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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
137/175

『道化師は閉演まで笑う』

前回のあらすじ

始まり始まり


 時は少し戻り、搦手の手より皆が零れ落ちた数舜後。


 零れ落ちたメメント・モリと大天使一行は、固まった。


 理由はそれぞれであるが、大天使達については一致している。


 神の降臨である。


 なぜ?


 疑問を置き去りにして。


 大天使達はただただ平服する。


 そこに、自分たちの絶対が在ることを見逃さないように。


 大天使たちの様子を見て、替々は眼前の飛翔体が善の神であることを察する。


 作戦の成功を確信した替々は反射的に搦手を目で探した。


 それはすぐに見つかったが、替々は硬直してしまった。


 倒れて肩で息をする搦手が作る血溜まりの量が、自分のよく知る致死量を、軽く越えていたからである。


「搦手君……ッ!」


 状況を理解している。


 なるべくして()()なったことが分かっている。


 だから尾方巻彦を話し合いに呼ばなかったのだ。


 バッと先ほどまで搦手の手の中で倒れてピクリとも動かなかった尾方が飛び起きる。


 「――ッ!」


 なにかを察した様に周りを見渡した彼は搦手を見つけると、バタバタと外聞もなく手足を回し駆け寄る。


 「搦手さん!!!」


 腫れ物に触れられないように両手が硬直した尾方が大きな声で呼びかける。


 尾方には分っていた。


 もう搦手が触れればそれだけで絶命しかねない程に弱っていることを。


 その儚さを。


 その危うさを。


 故に尾方は動けない。


 選べない。


 その一秒が、その数舜が、その瞬間が。


 途方もなく貴重なこと知りながら。


 それでも動けない。


 だって――――。

 


 その時。


 搦手の右手が、尾方巻彦の右手を掴んだ。


 知っている。


 その手に握力が無いことを。


 尾方は知っている。


 だがその手の平は。


 痛いほどに尾方巻彦の手を握りしめていた。


「……ッ!」


 尾方はあっけにとられて動けない。


 だって、儚いはずである。


 だって、危ういはずである。


 目の前のこの男は。


 人は。


 もう――――。


『そこまで』であるはずである。


 しかしこの握力は。

 

 気圧されるほどの存在感は。


 一体どう説明するというのか。


 その時。


「……ねぇ、尾方ちゃん」


 微かだがハッキリと搦手は尾方に語り掛ける。


「……任せていいかしら?」


「……なにを……?」


 吹いたら消えるような声で尾方が辛うじて返答する。


「……」


 その返答を貰うまでの数舜、尾方には何時間にも感じられた。


 そして。


 一言だけ。


「私たちの家をよ」


 搦手は一層力強く尾方の腕を握る。


 虚の入っていた尾方の眼に、灯が宿る。


 その言葉の意図するところを正しく理解できたか分からない。


 だが、その言葉が綴られる意味を理解する。


 尾方はその手を強く握り返した。


 「うん、任された」


 いろんな言葉が脳裏をよぎったが、この言葉で良いと尾方は自分の言葉でこれに応えた。


 満足そうにした搦手は、顔も向けずに左手からなにかを放る。


 その先には、写楽 明が立っていた。


「……オサム、これは?」


 それはなんの変哲もない金属の棒。


 どうやら電信柱に埋め込まれていた鉄柱の一部の様だった。


「……知らないわよ、アンタが勝手に拾ったんでしょう?」


 あくまでも写楽の方を見ない搦手だが、どこか安らかなその語りに、満足した様に写楽は背を向ける。


 そして一言。

 

 「死に場所はここでいいのかい?」


 呟くように言う。


 「そんなの……死んでから考えるわよ」


 その応えに満足そうに微笑んだ写楽は背を向けたまま歩いて行った。


 搦手の腕から力が抜けていく。


 その意味を、尾方巻彦は知っている。


 しかし、その瞳に、既に迷いはなかった。


 チラリとそれを一瞥した搦手は、にやりと笑う。


 「……上等」


 搦手は、天に向けた左手をパッと開いた。


 「私ね、墓標は派手なのがいいの」


 そう呟くと。


 搦手は高らかに笑った。


 過去を。


 現在を。


 自分を。


 他人を。


 仲間を。


 ひっくるめて笑う。


 そしてそのタイミングは。


 善の神がちょうど、宙が割るのと、同時だった。


道化師は閉演まで笑う(カーニバルエンド)


『道化師は閉演まで笑う』END

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