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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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「非効率」

前回のあらすじ

もっかい右みないから……

 

「天使は正義の味方なんだよ」


 つまらない無数の習い事の隙間に、たまに帰ってくるお父様は、敬虔でよくそんなことを言っていた。


「綾海は天使になりなさい。白い羽根がきっとよく似合う」


 心からそう思っているのだろう。


 深く考えず、でも私のことを思ってお父様はそう言っていた。


 私自身、よくも考えず、それが善きものだと信じて疑わず、そうなるつもりでいた。


 しかし、私たちが、私が善いと思っていたものは。


 私にとって善いものではなかった。


 正義のために行われた天使の上元町での悪魔の強襲作戦。


 お父様は偶然その現場に直面し、追い詰められた悪魔に人質にされ、その悪魔ごと天使に串刺しにされて死んだ。


 それを善きことだと。


 大儀だったと皆はお父様を讃えた。


 私はその日からずっと。


 今に至るまで。


 その称賛に納得していない。



「綾海さん!?」


 突然の交通事故に呆気に取られていた葉加瀬であったが、突然の知り合いの登場に我に返って驚きの声を上げる。


「もう大丈夫ですわメメカ!! ワタクシが来たからには貴方には指一本触れさせません!!」


 派手にはためくスカートのフリルを翻し、御令嬢は装甲車の上で凛と胸を張り立ってみせる。


 その堂々とした立ち振る舞いと、先の交通事故により暫く固まっていた残りの天使達3人も、ハッと我に帰り装甲車を包囲する。


 「綾海さん! 何が何だか分からないッスけど逃げてください!!」


 「いいえ、逃げないわメメカ! これはワタクシの為でもあるの!」


 大袈裟に身振り手振りをした小船屋はドカッと装甲車の機銃に足をかける。


 天使達は腰を落として臨戦体制に入る。


 人の、しかもか弱い女性の動かす機銃など、天使に当たるわけもない。


 この御令嬢が状況を。


  最悪の結果を後送りにしたことは間違い無いが、引っ掻き回した現状は元に戻りつつあった。


 もはや装甲車で轢いた天使ですらその衝撃から立ち直り、無機質に立ち上がりつつある。

 

 天使に対して。


 人間の出来る手立ては、問題の先送り。


 つまり時間稼ぎに他ならない。


 問題を解決してくれるなにかを。


 助けてくれる機会を人を訳を。


 手を目一杯伸ばして待つしかない。


 そんな事は。


 この世界を人として生きて来た小船屋は、痛いほど解っている。


 故に起こるのは諦観であり。


 友の為、命を賭して駆け出した少女の足は。


 自ら差し出したはずの命を前にすくみ上がった。



 はずだった。


「気に食わないんですの……!」


 ギリっと噛んだ奥歯の反動で、白い歯が影に映える。


「その自らが正しいと信じるどころか意識すらしてない無機質な正義が……心の底から気に食わない」


 言葉通り心の底から軽蔑するように、小船屋は眉を顰めて天使を睨みつける。


 道路の塗装を直すように。


 ズレた机を正すように。


 増えた枝葉を落とすように。


 耕した田畑を慣らすように。


 分けた食料を均一に配るように


 「ただ為す。為すために。ただただ為される正義を。もう黙って見てられないと。そう言ってるの」


 昔見過ごし、為された正義を一瞥した少女は、時を経て今度は正義を睨みつけてみせた。


 貼り付けられた正義は、湧き上がる正義を前に怯む事を余儀なくされる。

 

 事実、天使達は全てにおいてスペックで勝る少女に対して、気圧されていた。


 彼らには理解出来ないだろう。


 故に圧されるのだから。


 しかし、覆しようのない武力差は正しさを簡単に転覆させる。


 理解不能の威圧感に苛まれた天使達は、まずその発信源を潰すことを最優先に動いた。


 音速と化した四肢が小船屋の命にいとも簡単に迫った。


 ドンッッッ!!!


 瞬間響いたのは、銃声だった。


 胸を貫かれたはずの御令嬢は、堂々とその場に立っており。


 いの一番に動いたはずの天使が逆に吹き飛ばされていた。


 「ありがとう、じいや」


 まだ硝煙が立ち始めたばかりの散乱銃を構えたミリタリー装備の老人が小船屋の後ろからスッと現れる。


「あまりご無茶をなさらないでくださいお嬢様」


「大丈夫よ。少し怖かったけれど。メメカと貴方がいるじゃない」


 油断なく円滑にリロードをした老人はピンと背筋を立てて小船屋の隣に並ぶと、サッと手で軽く合図をする。


 すると装甲車の扉が開き、完全武装の隊員が統率乱れぬ動きで装甲車の周りを固めた。


 バタタタタタッッッ!!!

 

 同時に、どこから現れたのか、数台のヘリコプターが装甲車の上に滞空し、隊員が次々と降下して来た。


 あっという間に辺りは武装された兵隊に包囲される。


 その人数はざっと数えた限りでも五十人近くに登った。


 再び呆気に取られる葉加瀬と姫子。


 優雅に向き直った小船屋は、葉加瀬に声をかけた。


「さて、メメカ。さっき話してたわよね? 天使ってどれくらい強いんでしたかしら?」


 葉加瀬は半笑いで言う。


「……重火器を所持したベテラン兵隊一個分隊くらいッス」


 小船屋は再び、天使(せいぎ)に向き直った。


「あらあら、大変。全く非効率ですこと」


 言葉とは裏腹に、御令嬢はいい顔で笑っていた。

「非効率」END

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