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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『不変』

前回のあらすじ


悪魔は嗤う

 

 世界にばら蒔かれた致命的な悪魔(エラー)


 無責任にも私が放った私の弱点。


 それは与えられた才能で。


 それは与えられた力で。


 それは委ねられた選択。


 『手中の』が気付くとは思わなかったが、追いつめられると人間どう転ぶか分からないものだね。


 私は別に悪魔を贔屓目に見ているわけではないが、面白くなって来たとでも言っておこう。


 ではではさぁさぁ、火付け役はこの私、悪の神でお送りしております。


 引き続き、お付き合い、どうぞよろしく。



 不敵に嗤う悪魔を、天使は怪訝に見下ろす。


 余りにも理外の動きをした搦手を、色無は明らかに警戒していた。


「アナタ……もしかして『気づき』ましたか?」


「さぁ、何のことかしらね?」


 天使の疑問を悪魔はサラリと流す。


 天使は気付かれない程度に奥歯を軽く噛むと、両の手を広げて正装を震わせた。


 その目には一寸の迷いもない。


「だからどうした。私は天使。仕えて正す」


 相対する搦手は破顔して斜に構える。


「それがどうした。私は悪魔。孤りで乱す」


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ。


 二人の間に静寂が流れた。


 しかしこれは、相手の言葉を汲み取る相互理解の時間では決してなく。


 相対者の。


 思想を夢想を、理想を空想を。


 絶対的に否定するまでの助走。


 そして。


 音もなく握られた搦手の手のひらが、開戦の合図には充分だった。


「メメント・モリ戦闘員、『手中の悪魔』搦手収」


「…戒位番外『天使』、色無染」


「「貴方が死ぬまでやりましょう」」



 空間の掌握と解放、それを自在に操る搦手は、文字通り捕えられず、また捉えられなかった。


 色無との間合いを意のままに操り、一打加えては引いて、加えては引く。


 価値なき四肢なら取るにも足らない殴打ではあるが、今の搦手には、響くに足る価値がある。


 芯を外していなす色無にも、これには若干の焦りの色が見え始めていた。


 そしてその些細な隙を、悪魔は見逃さない。


 「せいッ!」


 「ッッ!?」

 

 フェイントを織り交ぜた搦手の胴回し回転蹴りは、色無の翼の防御を躱し、その体を地面に墜とした。


 観念したように地に足付けた色無は軽く口を拭いながら言う。


「……なんですか胴回し回転蹴りって、バキの世界でしか見たことありませんよ」


「色々想定して鍛えてるのよ。乙女は強くなくっちゃね」


 不機嫌そうな色無は、チラリと自身の翼を見る。


「……一理ある」


 色無の脳裏に浮かぶのは、やはり追いかけるべき先輩の後ろ姿。


 取るに足らないと思っていた最近の彼の行動に、色無は解を得た。


 「正装『自幽』」


 この時、色無が解き放った鎖の名は、身体能力の限界。


 無論通常であれば、尾方巻彦の()()()()()のこの運用。


 しかし色無染は、その性質上、この代価を一切払う必要がない存在である。


 「……あなた、死んでも生き返るのかしら?」


 事態を察知した搦手から当然の質問が投げかけられる。


 それはもちろん最悪の想定質問であったが、


 「いや、死んだら死ぬよ。ただ、私は死なないだけ」


 帰ってきた返答は、最悪の向こう側へ落っこちた。


 「私は、物理的に不変なんだ。人間の強度を超える力にも、不変ならば耐えられる」


 その言葉が意味するところは、余りにも残酷で。


 「幾ら圧しても、幾ら曳いても、結果は私に届かないけれど」


 機械のように無機質に響く声帯が空気を震わせる。


 「どうぞ続けましょう」


 搦手は、全ての言葉を理解し、吞み込んだ。


 その上で、その事実に対し、嗤ってみせる。


 「応ともさ」


 色無の間合いにまるで散歩でもするかのように入った搦手は、左手をスッと差し出す。


 それは握手の誘いではないことは、色無でも分かった。


 手の甲を搦手の手の甲に合わせるように差し出し、軽く腰を落とす。


 両者甲を離さず間合いでの殴打戦。


 先ほどの話を聞いて尚、決着を望んだ搦手の案に、色無は乗った。


 無論、その心意気を買ってではなく。


 淡々と処理するため。


 二人の間に、沈黙の時間が流れる。


 合図は、自然と訪れた。


 コンッ


 スタジアムの瓦礫に乗った小石が、風にあおられて落ちる音。


 瞬間、両者の右手が、両者の視界から消えた。


 握力なき、しかし価値に固められし搦手の右手は、色無の顎を振り抜いていた。


「……ッ」


「尾方ちゃんほどじゃないわね」


 勝利なき悪魔は、それでも不敵に嗤っていた。

『不変』END

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