『【血液媒介(ブラッドボーン)】』
前回のあらすじ
対物ライフルでガンアクションしないで
①
ガキだった頃。
俺は周りが不気味で仕方がなかった。
やれ仕事だ、やれ家事だ、やれ天使だ、やれ悪魔だ。
みんながみんな目的を持ち、それに向って一直線だ。
俺には目的なんて無かった。
ただ生きるのに精一杯だった。
周りはそれを特に咎めなかったが、理解出来ないような目で俺を見た。
人生に目標や目的があるのは当然なのに、それ無しでどうやって生きているのだろうって。
どうやって生きてるも何も俺はただ生きるので...
反論の意味の無さは俺が一番良く知っている。
だって俺にも。
目標を持つべきだと言う焦燥感が存在したから。
目標無き自分に対する違和感がずっと着いて来ていたから。
毎夜毎夜、夢の中で俺が俺に向って言う。
『お前はなんの為に生きている?』
ある日の朝。
無気力な俺は無気力ながらに思った。
俺はこの世に―――
パリィン!!!
ある日のことだった。
突然、窓ガラスが割れて、血だらけの男が部屋に転がり込んできた。
「あ? ああ、わりい人居たのか。邪魔するわ」
これが、僕と血渋木さんとの初めての出逢いだった。
②
「っぶね! 走馬灯見えた!!」
寸での所で悪道宗吾の射撃を避けた血渋木は、掠っただけで少し抉られた額の傷をべチャリと触り、バッと手を払う。
「避けるか! 見事!!」
悪道宗吾はタクティカルグローブをはめた左手を一度握り込む。
すると手が自然と開き、そこには銀色に輝く弾丸が握られていた。
そして素早くその弾丸を対物ライフルに込める。
チラリとその様を見た血渋木が呟く。
「へぇ、そっちの手袋が正装なんだな」
「目も良いときたか。その通り、こっちのデカ物はオマケみたいなもんさな」
悪道宗吾はガチャンと対物ライフルを傾ける。
正装:【天人冥合】
片手のみのタクティカルグローブ。
この手袋を着けて手を閉じると、その中の空間に正装と同物質で出来た物体を自由に生成することが出来る。
形は自由自在であり、時間がかかるが巨大な物体も生成可能。
この生成能力で悪道宗吾は対物ライフルを作り上げ、その弾を随時生成する事で戦闘スタイルを確立している。
これは余談だが、正装と言う物質はその存在がこの世から乖離しており、他の物質との衝突で変形、破損することがない。
即ち、絶対に壊れない物質なのである。
故に悪道宗吾の狙撃は防御不可能であり、唯一拮抗出来る物質は他の正装に他ならない。
悪道邸への狙撃を血渋木が受けたのは、あれが最善だったからである。
曲がらない弾丸は放ち、不変のライフルを振り回す。
近づいてからが本番の創造の狙撃手。
それが戒位第七躯。
悪魔の天使、悪道宗吾である。
「さて、分かったならどうするね若人?」
「斬り落とすしかないかなぁ!!」
ガキィィィン!!
再度の血渋木の強襲を悪道宗吾はこれまたライフルで弾き返す。
血渋木の体勢が崩れたのを確認した悪道宗吾はライフルを回し、遠心力で血渋木をなぎ払う。
「ッッ!!」
吹き飛ばされた血渋木は鉄柵に再度叩きつけられる。
そして、悪道宗吾の銃口が血渋木を捉える。
「今度こそさよならだ若人」
「何回言ってんだよ耄碌か?」
崩れた体勢から無理やり投げられた蝙蝠が銃口を反らす。
反れた銃弾がビルを激しく抉り。
足場が少し傾いた。
悪道宗吾の体勢が少し傾く。
その僅かな隙を血渋木は見逃さない。
体勢の逆側に跳び付く様に駆けた血渋木は、弾き帰って来た蝙蝠を掴んで斬りかかる。
「良いね!」
大きく対物ライフルを上に放った悪道宗吾は、懐から刃渡りが大きなサバイバルナイフを取り出す。
ガキィン!!
激しく火花が散り、二人の得物が縦横無尽に駆けた。
一本のサバイバルナイフと二本のトマホークが目まぐるしく舞い、そして火花を散らす。
一進一退の攻防が続いたが。
「ッッ!」
先ほど悪道宗吾が放った対物ライフルが落下してきて、反射的に血渋木が片手でこれを受け止める。
その片腕を悪道宗吾はナイフを投げて追撃、支えきれなくなって落としたライフルを避けるために後退した血渋木を、更に悪道宗吾が追撃する。
片腕の負傷と体勢が良くなかった。
振り抜いた悪道宗吾のナイフは、血渋木の身体を深々と切り裂く。
「―ッッッ!!」
辛うじて反応出来た片腕で悪道宗吾の肩を軽く斬るが、それは軽く肩を撫でただけで終わり、蝙蝠に少し血が着くだけに終わった。
ガシャン!!
取りこぼした蝙蝠が手から滑り落ち、血渋木もまた倒れる。
「ふぅ、良い線行ってたぞ若人」
ライフルを拾い上げながら悪道宗吾が言う。
「も少し歳食ってたら分からんかったな」
ガチャリとリロードをし、銃口を血渋木の頭に定める。
「悪魔の頃の俺にそっくりだ」
ま、だから死ぬんだが。
そう呟いた悪道宗吾は、躊躇なく引き金を引いた。
その時、震える唇で血渋木がポツリと呟いた。
『【血液媒介】』
ドンッ!!
その言葉をかき消す様に、銃声が一帯に響いた。