第八十五話 第二回イベント②
月を跨ぐことなく、しかも月の最終日になる前に投稿できたのはいつ振りでしょうか、姫河ハヅキです。
今回の話もお楽しみください。
「やっぱり複数パーティ推奨のクエストをたった二人でクリアするのは無茶だって!!!」
「いやー、俺もスノウも火力高いしワンチャンいけるかなって」
「無理だよ!?母さんがいたならまだマシだったんだろうけど仕事でいないしさ」
「時間さえあればなー」
イベント二日目。今ボク達がいるのはイベントフィールドではなく、このクエスト専用に作られたインスタンスフィールドだ。
というのも、イベントフィールドに存在する冒険者ギルドで受けたクエストの一部は、メニュー画面から操作を行って専用のフィールドに移動する仕様となっているのだ。
その仕様であるクエストはどれも高難易度なもので未だに掲示板へのクリア報告が来ていないため、情報が見つからない7以降の情報断片はそれらのクエストの報酬だろう、というのがボク達の予測だった。
クエスト報酬の一つに「???」があり、予測の確度は高そうだと考え無しにクエストを受けた結果が現在の状況である。広範囲攻撃を連発してくるため専門のタンクがいないこのパーティだとリルやイナバを出すのは難しく、ボクと父さんの二人での攻略となっている。
まぁ無理である。
「さっき獲得したスキルでなんとかしてよ!」
「無理に決まってんだろ!有効な距離に近づくまでに魔法直撃して乙るわ!」
『あれは弱くはないんだけど、父さんとの相性と使い勝手がねぇ』
『···少し羨ましい』
『俺はいらんから渡せるものなら喜んで渡すんだがなぁ』
父さんが獲得したのはエクストラスキル【饕餮】。エクストラスキルにしては性能は少し控えめで内包されているスキルの数も少ない。自身の歯のみに適用される強度無視【嚙み砕く牙】、経口摂取したものによる影響の完全無効化【強靭な胃袋】、条件を満たした捕食対象からのスキルやアーツのランダムラーニング【食物連鎖】、この三つだけである。どれもノーコストのパッシブっていうのは利点だけど、父さんだとどれも活用し辛いのである。
口に入れて何か悪影響が起きるとなると大抵は身体系状態異常で、その場合はVITで抵抗判定を行う。物理超特化型たる父さんは自前のVITや各種耐性系スキルで大抵の身体系状態異常を弾くので【強靭な胃袋】による無効化が活躍することはあまりないだろう。
また、【食物連鎖】も活躍するかどうかがかなり怪しい。なにせランダムなのだ。種族固有のものはその種族しか使えないため不良在庫と化し、魔法系のステータスを参照する類のものはINTもMNDも初期値以下の父さんにはまともに運用できないためこれも不良在庫と化す。というか父さんがバフ系を除いてアーツやスキルを使うこと自体が少ないのでラーニング系統全般が父さんと相性が悪い。
【噛み砕く牙】とてリーチが短すぎるので使う機会がろくにないと思われる。それだけ近ければバカ高いSTRでぶん殴る方が早い。
結局、【饕餮】はどうしようもないくらい父さんとは合わないのだ。
なお、父さん以外は全員有用かつ自身のスキル構成と相性が良いスキルを獲得していたりする。
《イベントクエスト:風竜討伐。制限時間超過により失敗。リスポーン地点に転移します》
シュオン、と近未来的な効果音が鳴ったかと思えばイベント中のリスポーン地点に設定されている場所に転送されたボク達。そして集まる視線。
「「あっ」」
クエストに行くからって変装解いたままなの忘れてた!。イベント初日みたく人目を集めるのは勘弁!
