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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第六章「当て馬リベンジャーと結び目ワールド」
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『不変の価値』

前回のあらすじ


ポケットの中どうなってるの?


君には期待しているよ。


「はぁ...はぁ...」


瓦礫の山を見つめ息を整える搦手は、初めて会った時に写楽が言った言葉を思い出していた。


第一印象は不気味。


薄ら笑みの耐えぬ仮面の様な顔と、お気に入りの一張羅だと言う着物が相まって、妖怪のようだなと思った。


その印象は、あながち間違いではないなと今になって思う。


瓦礫の山のてっぺんに月をバックに立つ笑顔で立つその姿は、人外の風情を漂わせていた。


「いやぁ、ナルシストでよかったよ」


写楽は事も無げにパンパンと埃を払う。


「...やっぱりそうなのね」


搦手は肩で息をしながら最悪な予想が当たった事に歯噛みする。


そう、写楽の権能の範囲の話である。


命は宝の宝(ネームバリュー)


権能力者自身が価値あるモノの範囲に含まれるかどうか。


組織が同じときに搦手がそれとなく探りを何度も入れていたが分からなかったことだが。


答えは見上げれば断然。


瓦礫の物流にひき潰されたはずの写楽は傷一つなく搦手を見下ろしている。


彼は、自身の価値を見出している。


この事実は、搦手の勝利の芽を限りなく摘むに等しい。


搦手は写楽の権能の強化が、ただの強化でない事は知っている。


ただ強くなるとか、硬くなるとか。


そういったものとは一線を画する超越。


ついさっきスタジアムでとある大天使を見て確信した。


これは存在の格に干渉する権能。


ただ存在するだけの物体が、存在する為に存在する物体に勝てる道理がない。


「...詰みか」


思うより早く喉が音を震わせる。


「あらら、気づいちゃったかいオサム。聡いのも考えものだね」


搦手の考えを裏付けさせるように、写楽は素手で鉄柱をストンっと斬る。


「ボクの権能は価値あるものの強化じゃない。存在の補強、格上げ。価値なきものでは傷も付けられないステージへ強制的に引き上げる。君の瓦礫じゃもう傷一つ付かない」


ブンッ!


言葉のおわりについでのように仰いだ写楽の片手が空気を弾き、ソニックブームが発生する。


搦手は咄嗟に電信柱を目の前に立ててこれを防御する。


深々と切れ目の入った電信柱が倒れる。


それが倒れる様子を搦手はジッと眺める。


そして思う。


僅かな違和感を辿る。


写楽は今言った。


君の瓦礫じゃ『もう』傷一つ付かない。


写楽の権能の発動条件はモノに触れること、ならば自分自身への発動条件は?


ナイフが刺さった際は発動してなかっただけ?


そういえばナイフは三本投擲した。


刺さったのは二本。


残り一本は――


どおぉぉぉぉぉぉぉん


ここで真横に電信柱が倒れて、搦手はハッとする。


この事実に気づいたところで、搦手に勝ちの目はない。


だが、それは今の搦手が止まる理由にはならなかった。


ダッと地面を蹴りつけ、走り出す。


「君らしくないなオサム。それともなにかあるのかな?」


なにもない。


武器もない。


もうほとんど撃ち尽くした。


握力もない。


昔、力一杯握り締めすぎて腕の筋がイカれた。


策もない。


ただ走っているだけ。


ない。


ない。


ない。



でも。


微かにだがある。


自分には。


夢がある。


だから走ってる。


走れる。


走っていいと。


言われたから。



ブンッ!!


片手を扇状に振りながら、残弾の全てを弾き出す。


なんのことはない、ただの目隠しである。


だが、先ほどの読みが正しいのであれば。


写楽は、着物の袖の部分で顔を覆う。


そう。


写楽明は、権能により自分自身の強化は出来ない。


先ほどの瓦礫も服で全身を覆って防御したに過ぎない。


故に、ここで隙が出来る。


その隙に間合いに走りこんだ搦手は、これでもかと大きく振りかぶる。


袖の隙間からその様子を垣間見た写楽。


「それで、どうするんだい搦手。握力もなく拳も握れない君が。絶対防御の上から殴りつけるのかい!」


「応ッ!!!」


それは拳底だった。


てのひらの手首に近い肉厚の部分または付け根の堅い部分を叩きつける打撃技。


本来届くはずもないその打撃は、服を捉え、巻き込み、写楽を殴り倒した。


理由は、搦手にもわからない。


だが、確かに攻撃が届いた。


激しく動いて血が噴出した片腕を脇を押さえて止血しながら、搦手は少し離れた所に倒れている写楽を見下ろす。


「ふふ...ふふふ...ふは...」


倒れた写楽は肩を震わせて堪える様に笑う。


そして一通り笑うと。


いつもの笑顔でこう言った。


「はい、ボクの負けです」



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