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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第六章「当て馬リベンジャーと結び目ワールド」
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『うねり』

前回のあらすじ


四つ目の感謝


先に話しておくと。


前述の一件は尾方巻彦には日常である。


特に旧メメント・モリ時代は、毎日のように自分の届かない領域の話で声を枯らしていた。


覚悟の有り無しで言うのなら尾方には常にそれがあり、それでいていつもそれを上回る現実に拳を握り締めていた。


何度も何度も何度も何度も。


慣れる事なくいつだって尾方は死に対して達観しない。


死の本質に僅かでも手元を掠めているのは。


常にその隣にいるこの男なのかも知れない。


話を戻すが。


これは尾方の日常である。


いつものことなのだ。


無力さに打ちひしがれた尾方はそれでもまた前を向く。


そんないつものことなのだ。


だが。


一つ懸念があった。


意識にも届かない微かな違和感だが。


尾方巻彦は、小廻めぐるの最期になにをした。


選ばなかったか?


自らの思いと想いを切り捨てて。


『決定』をしなかったか?


諦めなかったか?


自分の意思で?



今思えば。


決定的は分岐点は。


他でもなくここだったのかも知れない。


なにのかって?


言葉にすると少しばかりちんけに聴こえるけれどもね。


この世界の滅亡についての話だよ。



正装の反動で地面にめり込んだ尾方は、消え往く自分の死体を無造作に押し退けながら立ち上がる。


「なにが完全なる人の模倣だよ。俺以下じゃねーか」


ブツブツと言いながら埃を払った尾方は、静まり返ったスタジアムを一瞥する。


「10秒余った」


そう言った直後、尾方は見上天禄の前に現れる。


「八つ当たり」


「―ッッ!?」


纏った空気の違いに気圧された見上の一瞬の隙を尾方は見逃さない。


見上が正装を使うタイミングで寸分違わず腕を掴み。


正装が発動しないことに動揺した続いての隙にこれ以上なく荒々しい、らしくない蹴りを喰らわせた。


スタジアムの客席に叩きつけられた見上は辛うじて意識はあるようだが、頭をあげる事すら出来ていない。


それを確認した尾方は、肺の中の酸素を吐ききるような深い深い溜息を吐き、顔を上げた。


自然、仲間達と目が合う。


その誰もが喋るより早く。


尾方は片手で言葉を制した。


「いい。ごめん。大丈夫。なにも聞かないから何も聞かないで欲しい」


その言葉に。


最初に口を開こうとしていた替々が気まずそうに口を閉じた。


「ともあれ。状況はまずまずなんじゃないですか皆さん。ワンチャンありそうじゃない?」


何かを振り切るように明るい口調の尾方。


目配せし合った替々、國門、筋頭の三人は大きく息を吐く。


「ま、ここは乗っちゃるわ。状況が改善されたのは本当だしの」


國門はリロードをしながら言う。


「がっはっは、底が知れんの尾方!!」


快活に笑う筋頭。


「...はぁ、弟子に貸しを付けてしまったネ」


肩を落とす替々。


三人を尻目に、尾方は前を向く。


眼前を見据える尾方の目線が清の目線と合う。


清は、ジッと尾方を見て、その視線を外さなかった。


その意志を感じ取った尾方は。


軽く頷き。


静かに目を伏せた。


「さて、残りはもう総力戦じゃない? やれるところまでやろうよ」


「仕切るな尾方! 言われんでも俺がやる! 隅っこで大人しくしちょれ!」


リロードが終わった國門は一歩前に出る。


「顔でも洗って来いだってさ」


替々が苦笑しながら尾方に言う。


「そんなに僕の顔酷いですか?」


尾方は顔を揉む。


「がっはっはっは! 逆だ尾方の!! 気が満ち満ちとるぞ!! 似合ってはないがの!!」


快活に笑う筋頭もまた一歩前に出る。


それに合わせるように、大天使、三躯と八躯も構えをとる。


その時。


バチッ!!!


空中で一瞬雷鳴のような電子音が轟く。


そして。


ピピピピピピピピ!!!


尾方の携帯が鳴り響いた。



さて、ところは少し変わる。


先刻の音の正体はジャミングの解除音である。


スタジアム全体を覆うほどの葉加瀬でも介入出来ないジャミング。


それに心当たりがある人物がメメント・モリには在った。


ここはスタジアムより距離2キロ。


神宿エリアのとある歓楽街。


電子版に薄く照らされ対峙する影があった。


「それやめてくれないかしら? お友達が困ってるの」


それはメメント・モリ幹部が一人、搦手 収と。


「...死に場所は決まったのかい? オサム」


先日の天使との同盟事件で世間を騒がせた悪の組織『睦首劇団』の団長。


写楽 明(しゃらく あきら)である。


「死に場所なんて死んでから気にすればいいじゃない? 相変わらず根が暗いわねアキラ」


やだやだと頬を手で押さえて溜息をする搦手。


「そうかい? 最期を彩ってこその人生さ。死に目が分かってる君をボクは少し羨ましいけれどもね」


耳上に挟んでいた筆ペンを手に取った写楽はそれを自在に舞わす。


「お話しはもういいでしょ? 惜しんでくれてるのかしら?」


「はは、惜しいに決まってるじゃない? ボクが価値あるものを尊ぶのは知っているだろう?」


「独りよがりな価値観なんて知らないわよ」


「価値観には主観以外無いんだよ」


「可愛くないわね」


そこまで言って、搦手は左手を開く。


出現した巨大な電信柱は、写楽を貫く勢いで迫る。


「ふむ、瓦礫だね」


写楽は余裕綽綽で筆ペンを前に突き出す。


パァン!!!


すると、強烈な破裂音と共に筆ペンが電信柱を弾き飛ばした。


写楽は筆ペンを軽く撫ぜる。


「ボクの目から見れば電信柱なんて無価値も無価値。筆ペンにも勝てやしない」


「アンタの目線でその筆ペンに勝る価値のものなんてあるのかしらね」


搦手の言葉に、写楽は軽く苦笑いをする。


「手の内がバレてる相手は苦手だなぁ」


「お互い様よ」


搦手がガッとポケットに手を突っ込んで掴んだ者を再度解き放つ。


それが瓦礫の濁流となって写楽に迫る。


それを眼前に見据えた写楽は、何処から取り出したのか和風な傘をくるりと回し、前に向って広げた。


命は宝の宝(ネームバリュー)

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