「飛ぶよ」
「おkんごっ」
返事も聞かず父さんを回収して空高くへと飛翔する。周りに影響を与えない出力には抑えながらも『魔砲』まで使うくらいには全力で。
その甲斐あってイベント開始時よりは人目を集めることなく離脱することができた。さっさと変装済ませちゃおうか。
「イベント開催したら毎回こんな感じなのかなぁ?」
「俺一人なら他のトップ層と同じように一瞬人目を集めるが囲まれはしない、くらいで収まるだろうが、如何せんお前がなぁ」
「昨日から思ってたんだけど、なんでボクの知名度高いの?人前で大立ち回りした記憶ないよ」
「きっかけはギルド登録試験だな。竜人のくせして『咆哮』や『魔纏』以外をホイホイ使うわ、全部取ろうとしたらSP大量に必要なはずの属性魔法をあの時点でコンプしてるわ、魔法の同時発動数も発動速度もおかしいわ、とあの一回でお前の異常性が少なからず他のプレイヤーにバレたわけだ」
「······あの時そんなに人いたっけ」
「試験の相手に高ランク冒険者多いから、割とプレイヤー集まるんだよなー。世捨て人のお前じゃ大して注目されてないと思って自重忘れるのも仕方ねぇよ。······つーかどうやって降りるんだ?一旦振り切ったとはいえ、空から現れたら嫌でも目立つぞ」
「ユリアに幻影魔法組んでもらうつもりー」
『今回はゆっくり降りるからそこら辺の調整はいらないよ』
『オッケー。竜峰山での狩りより楽でいいわね』
亜竜や竜種を狩る時は『魔砲』と『魔纏』を併用してかなりの速度を出した状態のボクを隠蔽してもらってるからねー。今でも正面戦闘は時間がかかるため、隠れた状態からの首チョンパが最適解なのだ。
二度目の変装を終えたところで高度を徐々に下げて適当な路地裏に着地すると、父さんが再びギルドへと向かおうと提案。どうも空から降りてる間にフレンドへメッセージを送っていたらしい。
「どいつもフリーだったからクエスト済ましちまおうかと思ってな。恰好は変だしキャラも濃いが戦闘力は保証する」
「どんな人達なの?」
「バ火力持ちのキメラ装備爆炎ジャンキー、変態技量のコスプレ魔法剣士、生身部分で武器も魔法も弾くマイクロビキニクソ硬タンク」
「なんて???」
キメラ装備は普通に納得できる。モン〇ンとかであったし、付与スキルやステータス補正が優秀なものを装備したら結果的にキメラと化すのは不思議じゃない。
コスプレだって全然変じゃない。「憧れのキャラになりたい」ってボクも思ったことはある。なんなら現実で何度もコスプレした。
だがマイクロビキニ、お前だけは脳が理解を拒む。せめてビキニ部分で攻撃弾けよ。
「交友関係には気を付けよ?」
「人格はマトモだから安心してくれ」
まともな性格でマイクロビキニ着てる方が怖いんだけど。
◇◆◇◆◇
「もう全員集まってるとは早いな。待たせちまったか」
「いえ、偶然ギルドにいたもので。それに大して待っていませんよ」
「十分くらいだもんな」
「呑んでたらあっという間ね」
「そうだニャー」
あれ、四人いる?変装なのか普通の恰好してるから誰が誰かは分からないけど、明らかに一人多いよね。
どの人がマイクロビキニだ······?
「マタタビも来たのか」
「この三人を誘っておいてアチシを誘わないとは水臭いニャ。”秘密の箱庭”の絆はどこに行ったのニャ!」
「だってお前、呑んでたら気付かないことの方が多いじゃん。あと声をかけたのはお前ら以外にもいて、クエスト中とかの理由で結果的に集まったのがこのメンバーだっただけだ」
「あー、それは早とちりしてすまんかったニャ」
はて、”秘密の箱庭”とは何ぞや。
「······あ、ツレが困惑してるからクエスト受注してさっさと待機空間行くぞ。こんな所じゃ自己紹介できん」
「そうですね。変装の意味がなくなってしまいます」
「さて、今回はどこまで見せるかなー。そいつの口は堅いの?」
「口の堅さ以前にプレイヤーとろくに関わらんから情報が洩れる心配はしなくていい。まぁ詳しくは自己紹介のときだ。こいつのスキルの都合上、そっち四人でパーティ組んで俺にレイド申請してくれ」
「はい」
「分かった」
「「うーい」」
