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残党シャングリラ  作者: タビヌコ
第六章「当て馬リベンジャーと結び目ワールド」
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『境界線』

前回のあらすじ


さぁ困った



「一体どうすればよいのじゃ!!」


ところ変わってここは神元町、悪道邸。


華々しい演説を終えた姫子は随分と焦り叫んでいた。


「どうしようもないッスよ。広範囲にジャミングが張られてるッス。こちらからのコンタクトは不可能ッス」


キーボードに稲妻のようなタイピングを走らせながら、葉加瀬は目を右往左往に流す。


演説の直後、天使の襲撃と同時に尾方達との連絡は切断され、幾ら連絡しても誰にも繋がらない状況が続いていた。


テレビ中継をつけても平凡な小競り合いの情報ばかりでまるであてにならない。


「一瞬じゃが、通信の切れる前に尾方の声が聴こえた! 敵襲じゃと言っておった!」


「それは私さんも聴こえたッス。間違いないッスね」


「...」


淡々と受け答えする葉加瀬に姫子は憤りを感じたが、直ぐにハッと冷静になる。


「...ハカセ? もしかして何か知っておるのかの?」


まだ短い付き合いだが、姫子が葉加瀬と居た時間は短くない。


緊急事態に対しての葉加瀬の反応が、両極端であるように姫子は思った。


起こった事態に対して、姫子と共に慌てふためくこともあれば、冷静にキーボードを叩いている事もある。


まるであらかじめ『知っている事』と『知らない事』があるかのように。


思ったままにポツリと出た呟きだったが、葉加瀬はこの言葉にピクリと反応してしまった。


「...聴いては不味いことじゃったかの?」


恐る恐るそろりそろりと顔色を伺う姫子。


その様子に、張り詰めた緊張を纏っていた葉加瀬は深い溜息をついた。


「はぁー、姫子さん。あんまり感がいいのも考え物ッスよ。やぶ蛇だってあるんスからね?」


「人を見る目はあるつもりじゃ。ハカセならどんな隠し事も怖くは無い。だってそれはメメント・モリの為なのじゃろう?」


屈託のない笑顔で言い切る姿に、葉加瀬は頭を掻く。


「やれやれ、とんでもなくお人よしな悪の組織のボスも居たものッス。じゃあ、覚悟して聴いて欲しいッス。あと、ここで聴いた事は他言無用ですよ。尾方のおっさんにさえッス。出来るッスか?」


姫子は暫く考えたが、振り切るように首を縦に振った。


「よろしい。では初めに一つッス」


コホンと一息ついた葉加瀬は、ハッキリとした声で言う。


「私さんこと葉加瀬芽々花は。権能持ちじゃないッス」


「...?」


姫子は目をぱちくりさせる。


「...うん? いや、ハカセは確かに悪の神より権能は授かっていないと言う話じゃったが...だとすると【遊戯脳メガドライブ】は? なんなのじゃ?」


「あれはその場しのぎで私さんが名づけた名前ッス。テレビの中の私。あの葉加瀬芽々花は」


『ここじゃない未来の葉加瀬芽々花なんです』




「はぁ...はぁ...ッ...はぁ...」


ところ変わってここはスタジアムの入り口。


鵜飼の力を借りて大天使二人の追撃を振り切った尾方は、息を切らしてスタジアムの外に飛び出した。


その時。


「あ...」


飛び出した尾方に反応して思わず出たような声が一つ。


「あら...」


声の方を振り向いてやっぱりと出る声が一つ。


尾方が振り向いた先にはこじんまりと体操座りをした少女の姿があった。


「小廻ちゃん。どしたのこんな所で?」


誤魔化しているつもりなのだろうが余りにも白々しく尾方は言う。


「...尾方さんこそ。どうしてこんな所に? スタジアム内は大波乱の筈ですが?」


拗ねる様に言う小廻に尾方は笑いかける。


「おじさんじゃ着いて行けなくってさぁ。逃げて来ちゃった」


たははと笑う尾方を小廻はどこか眩しそうに見る。


「...どこまで知ってます?」


小廻の言葉に尾方は口角を下げる。


「なにを?」


「作戦の事ですよ」


「いや。実は全然知らないんだよね。なんか小廻ちゃんが来てていやな予感がしたからお節介焼きに来たって感じでさ」


「...なんですかそれ? 私が心配で来たみたいに聴こえますよ?」


「え? そのとおりなんだけど?」


「はい? 私は大天使なんですが?」


「え? うん? そうだね??」


「私はあなた方に害なしますが?」


「そりゃそうだ。天使と悪魔だもの。でも...君は小廻めぐるでしょ?」


その言葉に嘘偽りはなく裏表がないのは、尾方巻彦の目が物語っている。


「私は...」


ハッとした小廻はブンブンと頭を強く振って邪念を払った。


「作戦を止めに来たのなら受けて立つぞ屈折の悪魔!」


シャキッと立ち上がった小廻は後ろに数歩距離をとる。


「作戦じゃない。君を止めに来たんだよおじさんは」


とられた数歩を目算で測るように視た尾方は、構える前に口を開く。


「君の正装。あの運動エネルギーを蓄積させる小手の留真流【とどまる】はさ。実は両手分あるんじゃないの?」


尾方の言葉に小廻はピタリと止まる。


「そのもう一つの片手は肌身離さず持っていて、ずっとずっとずっと運動エネルギーを溜め込んでいる。違うかい?」


小廻はその話を黙って聴いている。


「無論、日夜シャングリラで戦っている君の事だ。蓄積されたエネルギーは膨大なものになるだろう。このスタジアムを木っ端微塵に吹き飛ばせるほどに」


尾方はここまで喋って、一拍置いた。


「でもさ。その正装。反動あるよね?」


ピクリと小廻の肩が跳ねる。


「おじさんの仲間にさ。デッカイ銃をぶっ放す奴がいるんだけどさ。普通に撃ったら反動で腕が吹き飛ぶんだって?」


また一拍。


「君は、どうなるんだい?」


尾方は傍目にも懇願するような、陳謝するような顔でその問いを投げかけた。


小廻は、暫く俯いていたが顔をあげて口を開く。


「我々の作戦は、大天使を持ってメメント・モリ主力メンバーをスタジアム内に釘付けにし、適度に攻撃。援軍、ないし秘匿戦力の誘導を狙い、頃合を見て大天使達は撤退。その直後」


ここまでツラツラと無機質に語っていた小廻は言い澱み、だがすぐに続ける。


「私の正装と命を持って。メメント・モリは壊滅。状況は終了となります」


途中まで努めて平然な顔で話を聴いていた尾方だったが、話が進むにつれ眉間に皺を寄せる。


「...誰がこんな作戦を?」


怒気が混ざりそうになる声を何とか抑える。


「いくつかの作戦を皆で話し合いこの案に。私が志願しました」


「......」


怒りとも悲しみとも取れる表情の尾方は、頭を軽く三回小突く。


「私を生かしておくとメメント・モリに未来はありません。さぁ構えてください」


構える小廻を、尾方はジッと見つめる。


「ごめんね、君は死ねないよ」


「...はい?」


「僕は悪魔だからね。君の邪魔をする」


尾方は、頭を小突いた手の指先を弾く。


すると。


尾方の頭上に、欠けた輪のような円が淡く光る。


それはハッキリ、小廻も認識する事が出来た。


「尾方さん...? それは?」


「忘れ形見」

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