっちですわよね。なんか追手がいて面倒だから匿って欲しいって言ってましたわ」


 「抜け忍みたいになっとる!?」


 「まぁ、メメント・モリに合流したがっていたから都合も良かったのですわ」


 姫子と小船屋の話に聞き耳を立てていた加治が不満げに言う。


 「尾方が最近めっきり姿を現さないからついに死んだのだと思って墓参りに行ったら辞めたと勘違いされただけだ」


 「患者をすっぽかして黙って出てくるからではなくて?」


 「知らん、書置きは残した」


 「なんと書いたのです?」


 「捜すな」


 「普通に事件ですわね」


 「こちらはカルテで文字など書き飽きているのだ。必要最低限にしたいのは当然だろう」


 心底うんざりした様子で肺の空気を吐き切った加治は天使を注視する。


 「キミ、正装を持っているな」


 加治の言葉に、天使は怪訝そうな顔をする。


 「姿勢と重心で分かる」


 さも当たり前かの様に言う。


 その様子に、天使は瞬時に判断した。


 この悪魔には、時間を与えてはいけない。


 それは天使が悪魔と対峙する際の基本。


 なにもさせない事。


 情報を与えず、瞬殺する事。


 それが、どの様なルールを有しているか分からない悪魔への。


 最も効率的な対処の仕方だった。


 決めてから天使の行動は早かった。


 懐から指揮棒の様な正装を出す。


 そしてその棒は変幻自在に形を変えながら瞬時に伸縮し、音速で加治の首を薙いだ。


 ギィン!!!


 再び甲高い金属音の様な音が響く。


「ふむ、察するに形が自在な棒と言ったところか、シンプルだな」


 胸ポケットに指していたボールペンで正装を受け止めた加治は、正装を掴む。


 恐らく天使は直ぐに正装を手元に戻そうとしたのだろう。


 しかし、それは叶わなかった。


 変幻自在の正装とはいえ、『医者倒し(ドクターストップ)』の前では完全に固定される。


 正体不明の権能により正装の機能停止を悟った天使は、地面を蹴り砕き、天使の独壇場である接近戦に持ち込んだ。


 無論、こと力比べになれば、加治に勝ち目はない。


 固定化された物質は物質同士の押し合いに対して圧し負けない性質があるが、それが人の手となるとまた別である。


 発動中の医療行為を前提としたこの権能は、人のみ身体状態の固定化に留まる。


 故に、決して、対人戦に特化した権能ではない。


 しかし、それは普通に使ったらの話。


 医者である加治は、自分の権能を無数の患者に処方し、その練度に磨きをかけていた。


 ばさりと、大きなシーツで自分を覆う加治。


 ギィン!!


 これがこのタイミングで攻撃していた天使の攻撃を弾き飛ばす。


 目で追えない天使の攻撃への加治なりの対策である。


 すかさず、加治は白衣の懐からメスを取り出し、シーツを切り裂きながら天使の肩に突き刺す。


 「ッッ!!」


 驚いた、天使が距離と取ろうと足に力を入れようとした時。


 シーツの端から加治の手が伸び、天使を掴んだ。


 「……?」


 その手を握りつぶせば一転有利のその状況に、一瞬、天使の思考が滞る。


 しかし、判断の前に、とある感覚に五感を支配された。


「(――――痛い!!!)」

 

 そう、痛みである。


 刺された肩の痛みが、刺された瞬間の痛みから降りることなく、延々と五感に流れ込んでくる。


 そう、『医者倒し(ドクターストップ)』は状態を固定化する権能。


 人が刃物で差された瞬間に触れれば、その状態を固定化する。


 痛みというのは本来、流動的なものである。


 激しい痛みであれ、小さな痛みであれ、波の感覚はあれど痛いと言う波が断続的に五感に刻まれるのだ。


 しかし、加治に触れられるとこれがない。


 痛みの頂点、最も耐えがたき状態を保持され、感覚的にはこれが増大していく。


 人は、脳は、それに耐えられるようには出来ていない。


 無論それは、天使であれ変わりはなかった。


 暫くガクガクと震えていた天使は、やがて白目を剥いてその場に倒れこんだ。


 「……はぁ」


 加治はメスの血をナプキンで拭きながらため息を吐く。

 

 「医者免許返納しておいて正解だったようだ」


『ブラックジャックによろしく』END

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