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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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尾方巻彦の誕生日

尾方巻彦

35歳

誕生日:10月14日

「ハッピーバースディじゃ尾方! めでたいめでたいのう!」


「うん、ヒメ。なぜか久しぶり」


「メタい話はやめんか尾方ぁ!」


「ところで何でおじさんの誕生日パーティの参加者がヒメと僕の二人だけなのかな?」


「尾方を抜けば一人じゃ」


「なのかな……?」

 

「そりゃお主が当日に突然ぼそりと呟いて初めて発覚したからじゃろ」


「みんな暇じゃ無いの?」


「大人は忙しいのじゃ」


「僕は?」


「逆説的に子供と位置付けられるの」


「一人称おじさんなのに?」


「聞けばそういう一人称の少女も居るらしいぞ」


「一人称おじさんへの領地侵犯だ」


「そんな枯れた土地に人が来てくれただけでも喜ばんか」


「はぁ、別にいいけど誕生日に用意してくれたお菓子がカステラってどうなのよ?」


「煎餅と選択制じゃぞ?」


「せめて柔らかくあってくれ……」


「ほい、カステラ。蝋燭も停電用の3本しかないが壮大に消してくれ」


「わぁい誕生日で見た事がない点灯時間に重きを置いた極太だぁ」


「年齢の数だけ無くてすまんのう」

 

「この蝋燭を36本なんて並べたらなんかの儀式だよ」


「36歳の誕生日会なんて芸能人かなにかの儀式かの二択じゃろ」


「違いない」


「誕生日プレゼントもあるぞ」


「僕が言うのもなんだけど今日知ったんだよね?」


「こんなこともあろうかと事前に準備しておいたのじゃ」


「……総統」


「お主本編では頑なに呼ばぬのにこんな所で呼びよったな」


「まぁまぁ、ところでがめつい様で恐縮だけど何が贈られるのかな?」


「なんじゃと思う?」


「ヒントは?」


「朝は四本、昼は二本、夜は三本なーんじゃ?」


「人間を贈ろうとしてる!?」


「正解はエナジードリンクじゃな」


「一部の働く大人達を無遠慮に刺すのはやめよう」

 

「すまん、興味本位で買ったは良いが辛くてのう」


「炭酸を辛いと表現する若人がいるのか」


「ピリピリして舌が痛いしあげるのじゃ」


「用意してたって話は?」


「作り話じゃな。もはやこの気遣いこそがプレゼントと言えるじゃろう」


「真心が暖かい、焼け焦げそうだ……」


「低温火傷に注意じゃな」


「え、帰っていいかな?」


「待て待て待て、嘘じゃ嘘じゃ」


「この世界が?」


「タチの悪い方に病むでない、まあ聞け」


「なに……?」


「実はドッキリなんじゃ」


「この世界が?」


「そのノリやめんか! 皆が居ないと言う事がじゃよ!!」


「みんなは……僕の心の中に……?」


「繊細過ぎるじゃろこの36歳」


「いや、流石に冗談だけどつまりどう言う事なのかな?」


「実は皆は尾方の誕生日会のために買い出しに出かけておるのじゃよ」


「わぁ、それおじさんに話していいの?」


「いや駄目じゃな。頼むから知らんかった振りをしてくれ」


「なんでバラしちゃうのさ……」


「いたたまれなくなって来ちゃって」


「ちゃってじゃないよ全くもう。じゃあ、そういうことで」


「待て待て尾方、何処へ行く?」


「エスケープなり」

 

「なりじゃないぞなりじゃ! 主役がおらんでどうなる! さっきまで祝ってもらえないでいじけておったではないか!」


「いや、いざみんなで祝われるって言われると物怖じしちゃって……この埋め合わせは来年するから!」


「埋め合わせれんじゃろ当年の誕生日は!」


「行けたら行くから!」


「来るもんなんじゃよ誕生日とお祝いわ!」


「はぁ、やだなぁ、後ろめたい……」


「おおよそ誕生日の主役から最もかけ離れた言葉が出よるな」


「OKOK観念した。受けますよ受けます、お祝いを」


「いやいや受ける補習みたいに言いよるなコイツ」


「げげ、そうこう言ってたら玄関が騒がしてなって来ましたね全くもう」


「ふはは、観念せい副総統殿」

 

 椅子からチョンッと飛び降りた姫子は踵を返す。

 


「ハッピーバースデー尾方巻彦。生まれてきてくれてありがとう」

 


 尾方は一瞬、呆気にとられたが、口角を緩やかに曲げると立ち上がって言った。


「しかして、誕生が祝われているのは私の何回目の誕生についてなんですかね?」


玄関へと続く居間の扉に手をかけて、悪道姫子はハッキリと言い放った。

 


 「ただの一回、お主の人生にじゃよ」

 


 勢いよく扉は開かれ、クラッカーの破裂音と共に見知った顔が部屋に雪崩れ込んだ。


「誕生日おめでとうっスおっさん!」


「おめでとう不肖の弟子」


「お誕生日おめでとうございます尾方さん」


「おめでと、尾方ちゃん」


「嫌々連れてこられた。全くめでたくない」


「がはは、めでたいのう尾方の!!」


「おめでとう」 「おめでとう」 「おめでとう」


 居間に所狭しと入ってきた面々は、皆一様に尾方に祝辞を挙げる。


 尾方は暫くキョトンとしていた。


 しかし、ふと噛みしめる様に頭を下げ、そして解を得たように頭を挙げると、一言こう言った。


「最終回?」


「TVエヴァの話をしておるのか尾方ァ!!!」


 


 

 この物語における最終回を語るのは、まだ少し先の話になりそうだ。

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