『快血の天使vs悪魔の天使』
前回のあらすじ
あの日のリベンジ
①
「おぉ...何と言うか、あの血渋木って天使も大概やばいッスね...」
「当然よ。そこら辺の天使とは鍛え方が違うの」
「前はあれほどではなかったような気がするんじゃが...?」
残された三人は暢気に血渋木が跳んで行った方を眺める。
「き、貴様ら! 我々を舐めるのも大概にしておけよ!」
その様子が気に入らない襲撃チームの天使が声を荒げるが。
「...」
「...ひっ」
守本の視線で押し黙ってしまう。
その様子を見た守本は、小さく溜息を吐いて天使たちに向き直る。
「ま、あなた達にも事情があるのだものね。心中お察しするわ」
そして髪をなびかせ、チラリと姫子を見る。
「でもあなた達、酷い事するつもりだったのだものね」
空気がゆったりとしかし確実に停滞していくような感覚。
「尊い神はあなた達をお許しになるわ。忠を尽くしたあなた達を、誇り、迎えるでしょう」
この言葉には、確かに暖かいものがあり、天使たちの心が一瞬洗われる。
が。
「でも、私は気に入らないの」
ミシッと空間が歪むほどの敵意。
一瞬で天使たちの心は警戒で埋め尽くされる。
反射的に防御した天使。
気圧され、立ち尽くした天使。
汗を飛ばし踵を返した天使。
皆。
一瞬で。
一様に吹き飛ばされた。
正しくは殴り飛ばされた。
ほぼ同時に各々が吹き飛ばされる様は、まるで花火の様に庭を彩った。
速いという速度の概念を軽く越えている。
そんな印象を受けた。
「残ったのが私でよかったわね。のぼるクンなら間違いなく殺されてるわよ」
拳をハンカチで拭った守本は、姫子達の方に歩く。
「い、いやー、当たり前ッスけど圧巻ッスね。看板に偽りなしって感じッス」
「すごいぞ守本嬢! 素晴らしい活躍であった!」
もてはやす二人を片手で制止した守本が口を開く。
「とりあえずこっちの危機はこれで全部よ。次はあっち」
「あっち...? 尾方達の方かの!」
「そう。折角の過去改変だもの。好き勝手変えたいでしょ?」
守本の言葉に、姫子は考える素振りをして、真っ直ぐと前を見る。
「そうじゃ! 尾方には悲しんで欲しくない!」
姫子の言葉に、守本は少し微笑む。
「それじゃ葉加瀬。あと頼んだわよ」
「了解ッス! ここは任せて欲しいッス!」
踵を返した守本は歩き出す。
「え? 守本嬢。どこか行くのかの?」
「店番よ。うちのアルバイトがサボってるみたいだから」
姫子は姿勢を正し、深々と頭を下げる。
「此度のご助力、誠に感謝する! 今度ゆっくりお話しよう!」
その言葉を背中に受けた守本は。
ヒラヒラと手を振ってそれに応えた。
「あ! そういえば血渋木は大丈夫なのかの!」
「大丈夫よ。帰って来たらご苦労様って代わりに言っておいて」
そこまで言った守本は門から出て行った。
そして二人に聴こえないぐらいの声で呟く。
「流石に死ぬかしら?」
その視線は、血渋木が跳んで行った方を見つめていた。
②
ガキィン!!!!
ここは悪道邸より少し離れた雑居ビルの屋上。
そこでは目まぐるしく動く一つの影と、その中央にて不動を貫く大きな影があった。
その中で、幾度と無く金属と金属がぶつかり合ったような音と火花が散っている。
砂埃でよく見えないが、激しい戦闘が行われている事は明らかだった。
ドンッ!!
激しい銃声に砂埃がブワッと晴れる。
そこには、血に濡れた血渋木昇と、大天使悪道宗吾の姿があった。
傷口を事も無げに触った血渋木はその手でべたりと顔を触る。
「大天使さまがよぉ。ルール守れないとよぉ。誰が守るんだよ困るンだよ」
ギャリギャリと正装の双斧である蝙蝠を擦り合わせながら姿勢を低くする血渋木。
「誰の差し金かって聴きたいんだが、取り付く島もないなこの若人は」
巨大な対戦車ライフルを支えにして斜に構えた悪道宗吾は頭を掻く。
血渋木が地面を蹴るより一瞬早く。
悪道宗吾はライフルを蹴り上げて槍の様に体で回す。
そして銃口が血渋木を向く一瞬。
ドォンッッ!!
トリガーを引いた。
血渋木は体を翻して大きく横に跳躍するが、発生した衝撃波と吹き飛ぶ破片で負傷する。
しかし意にも介さない血渋木は再度地面を蹴り、悪道宗吾に迫る。
撃った衝撃でノックバックするライフルをクルリと回し衝撃を相殺している悪道宗吾は、その勢いをそのまま対物ライフルで血渋木をなぎ払う。
反射的に蝙蝠で防御した血渋木だが、勢いを殺すことが出来ず吹き飛ばされ、鉄柵に激突する。
ひしゃげた鉄柵が落下するが、血渋木は柵を蹴って屋上に転がり帰る。
そして何事もなかったかのように立ち上がった。
しかし、その肩は大きく上下し、流石に疲弊の色が伺える。
「若人、一個だけ聴いていいか?」
またもライフルを立てて支えにした悪道宗吾は、懐から取り出した煙管に火を落としながら言う。
「ああ? なんだよ?」
蝙蝠についた自身の血を拭いながら血渋木はあからさまに不機嫌そうに言う。
「誰の差し金かな?」
悪道宗吾の言葉に、血渋木はゆらりと身を起こして嗤う。
「おめでたいやつだな、大天使様ってのはそんなに偉いのか?」
「と、いうと?」
吸いはじめたばかりの煙管の灰をパッと払った悪道宗吾はライフルを持つ手に力を入れる。
「最初ッから言ってンだろうが!! ルール守れねぇなら死ね!!!」
「まだこんな骨のある奴居たんだなぁ」
再び蹴り上げたライフルの銃口が血渋木を捉えた。
「ここで消すには惜しいよ」
しかしトリガーを引く手に、一切の迷いはなかった。
『怪血の天使vs悪魔の天使』END