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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『分岐点』

前回のあらすじ


発見伝


「してハカセよ。一体どうやって尾方を、いや、世界を救うのじゃ?」


ところ変わってここは悪道邸。


血渋木と悪道宗吾の戦闘中、葉加瀬と姫子は作戦会議に乗じていた。


指揮棒を持った眼鏡ハカセはホワイトボードを指す。


「それは至極簡単ッス。尾方のおっさんに知らせるんスよ。このままだと大変だーって」


「なるほど! それは妙案じゃ!」


「いやいや、姫子さん? ここは突っ込む所ッスよ。そんな単純でいいのか!? って」


「そんな単純でいいのかー!?」


「いや言ってくれるんスね!?」


「「いえーい」」


ハイになっている二人はハイタッチを交わす。


「ハカセだって分かっておるのじゃろう? 結局のところ尾方がどうにかするしかないと」


「はい、色々考えてみたんスけどね。結局原因であるあの人はこの問題から逃げられないッスよ」


葉加瀬が少し視線を伏せ、姫子もうな垂れる。


「...なんで尾方なんじゃろうな」


「...知らないッスよ。私さん達は尾方のおっさんの事をなにも知らないッス」


数瞬の沈黙。


しかし二人の心根は既に決まっていた。


「よし! これが終わったらとことん聞き出すか!」


「名案ッス! 逃げも隠れもさせないッスよ!」


二人は笑いあい、そして互いに正面を指差す。


「「さて」」


「では手始めに!」


「世界救うのじゃ!」


かくして不本意にも世界の分岐点となった少女は動き出す。


引き金ではなく舵を切り向う世界が。


より良いと信じて。




「はぁ...はぁ...ッ...はぁ...」


ところ変わってここはシャングリラ戦線。


メメント・モリのアジトであるスタジアムの入り口。


鵜飼の力を借りて大天使二人の追撃を振り切った尾方は、息を切らしてスタジアムの外に飛び出した。


その時。


「あ...」


飛び出した尾方に反応して思わず出たような声が一つ。


「あら...」


声の方を振り向いてやっぱりと出る声が一つ。


尾方が振り向いた先にはこじんまりと体操座りをした少女の姿があった。


「小廻ちゃん。どしたのこんな―――


『ピピピピピピピピピ!!!!!!』


尾方がおどけた顔で白々しく挨拶を言い放とうとした瞬間。


尾方のポケットからけたたましい電子音が鳴り響いた。


「え!? わ!? なに!?」


驚きポケットからOGフォンを取り出した尾方はあたふたしている。


「ちょっと、尾方さん! 出ないと出ないと! ここ多分ここ押すんですよ!」


大音量に急かされて早口の小廻が尾方のアシストをしてやっと応答のボタンが押される。


『やっっっと出た! オッサン! 時間が無いんで姫子さんが要点だけ言うんで! 勝手に解釈して動いてください! いいッスか!』


「え!? ああ? うん?」


事態が呑み込めない尾方を他所に、電話先が姫子に変わる。


姫子は一回軽く息を吸い込むと一息に言った。


『尾方! わしが許す!! 好きにしろ!!』


「...うん?」


『我侭でよい! 間違ってよい! 理解されずともよい! 組織ではない! お主は! お主の為に動いてよい!』


「...うん」


「いってらっしゃい!」


「うん」


通信はここで途絶えた。


何の意味も無い会話に思えた。


さもすれば似たような会話が何度かあったかも知れない。


しかし。


言葉の芯を受け取り手側が捉えた時、そこに意味が生まれる。


カチリとパズルのピースが埋まるように、納得が、理解が生まれる。


このとき、尾方巻彦の中に生まれたのは。


深い深い信頼だった。


無意識かで制御していた尾方の願い、また力。


それは他人のため、組織の為に使われるべきだという制限。


組織の為にと迷い続けていた心根の濁り。


尾方は一時。


それを忘れる事にした。


誰のためではなく。


自分の為に。



「...尾方さん?」


ピクリとも動かなくなった尾方を小廻が心配そうに覗き込む。


その時。


―――――――――


あの時の耳の奥に響く高音が辺りを包んだ。


尾方はまだ動かない。


そして。


ゴギャ


あの音が、生々しく響いた。


あの時は見えなかったが、光の人形は無造作な左手の一振りで小廻の半身を奪っていた。


抉られた身体の穴から、光の人形と尾方の目が合った。


「【平導びょうどう】」


ポツリと呟いた尾方は小廻に触れる。


すると。


ゴギャ


突然尾方の半身が抉られる。


しかし、倒れる尾方の前には五体満足の小廻の姿があった。


「...へ? わたしいま...?」


混乱する小廻の後ろで自分の死体を押し退けて尾方が立ち上がる。


その手には白い羽が握られ、頭には淡い輪が輝いている。


そして、その両腕は、黒く歪み、微かにノイズが走っていた。


「参劫正装仮想顕現...好きにさせて貰いますよ」


その時、遥か彼方で眩いほどの光が輝き、凄まじいスピードで光が空に上った。


そしてそれは尾方達に向って急速に墜落した。


軽く出来たクレータの中から煙を押し退け淡く輝く天使が顔を出す。


「な、ななな、何事ですか白貫先輩!! 参劫正装全顕現って!! ピンチですか!?」


取繕う事無く全力で焦った顔の戒位番外、色無 染いろなしぜん


尾方はその傍に事も無げに歩いていくと。


ハシッと手を取った。


「ピンチだ。ゼンちゃん。助けて欲しい」


「!!!!!??????」


その言葉に。


色無は髪が逆立つほどの衝撃を受け。


言葉もなくうんうんうんと何度も頷いた。


そして尾方は神の人形の方に向き直ると。


悪い顔で言った。


「完璧なんだって?」

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