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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『救出作戦』

解雇通告


「どうすれば小廻を助けられるじゃろうか?」


ここは悪道邸より少し東の路地、そのままアジトに残るのは危険と判断した姫子と葉加瀬は移動しながら作戦会議をしていた。


「そうッスねぇ。単刀直入に言うと大天使って肩書きが非常にお邪魔ッス。助けたところでデメリットしかないッスからね」


葉加瀬はオヤツのポッキーを噛み砕きながら言う。


「それでも彼奴はワシの――」


「友達ッスよね。了解ッス」


あっさり会話を遮られた姫子は膨れ顔で言う。


「宿敵じゃ。まだ決着も着いておらん」


「はいはい」


吊り下げたPCでなにやら入力する葉加瀬を姫子は興味深そうに見る。


「なにをしておるのだ? 作戦か?」


「モチのロン。要は小廻めぐるを大天使から引き摺り下ろせばいいんスよ」


「それが出来れば苦労せんじゃろう?」


「それが出来るんスよね! 私さん達なら!」


葉加瀬は慣れた手つきでアイフォンをクルリと回すと画面をタッチする。


「もしもし写楽さん? 五秒よろしくッス」


『はいは~い』


画面の向こうから気だるい声が入ったかと思うと葉加瀬がPCのエンターキーを押し込む。


すると。


『ピロン』と無機質な音と共にメール送信の文字が画面に写される。


「...ハカセ? これは?」


「メールを送っただけッスよ。内容は私さんの来た未来について。宛先は我らメメント・モリ女子会の一員にして戒位第三躯の大天使」


「まさか...!」


「彼女なら、意図を汲んでくれるはずッス」


いつの間にかメメント・モリの一員にされている大天使の元に、一通のメールが送信された。


内容は至ってシンプル。


これから起こる出来事を箇条書きにし、最後に一文。


『小廻めぐるを救ってください』



ところ戻ってここはシャングリラ戦線。


突然届いたメールを一読したシャングリラ戦線の戒位第三躯、正端清は静かに頷いた。


その様子を見ていた見上天禄は首を傾げて言う。


「どうしたんですか正端さん? なんのメールだったんです?」


「いえ、恥ずかしながら私用でして。気にしないでください」


そう言った清は素早く一文ほどの文章を打つと送信ボタンを押した。


「そうですか。これは失敬。しかし―」


見上は眼前を眺める。


「これほどの状況で落ち着いてらっしゃるとは、流石ですね」


そこには淡く輝く神の眼と、スタジアムの壁を粉砕して顕れた色無染の姿があった。


「いえ、落ち着いてなどいませんよ。ただ」


清は静かに刀に手を添える。


「正義の前には等しく映るだけです」


皆が皆、目にする事無く切り伏せられる刃の白刃が、スッと鞘より顔を出した。


「天使にだって問います。神にだって問いましょう」


刃を逆さに顔の前に刀を構える。


「戒位第三躯、『正義』の天使。正端清」


刺々しい威圧感がスタジアムに放たれた。


「ただ、正義を為します」



『貴方を大天使の座より追放する』


短い文章だった。


拙いと質素と言ってもいい。


語るべくもなくこの文章には公的な効力もなく。


正式な通達でもない。


しかし。


それでも、小廻めぐるの受けた衝撃たるや比肩するものが無いほど大きなものだった。


その証拠として。


彼女は気絶した。


立ったまま。


乙女にあるまじき白目を剥いて。


「...もしもーし」


当然、尾方の声が届く事などない。


目の前で手を振ろうが結果は分かりきっている。


「......」


尾方は暫く考えたが。


ぱちん。


意外と躊躇無く乙女の柔肌をビンタした。


「...!? ......!?? 今ビンタしました!?」


「え? うん? 生きてるか不安になってつい...」


「ついじゃないですよ! ついじゃないですよ! 普通ショック受けて放心状態の乙女の顔を叩きますか!?」


「いや...時間かかりそうだったからつい...」


「ついじゃないですよ!?」


皆さんは既にお気づきであるだろうが敢えて言わせて貰う。


尾方巻彦を迷いから解き放つと元来こんな感じなのである。


常に選択肢に苛まれている尾方は返答が曖昧且つ上の空であり、主体性が極めて薄い。


しかし、一時的に迷いから解放されている今の尾方は。


よく言うと主体性がある。


悪く言うと自己中なのである。


「ショックは大きいだろうけどさ。これは清ちゃんの考えあってだと思うからさ。まずは落ち着こうよ」


「いや、逆になんか落ち着きましたよ。ええ、落ち着きました」


息を整えながらあからさまに尾方を警戒している。


「...ごめんごめん。流石に悪かったよ」


「いえ、こちらこそ大天使がビンタぐらいで動揺するなどあってはならないことです」


尾方が携帯の画面をみせる。


すると小廻の視線が派手に揺れる。


「どうしよっか」


「...どうしましょう」


「一応だけど、このメールに天使側の効力や強制力がないのはわかってるよね?」


「...はい、それはわかっています。ですが―」


「送り主と思惑が重要なんだよね」


こくりと小廻が頷く。


「清先輩は、正しい事を、いや、正しい事だけを仰います。故に、この解雇通知にも、意味が」


「おじさんもそう思う。彼女は無意味を為さない」


「しかし、しかしですね。私には大天使として成さなければいけない事が...」


「命を賭して?」


尾方の言葉に小廻が押し黙る。


尾方はその様子を暫く眺めると。


ゆっくりと溜息を吐いて少し背伸びしてから言った。


「どうする? うち来る?」


それは。


どう聴いても事案だった。

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