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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
124/175

『疫病神と意気地なし』

前回のあらすじ


なにも壊す事なくない?(善の神の談)


バチバチと無機質な、電流のこぼれる音がスタジアムに響く。


無造作にそれから手を引き抜いた天使は、浮力を失ったそれをほいっと放り投げた。


「......」


一同は静寂を享受する他ない。


言葉など、付いて出るわけもない。


皆等しく、激しく混乱していた。


「...じゃ、そういうことで」


そんな中、渦中の人物が足早に踵を返そうとするので、


「ちょ、ちょっと待ってください!」


一の天使、見上天禄が流石に待ったをかけた。


「ひ、なな、なんでしょう?」


思わぬ声がけに大きくうろたえる色無。


「なにって...いや、なにをしてるんですか貴方は?」


「え、いや、別に、なんともないというか...」


なんとも要領を得ないしどろもどろな回答に痺れを切らした見上は声のトーンを一つ上げる。


「御神の目を壊すなんて何を考えてるんですかと聴いているんです!」


周りの大天使達も同意を目で訴える。


悪魔達も返答に興味を示していた。


しかし。


「なんだ」


『そんなことですか』


確かに色無はそう言った。


「そ...」


「私が是とすればそれは神の是です。それは神の四肢も例外ではありません。だから気にしないで大丈夫ですよ」


絶句する見上を他所に色無は饒舌に語る。


「大丈夫って...神はそれをお許しになられると言うのですか?」


「無論です」


ふんすっと胸を張る色無に一同は顔を見合わせる。


しかしただ一人、見上はジッと色無を見上げていた。


「一つだけ質問を許してください。壊しても問題ないのは分かりました。しかしなぜ、貴方は御神の目を壊したのですか?」


「ああ、理由ですか?」


色無は一瞬だけ考える素振りを見せる。


そして。


「白貫先輩の邪魔だったからですね」


笑顔でそう言った。


「...なんでその名前が出てくるんです?」


見上天禄は懐中時計をスッと手の甲に乗せる。


「私の大好きな先輩です。貴方もご存知なんですか?」


「ええ、まぁ、顔見知り程度ですが...」


「...その言い方、なんか逆に親しそうですね」


「......」




「なんか気に喰わないので死んでください!!」


「あんの疫病神が!!!」




ところ変わってここは尾方のアルバイト先、守本書店の店先。


一仕事終えて店番に戻った守本は座って一息付いていた。


お気に入りの蔵書を積み上げてカウンター内に置き、それを無作為に手に取り目を通す。


読み漁ると言うのはこの事なのだろう。


まるで断食明けの空腹を満たす様に読書に耽る守本の様相は、日暮れまで続いた。


そして休憩にコーヒーを注いでいる時、書店の入り口の暖簾が揺れた。


「守姉わりぃ、バイト遅れた」


現れたのは天使、血渋木昇。


血みどろのその姿を一瞥して溜息を吐いた守本は、その片腕を引いて風呂場に持っていく。


無造作に服を引っぺがして洗濯機に詰め込むと、腕と足を捲ってシャワーを引っ掻けた。


「...こんな事してもまたすぐ汚れるから意味ねぇよ守姉」


「綺麗になったらまた汚れられるでしょ?」


「...え、それなんか意味あんの?」


「知らないわよ」


されるがままに泡だらけになる血渋木は、口に入った泡をペッと吐き出してから言う。


「俺さ、やりたい事できたわ」


「前から有ったじゃない」


「いや、なんつーかさーやり方がわかった」


「そう、それで?」


シャワーの音が一際大きく浴室に響く。


「俺、行くよ守姉。友達が...蝙蝠が待ってんだ」


「そう。遅くなるの?」


「うん、多分」


「いつでも帰って来なさい。友達も連れてね」


「うん」


いつの間にそんな時間が経っていたのか乾燥機のアラーム音がし、血渋木は服を着る。


そして。


血渋木はジッと守本の顔を見つめる。


おもむろに半歩ほど足が前に出て、ピクリと右手が上がりかける。



しかし。



「いってくる」


踵を返した血渋木は暖簾を潜って出て行った。


「いってらっしゃい」


守本はポツリとそう呟いた後。


「意気地なし」


そう付け加えた。

『疫病神と意気地なし』END

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