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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『ジャッカルの日』

前回のあらすじ


来て! タイムパトロール!


「は、はは、はか、はかかかか、はか」


固まった姫子はブリキの人形のようにカクカクと動きながら葉加瀬に近寄る。


そして両の肩をガシッと持つと。


「ハカセぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


思いっきり叫んだ。


「わぁぁぁ!! 人違いッス! 人違いッス!! 結婚したのは未来の私さんッス!」


「しるかー! ワシが居らんのを良い事に抜け駆けしよったなー!!」


二人はお互いに身体を揺らし、それはもうグワングワン揺れる。


「私さんだって羨ましいッスよぉ! 妬む側ッス! 抗議する側ッス!!」


「しらんしらんしらーん!! 化けて出てやるー!! うらめしやー!!!」


「ひぃー!! 爆速で自分の死をネタにしてるッスー!! こわー!!!」


一応まだ襲撃されてる真っ最中なのだが。


組織の長とその組織お抱えの研究者はグルんグルんと回る。


緊張感の欠片もない二人を守本は無表情で眺めている。


守本に一蹴され、勢いを削がれた襲撃天使一同であったが、その様子に堪忍袋の緒が切れる。


「何をふざけている!! 状況がわかっているのか!!」


その声に応えるように。


何処からか天使達が集結してくる。


揉みくちゃになっていた姫子と葉加瀬も、その数に圧倒されて肩を抱き合う。


「は、ハカセ? 未来もこんな数の天使を相手になんとかなったのかの?」


「い、いやー、どうッスかね? こんなに多くなかったような...?」


守本が溜息を付いて、振り返る。


そして。


「遅い」


そう呟くと。


天使達の最後尾から悲鳴が上がった。


かと思うと。


無数の血柱が最前列に迫り、血まみれの何かが庭に転がり込んで来た。


快血の天使、血渋木昇である。


血の中にぎょろりと蠢く目玉が守本を見る。


「......っっはぁー、なんで...?」


心底ダルそうに呟いたそれは。


ぬるりと立ち上がる。


「なんで守姉がこんな所に居るんだ?」


「それはこっちの台詞よ。頼んだ店番はどうしたの?」


血渋木はぎくりと目を泳がせる。


「...いや、俺も大天使に執行権を委任されてさ? 仕方なく違反者狩りやってんの。仕方がなくだよ?」


「それは店番より大切なの?」


引き擦り込まれそうな黒い黒い瞳に見据えられて、血渋木の目が泳ぎに泳ぐ。


「...いやー、ね? 流石に? 戒位第三躯様のご命令には逆らえないって言うかぁ?」


「私は第二躯だけれど」


「...はい?」


「戒位第二躯、『智慧の天使』よ。以後よろしくね」


「二...? 守ね...? はい...?」


「まぁ店番の件はいいわ。軽い冗談よ」


「え...? ああ...?」


「違反者狩りだけれど。手伝うわ。頑張りましょう」


「え...? おお、ああ...?」


守本は混乱を極める血渋木の頭を軽く小突く。


「あんまり考えない。目の前には何が居るの?」


「...敵だ」


「そ。いってらっっしゃい」


「そうだ。そうだよ。お前ら違反者じゃねぇか? なんでいんだよ? 駄目だろ? 居たら駄目じゃねーか。駄目じゃねーか居たら」


か細く呟く声が少しづつ大きくなる。


「ルール守れねぇなら死ねよ」


最後にハッキリそう言うと。


天使の集団に切り込んで行った。


その様を満足そうに見送った守本は姫子達の方を振り返る。


「も、守本嬢。さっきの話は?」


「お店なら大丈夫。そんなにお客来ないから」


「いや、天使の!」


「ああ、第二躯の件? 実質空席なの。辞めたのに無理やり残されて辟易してる」


真顔で語る守本の真意は計りかねるが、


姫子は笑顔で守本の手を掴む。


「心強いぞ守本嬢! よく我々に力を貸してくれた!!」


守本は一瞬キョトンとしていたが、ゆっくりと手を握り返して縦に振る。


「こちらこそ。色々お世話になるわ」


「お世話になる? こっちが今まさにされっぱなしなんじゃが?」


「入る、メメント・モリ。正式にではなく協力者にはなるけれど」


その言葉を聴いた姫子の目がこれでもかと言うほど爛々に光り輝く。


「本当か!! 願ってもない!! 是非是非是非!!」


「いいの? 未来で仲間だったからって、こっちではどうか分からないわよ?」


「良い良い! もう既に裏切りそうなの何人か抱えこんでるでの! 今更増えたところで誤差よ誤差!」


「いいのそれ?」


「むしろ良い! 悪の組織とはこうでなくてはな!」


がははと笑う総統を苦笑いでみる葉加瀬。


「貴方も苦労するわね」


「未来の私さんほどじゃないッスよ」


その時、姫子がハッとして謎の構えをとる。


「して! 狙撃はどうするのじゃ! そろそろであろう! あれをどうにかせぬとワシはどっち助からないのでは?」


「ああ、それは大丈夫よ」


守本が事も無げに言う。


「おお! 流石は守本嬢! その為に来てくれたという訳か!」


「違うわ」


瞬間。


『パァン!!』


あの時の銃声が鳴り響く。


銃口は、あの時と違い。


『守本一』を狙い定めていた。


撃ち出された弾丸が守本を吹き飛ばす一瞬前。


「昇クンが居るもの」


ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!!!


守本の目の前に文字通り滑り込んで来た血渋木は、交差した正装『蝙蝠こうもり』で大口径の弾丸を食い止めた。


「誰に手ぇ出したのか分かってンのかぁぁぁぁぁぁ!!!」


地面にめり込んだ足を更にめり込ませながら体を捻り、弾丸を反らす。


反らした弾丸がクレーターを作る音をバックに血渋木が地面を蹴る。


その跳躍は音速を越え、数百メートルの間合いを瞬時に潰した。


伏せた狙撃手はスッと立ち上がる。


見下ろしても分かるその大男は、袴に着物をなびかせながら落ち着き払っていた。


そしてその老兵は。


二メートルはあろうかという対戦車ライフルに。


大口径の弾丸を一発、込めた。


「戒位第七躯、『悪魔の天使』、悪道宗吾」


「戒位第九十九駆! 『快血の天使』! 血渋木昇!!」


数百メートルの跳躍の勢いもそのまま、血渋木が斜め上から強襲した。



『ジャッカルの日』 END

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