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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第六章「当て馬リベンジャーと結び目ワールド」
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『原初の瑕疵』

前回のあらすじ


楽は楽かも



『ピピピピピピピピ!!!』


ところ変わってここはスタジアム内部。


搦手により通信妨害が解除された事によって、メメント・モリ各自の携帯から緊急コールが鳴り響いていた。


すかさず各々がアイコンタクトを取り、前線から最も遠い替々がコールを取り、スピーカーボタンを押す。


すると。


『メーデーメーデー!! 緊急事態ッスぅぅぅ!!!』


スピーカーから葉加瀬の声が鳴り響いた。


文脈を理解するより先に事態の度合いを読み取った尾方は國門の肩を叩いて後退し、替々の傍まで移動する。


「メメカちゃん! 状況説明!!」


尾方の声が終わるか終わらないかのギリギリにかぶさってノイズ交じりに葉加瀬が叫ぶ。


『――ガ...ガガガガ!! ――ッ...―――敵―襲!!!』


そこまで聴こえて。


ブツンっと通信が切れた。


「――は?」


皆の顔色が変わる。


ノイズで聞き取り辛かったが、いま確かに敵襲と言わなかったか?


この状況で冗談を言う葉加瀬ではない事は分かっている。


しかし、それでも。


あまりに埒外の現実に絶句することしか出来ない。


なぜ居場所が?


なぜ狙う?


そもそも戦闘禁止地区では?


皆が渦巻く疑問に思考を裂かれる中。


最初に現実に追いついたのは尾方だった。


『なぜ』ではない。


『でも』でもない。


『もしも』を削るために動く。


素早く手刀を作った尾方は、自身の胸に向けてそれを突き立てる。


尾方の手が自身の胸を貫くか貫かないかの寸前、替々が尾方の手を掴む。


「尾方くん!? なにしてるの!?」


「離してください師匠。行かなきゃ」


冷静な口ぶりの尾方だが、その実、目が据わっている。


「何処にどうやってかな?」


「ヒメの所にデスルーラでですよ」


「君の権能は自殺でも発動するのかね?」


「...しますよきっと」


タイミングが良くなかった。


尾方の脳内では先刻の小廻めぐるの一件が激しくフラッシュバックしている。


虚ろな目はそれでも前を睨むが。


焦点は合わない。


「上手く行ったとして、ここはどうするのかね? メメント・モリは君無しで大天使とは戦えないよ」


そう。


そろそろ『時間稼ぎ』のタイムリミット。


さらに大天使が二躯駆けつける。


その正装の性質上、立ち回れる人物は自ずと限られる。


「こちらが全滅する。尾方、冷静になりたまえ」


替々に両肩を押さえられ、尾方の焦点が激しく揺れる。


選ぶ?


ふざけるんじゃない。


選択肢にだってなってない。


だってそんなの。


どっちにしろ。


どちらを選んだって。


メメント・モリは――


俺は―――


―――――




悪道姫子の声は。


聴こえなかった。




「葉加瀬!! 通信はしなくて良いとあれほど言ったじゃろう!!」


ところ変わってここは悪道邸。


緊急事態渦中の現地である。


「いやでも私さん達だけじゃどうしようもないッスよこれぇ! 天使の軍団ッスよ軍団!!」


無数のモニターに目を滑らせながら指を躍らせる葉加瀬は声を上げる。


「しかし! 尾方達の足を引っ張るわけには!」


慌しくバリケードを積む姫子。


「そもそもなんで此処がバレたんスか!? 事実希釈に存在偽装! 認識阻害に釘層転化まで色々やってるんスよ!!」


「よく分からぬが色々して貰ってたのはわかった! ありがとうハカセ!!」


「どういたしまして! 今その苦労が泡と消えてる最中で申し訳ないッスけれどもね!」


葉加瀬は大量のUSBメモリをポートに差し込むと、また指を躍らせる。


「すぐにでも逃げたいッスけどちょっと待って欲しいッス! データ移行だけすぐに終わるッスから!」


「そもそも目的はワシ等なのじゃろうか? 自分で言うのもなんじゃがワシは基本置物なんじゃが?」


「知らないッスよ! なんなら話し合いで解決を図りますか?」


「冗談じゃないわ! 天使が悪魔の話なんか聴くか!」


「あら、以外に現実的なんスね」


「天使には一度殺されかけとるからの。彼奴ら悪魔相手には容赦とか倫理とか一切ないからの」


葉加瀬はUSBを全部一気に抜くとリュックサックに粗雑に投げ込んで最後にポケットから取り出したディスクをラックに滑るように入れる。


「こっち終わったッス! どこから逃げるッスか!」


「裏の道場じゃ! おじじ様にいざという時に使えと裏道を教えて貰っていたのじゃ!」


その時。


バリケードに何かがぶつかる様な振動が響く。


それはタイムリミットの証であった。


「走れ! ハカセ!!」


護身用に身の丈ほどの棒を抱え上げた姫子はそれを構える。


「ボスを置いて逃げるわけないっしょ!」


アタッシュケースから自分の腕より一回り大きな義手のような物を取り出した葉加瀬は、それを腕に装着する。


その時。


バリケードが吹き飛び、その一部が部屋の中の二人に向って吹き飛んで来た。


正面に立っていた葉加瀬は義手を突き出す。


「んん!!」


義手は瓦礫に接触すると複数のギアが高速回転し、それを弾き返した。


バリケード向こうの天使が一人吹き飛ぶ。


「出力上々!! 写楽さんから聞いた大天使八躯の正装に着想を得た新擬装! その名も『浪打なみうち』! 受けた力を瞬時に分析してその一回り上の力で返すカラクリ義手ッス!」


「すごいぞハカセ! この大天才め!」


衝撃で弾かれたバリケードの残骸を棒で落とす姫子。


すると義手をグーパーする葉加瀬が冷や汗混じりに言う。


「でも問題があるッス総統殿!」


「なんじゃ!」


「出来たばっかりで充電出来てなくて、今のが最初で最後の一発ッス!」


「そうか! お互い覚悟を決めねばならぬようじゃの!」


動きやすいように髪を後ろで束ねた姫子は、一瞬OGフォンの方を見たが、目線を真っ直ぐ天使達に向けた。


「大勢でお越しのところ悪いがの! ここにあるのはただの大将首だけじゃ! 残念じゃったの!」


ビュンと空を棒で斬った姫子は啖呵を切る。


「ワシ亡き後は副総統に全権を任せるものとする! ハカセ! 伝言任せたぞ!」


葉加瀬が抗議の言葉を上げるより早く。


姫子は一歩踏み出す。




覚悟が無かったわけではない。


姫子は悪道総司の後を継ぐと決めたときから。


自分の命に対する覚悟を決めていた。



しかし、正義、使命を前にした人間の恐ろしさを。


少女は見誤っている。


それが善しと言われた時の、人間の際限の無さを。



それは人間に沈殿した無意識の性。


私が見つけた。


最初の世界の瑕疵である。

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