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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
144/175

『ポケットの中の戦争』

前回のあらすじ

ロマン重視で

 

 そこから先はさながら小さな戦争だった。


 いや、戦争に大小はない。


 まさに戦争だった。


 統率のとれた小船屋の兵隊は天使を扇状に取り囲む様に展開。


 一切の容赦ない実弾の雨が真横から天使に襲い掛かった。


 実弾とはいえ天使には非殺傷弾程度の威力にしかならない。


 しかし、この場では非殺傷弾程の威力もあると言わせて貰おう。


 なにせ数の暴力である。


 天使も防御、回避に注力せざる得ない。


 それでも突進してくる天使を散会して躱した兵隊は再度扇状に展開して構え直す。


 まるで猛獣狩りである。


 そうしてジワジワと天使の体力を削いで行く兵隊を尻目に、満足げな顔で小船屋は装甲車から降りて来る。


 そしてパンパンと手を叩くと葉加瀬と姫子のところへ歩み寄った。


「ふふ、どうだったかしらメメカ。惚れ直したでしょ?」


「め、めちゃくちゃではあるっスけど、命拾いをしたのは確かっス……ありがとうっス綾海さん」


 安堵と一種の呆れでペタンと座る葉加瀬に小船屋は手を差し伸べる。


「ふふ、ふふふ、礼には及ばないわメメカ。私たちの仲じゃない。それでもお礼したいなら今度一緒にお風呂に入るぐらいでいいわよ」


「あはは、綾海さん友達の感性が小学生っぽいっスよ? それはご近所の幼馴染とかがやる奴っス」


「釣れないわねえ。そこも良い所だけれど」


 微妙に会話が嚙み合ってない二人に戸惑っていた姫子が意を決して口を開く。


「小船屋嬢! ご助力心から感謝致す! しかし、ここまで大事になってしまっては! どうお詫びをすればよいか!」


 ご令嬢は髪を翻して姫子に向き直して言う。


「いいのよ姫子ちゃん。最初から覚悟して来ましたから」


「か、覚悟?」


「そう」


 小船屋は姫子に向かって手を差し伸べる。


「私たち小船屋造船所改め、小船屋カンパニーはメメント・モリに付くわ。好きに使って頂戴」


「は……ハ?」


「こんな状況だからあれこれ説明出来ないけれど、信頼してくれるかしら?」


 姫子は数舜呆気に取られていたが、ギュッと目を瞑り立ち上がった。


「うむ、その判断に感謝する。信頼できる味方として申し分ない」


「ふふ、自分の上役としては本当はもう少し人を疑って欲しいのですが、可愛いから全部許します」

 

 メメカもふんすと立ち上がり、横に並ぶ。


「さて、では積もる話もあるっスし、早くここから離脱するっスか」


「そうね、時間的にそろそろ追手が来てもいい頃ですし」


 ちょうど戦闘、いや戦争も終わったらしく、うずくまった天使を兵隊が取り囲んでいるところだった。


 そこに戦争に参加していたらしい小船屋の執事、じいやがご令嬢に駆け寄る。


「お嬢様、状況終了にてございます」


「ありがと、被害状況は?」


「軽傷4人、重傷2人。死亡者はありません」


「ん、上出来」


 小船屋はチラリと姫子を見て言う。


「動けない天使が3名。どうする?」


その質問の意味と意図を姫子は瞬時に理解した。


なぜなら覚悟をしていたからだ、何時かこの活動を続けるのであれば、メメント・モリの総統で居続けるのであれば、誰かにされる。


大切な問い。


故に。 


「良い、捨て置こう」


用意していた言葉を、そのまま放り投げた。


「……いいのかしら?」


小船屋が怪訝そうに言う。


「無論考えなしではない。状況に基づいた判断じゃ」


「どの様な状況か聞いても?」


「ワシが殺したくない」


ふんっとふんぞり返った姫子が誇らしげに言う。


「こ、この人は……」


 流石の葉加瀬も呆れ顔で笑っている。


「その、色々大丈夫なの? 悪の組織のボスなのよね貴方?」

 

「良いったら良い。この程度の雑兵見逃したとて尾方達なら一瞬じゃ。それに――」

  

姫子はほんの一瞬躊躇ってから言う。


「ワシが殺さずとも……尾方が殺す。大叔父様が殺す。搦手殿が殺す。国門殿が殺す。皆が殺す」


 ギュッと握りしめた拳を悟れるぬよう、姫子は続ける。


「必要な犠牲は、人生経験が豊富な皆が判断し、各自行う。だから未熟なワシは、判断せぬ」


 二人に向けられた視線は弱々しいものだったが、確かにまっすぐと二人の眼を見据えていた。


「それで、どうじゃろうか?」


 それは、姫子が幼いなりに先を見据え、決断した覚悟だった。


 いや、犠牲なき達成を視野に入れてない時点で幼くはない。


 現実的な妥協点だ。


 それを感じ取った小船屋は二ッと笑って姫子の頭を撫ぜた。


「上等ですわ。私も乗った」


 葉加瀬もどこかホッとしている様子だ。


 三人は目を見合わせ、フフッと笑うとこの場を後にする為に装甲車に近寄った。


 その時。


 「お嬢様!! お逃げを!!!」


 「――――ッ!」


 三人の天使の拘束に人数を割かれていた部隊の視線を搔い潜り、追手の天使が三人の目前に迫っていた。


 そして人間の反応の外側から放たれるその天使の手刀は、正確に姫子の右肩を貫いた。

『ポケットの中の戦争』END

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