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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
130/175

『オリジン』

前回のあらすじ


恐らく好きなタイプの人が少数



二枚田の介入により、戦場は広く素早い変容を見せるようになる。


自幽の発現を防ぐのに加え、場所の入れ替えによる適材適所の人物配置が可能となったのだ。


色無に対して防御が有効な筋頭、國門、正端、瑠花を攻撃先の相手を入れ替え防御。


有効な攻撃方法を持つ江見塚、替々、八を死角にいる相手と入れ替え常に奇襲を可能にする。


しかし、それを顔色一つ変えずにいなし続ける番外天使に対し、悪魔達ないし大天使達には疲労の色が見え初めていた。


それも当然、全員が全員、油断の一切無い極限状態での攻防が延々と続いているのである。


人には消耗が磨耗がある消費がある。


ならば目の前の『コレ』は。


翼の生えたこれは。


消耗も磨耗も消費もなく坦々とこなすことをこなすこの無機質は。


果たして。


「があッ!!」


その対極に位置する悪魔が瓦礫を押し退けてスタジアムに幾度も戻る。


消耗し、磨耗して、命を消費してこなしたい事を荒々しくこなす有機物。


尾方巻彦は色無染を見据える。


再び宙に浮いた色無は尾方巻彦を見下ろして言う。


その瞳は、寂しそうな色を帯びていた。


「ごめんなさい。終わりにしましょうか先輩」


「釣れないこと言わないで、も少し付き合ってよ」


尾方の返しに心底不満そうな色無は頭上の正装、閉輪を高速回転させる。


尾方の平輪により詰まった歯車の様になっていた輪は詰まった尾方の平輪を弾き飛ばす。


「...!!」


瞬間、尾方がスタジアムの中央に駆ける。


「集合!!!」


尾方の言葉に各々は時間差あれど反応し、全員がスタジアムの中央に素早く集まる。


「浅慮、切り刻みやすくなるだけですよ?」


「僕の左手みたいに?」


尾方の言葉に一瞬眉がピクリと動いた色無だったが、すぐに平輪を天にかざす。


「『常無とこなし』」


無機質な輪はスタジアムを囲むほど巨大な光の輪となり、その刃渡りを延々と広げる。


「...こいつは!!」


國門がハッと顔を上げる。


「悪海組が...全滅した時の...!!」


そう。


これは不治の樹海にて悪の組織『悪海組』が掃討された際に使用された平輪の使用法の一つ。


その輪の内側の権能、正装の効力を封じて輪の刃で両断する処刑装置。


樹海での悪海組掃討に使用時は標的に天使が居る事を色無が『失念』していたので、正装の効力は封じていなかった。


故に國門は偶然の正装使用で生き残ったのである。


しかし無論。


今回は無差別掃討。


天使と悪魔の区別無く。


全てを封じて返しで刻む。


この輪の内にあれば。


【尾方巻彦も死ねば死ぬ】。


理を還す太平の輪。


条件下とはいえ権能の与奪が可能な正装。


そう。


この正装は最も。



神に近い装いである。



輪の中の全員が違和感に気づく。


それより少し早く、輪は縮小をはじめる。


刃は素早くスタジアムを両断し、迫る。


各々が正装と権能の不自由に虚を突かれた一瞬。


尾方巻彦が一歩前へ出た。


「『常無とこなし』!!!」


尾方の光の輪が手元で逆回転し、迫りくる刃を食い止めた。


ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!


激しい七色の火花が飛び散り、小さな光輪が巨大な輪の収縮を食い止めている。


平輪の状況下で唯一発現出来る正装、それは無論平輪に他ならない。


しかしその状況が長くは続かないことは、尾方の形相と欠ける小さな輪で明らかだった。


事態を見て、動こうとする幾人か。


「動くな!!!」


血反吐を吐きながらとは思えない気迫。


尾方巻彦の瞳には、微塵も諦めの色は入っていなかった。


しかし尾方巻彦には別に秘策がある訳でもなく。


勝算がある訳でもない。


ただただひたすらに。


出来る事を出来るだけしている。


諦められない。


諦めない。


遠のく意識を必死に繋ぎとめる。


離さない。


放さない。


ギュッと瞳を閉じる。



瞼の裏に焼きついたとある光景。


坂道の上、夕陽を指差す長身の女性。


彼女は花の様に笑って言う。



「――――――だから私は、生きる人の総てを肯定するんだよ」





「――――ッッッッッッッ!!!」


肌が剥がれ落ちる。


瞳が蒸発する。


五感が混濁する。


立っているかも座っているかも寝ているかも分からない。


でも。


最初を覚えている。


自分という存在の、根幹を握っている。


だから倒れない。


だから斃れない。


自分はあの人の。


後ろを歩いているのだから。


だから。



その時。


「さよなら」


と。


潰れたはずの五感にそんな言葉が聴こえ。


尾方の身体はフワリと軽くなった。

『オリジン』END

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