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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第七章「二度咲きルーザーと廻天カンパニー」
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『君の知らない物語』

前回のあらすじ


魔王があらわれた!


「と、言う事が未来の私さんが居た世界で起きたらしいんスよ!」


ここは悪道邸。


前のめりで話を聴く悪道姫子を前に。


まるで超大作映画のあらすじでも語るかのように、大きく身振り手振りしながら物語を語る葉加瀬の姿があった。



うん?




???



??





なるほど。


話がややこしくなりそうだから一番大切な部分を私が代表して聴こう皆の衆。


大丈夫。


私は冷静だ。


...


大丈夫だってば。




『ごめん葉加瀬君。突然で失礼だけど質問いいかな?』


「え? 誰ッスか? 頭に直接とか怖いんスけど?」


『どこから回想だった?』


「はい?」


『どこから未来の葉加瀬君の回想だった? 今時系列どこ?』


「え、時系列ッスか? よく分からないッスけど。今は姫子さんに私さんの権能の正体を明かしたところッスよ」


『そこからずっと語ってたの?』


「え、はい。未来の私さんに教えてもらったこれから起こること全部。順を追って話したッスけど...?」


『...また近いうちに話できる?』


「え、ええ...いいッスけど?」




成る程。


聴いてくれ諸君。


よく分からないかも知れないが聴いてくれ。


観測がズレた。


文字通り私の主観が時を遡った。


信じられないかも知れないが、世界の完全な時間逆行に成功している。


先ほど葉加瀬は『未来の私が居た世界』と言った。


その世界は神に観測されし主観世界で間違いなかったはずだ。


何故なら起こった事象を私が認知している。


私が観測している。


しかし、観測対象世界が今、間違いなく遷移した。


時間軸の乖離を私が観測した。


諸君。


神が唯一司れない事象とはなにか。


この流れなら分かると思う。


時だ。


時間軸。


この絶対的不文律。


神の興るより前。


世界が出来る前。


しかし在った世界の軸。


ここに人の手が介入出来る余地があるのであれば。


世界という流動物体はたちまち固まり、動かなくなってしまうことだろう。


それほどのモノだ。


それほどのことをやってのけた人間が存在する。


どうやったかは今度問いただすとして。


私はどうするべきか。


決まっている。


私は観測者だ。


そうなったのならそうなったで。


行く末を。


それもまた観測し甲斐があるだろう。


私には使命も大儀もないが。


興味が尽きる事はないのだから。



はいはーい。


時系列戻ったよー。


ただいまの時間はと言いますと葉加瀬の権能語りの辺りだよー。


メタい話をすると第六章の『境界線』前半辺りまで戻りました。


切り替えていこー。



「ハカセ? さっきからどうしたのじゃ?」


姫子に心配そうに覗き込まれ。


葉加瀬は咳払いをする。


「なんでもないッス。たまに電波を受信する事があるんスよ」


「なるほど。ゆんゆんしておるのだな」


「ゆんゆんて...」


古いという言葉を呑み込んだ葉加瀬は姫子に向き直る。


「兎に角、このままではおっさんが魔王になって世界滅ぼすんスよ!」


「うむ、大体わかった。伝えてくれてありがとう葉加瀬。ワシは尾方にそんな目に合って欲しくない」


姫子は深々と頭を下げる。


葉加瀬は居心地が悪そうに自分の頬を撫でる。


「して、ハカセ? ワシに出来ることは?」


姫子は真っ直ぐと葉加瀬を見つめる。


「生き残ることッス。事情は省きますが、これが最初で最後のやり直しです。どう未来を変えた所で、姫子さんが死んでしまったら結果はきっと同じ事になるッス」


「ワシは...」


「大丈夫。守ってみせるッスその為の私さんッスから」


葉加瀬は予め準備していたらしいアタッシュケースを取り出す。


そして姫子にも取り出したポシェットを渡した。


「ハカセ? これは?」


「私さん特製の護身具ッス。肌身離さず常に携帯してください」


葉加瀬の言葉に姫子は深く頷く。


「しかしハカセ! 生き残るのならワシ等は襲撃前に此処を離れるべきでは!? もう直ぐなのであろう!」


ハッと気づいた姫子が飛び上がる。


しかし、葉加瀬は落ち着き払った様子でアタッシュケースのダイアルを回している。


「大丈夫ッス姫子さん。私さんには未来の知識があるんスよ」


ダイヤルのカチリと揃う音が響く。


「しっかり助っ人。呼んであるッス」


その時。


巨大な石を砕くような、瓦礫をひっくり返したような音が悪道邸の前で鳴り響いた。


慌てて姫子が玄関先に走り、追従するように葉加瀬が傍に付く。


玄関を開けると。


屈強な天使達の真ん中で、その天使の一人の首を掴み、片手で持ち上げる謎の影があった。


「あれは...!」


姫子はその姿に覚えがあった。


スラッと伸びた長身。


長髪をなびかせ、端正な顔の眼鏡の奥に鋭い眼光を潜ませる大和撫子。


尾方巻彦のバイト先、【守本書店】の店長。


守本一もりもとはじめであった。


「な、なぜ...?」


疑問符だらけの姫子。


葉加瀬が側で説明する。


「彼女、守本さんは未来の世界でのメメント・モリの協力者ッス」


「未来の...? なぜ協力を?」


「えーっと...尾方のおっさんの変わり様を見かねて手を貸してくれたッス...!」


「そんな事が...」


絞め落とした天使を事も無げに放った守本は、姫子の方に歩み寄る。


「この前お招き戴いたわよね? こんな形でよければ失礼しても良いかしら?」


「無論じゃ守本嬢。お主も尾方の身を案じてくれるのじゃな。ありがとう」


姫子の言葉に、守本の眉がピクリと動く。


「違うわ。私は貴方が心配なの」


「ワ、ワシ?」


「そう。貴方が殺された未来で不都合があるのよ」


「そ、そうなんじゃな。それでもありがとう。心強いことこの上ない」


屈託のない姫子の笑顔を守本はジッと見る。


そして。


ふぅっと短い溜息を吐くと。


抑揚の無い声で言った。


「貴方が死んだ未来だけれど。そこの葉加瀬芽々花と尾方巻彦が結婚してるらしいわよ」


ピシィ!!!


一瞬で。


笑顔の姫子から色が無くなり。


大きなヒビが入った音がした。




かくして物語は。


私、つまり神の手を離れることとなる。


正直、私は楽しみで仕方がない。


結末を知っているお気に入りの本を読むのは言わずもがな楽しいが。


やはり読者というのは、何も知らない結末を追ってこそなのだから。


綴ってくれ。


演じてくれ。


唄って謳え。


朝を諭し、


夜を越えて。


君が指差すのは。


どの星なのかな?




『君の知らない物語』END





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