あっという間にパーティやクエストの手続きが行われて高難易度クエスト専用の仕様である待機空間に転移するボク達。この空間では装備を整えたり、アイテムや作戦を確認する時間が与えられる。参加プレイヤー全員が「準備完了」を押すか一定時間が経過することでクエストフィールドに転移する。
各々装備を戦闘用のものに変えた所で自己紹介のスタートだ。
「そんじゃ私から。ヒバナ、ダークエルフだ。魔法職と生産職のハイブリッドで、火属性と爆属性の魔術やアイテムで火力を出すアタッカー。恰好は気にすんな。性能目当てで着たらこうなった」
ヒバナさんは、ロリとまでは言わずとも、高く見積もっても中学生くらいの女の子。このくらいの年頃ってお洒落をしたがるイメージがあったのだが、ヒバナさんはそうじゃないようだ。
「あ、と、アイリスから聞いていましたのでそこまで気になりません。それに、某狩りゲーでもキメラ装備はよくいましたから」
「お、アンタもやってたのか。今度話そうぜ」
「は、はい」
初対面の相手によくここまで親しく話しかけられるなぁ、ヒバナさん。(おそらく)年上のボクより明らかにコミュ力高いよね。
ボクだと何回か話さないと趣味の話題なんて出せないよ。
「それでは次は私が。私はあるとりあ・ぺんどるぁごん、人族です。光属性と聖属性、そして剣での物魔混合アタッカーです。騎士ではありますが盾は持ってないのでタンクはできません」
「······アルトリア・ペンドラゴン?」
「いえ。『あるとりあ・ぺんどるぁごん』です。『ラ』じゃなくて『るぁ』、あと全体的にひらがな発音でお願いします」
「······あ、了解です」
ボクこの人のリアル知ってるわ。プレイヤーネームがコスプレイヤーとしての名前と全く同じだし、名前の弄りへの反応も一緒だもん。
後でフレンド申請してメッセージ送ろ。
「んじゃ私。羊獣人のもこもこ。物魔両方得意な盾役だけど移動速度死んでるから、私を掴んで盾にしてくれても構わんよ」
「よろしくお願いします」
うーん毛玉。多分この人がマイクロビキニなんだろうけど、毛深すぎて服装が分かんない。生身部分でも武器や魔法を弾くっていうのは······羊毛の部分かな············?毛も生身っちゃ生身か。
あと声的に女性だよね。マイクロビキニは恥ずかしくないのだろうか。
「アチシはマタタビ。闇、影、格闘による混合アタッカーの猫獣人ニャ。アチシは酒を呑めば呑むほど強化されるから、酒臭いのは我慢してほしいニャ」
「な、なるほど。分かりました」
この人パッと見未成年だから絵面がちょっとアレだね······。いや、仕草や雰囲気とか行動の端々から大人っぽさは感じるから大人なのは分かるんだけどね。
なんていうか······ロリババアみたいな感じ?
「ここまでで何か質問あるか?」
「”秘密の箱庭”ってなんです?クラン?」
「いや、ただのパーティ名だ。全員他人に見せ辛い手札が多くてこのメンバーで頻繁にパーティ組むことが多いから、なんとなくで付けた。お前も自重しなくていいぞ」
「それはありがたいですね。試し打ちしたいのが色々あるので」
「私たちも自重しないから君も好きにやっちゃっていいんだぞ」
「久しぶりの新入りだな。楽しみ」
「新入りの名前聞いてないニャー」
「「「「あ」」」」
気を取り直して自己紹介。
「ボクはスノウです。竜人ですがとあるエクストラスキルで遠距離魔法が使えまして、あと全属性持ってますので魔法アタッカーとして頑張ります」
「全属性は物好きだなー。でもこれで近距離三人に遠距離二人だしバランスいいな」
「ヒーラーもバッファーもいませんけどね」
「いや、まだメンバーは増えますよーーー
なんとなく指パッチンをしながらユリア達を召喚する。リル達獣組は【人化】を調整して獣人のような状態になってもらっておく。
ーーーこの子達もいますから」
「ユリアよ。回復と支援なら任せなさい!」
「リル。魔法は風と雷で、武器は片手剣と片手盾の魔法剣士なの」
「···ヴァルナ。魔法は土と鋼、武器は斧と大盾の重戦士」
「イナバ、短剣二刀流で水属性と氷属性の軽戦士なのですよ」
「え、獣人?」
「獣人ってテイムできましたっけ」
「いや、【人化】を調整してるだけで実際はモンスターですよ」
「なら納得だ。高位のモンスターには【人化】出来る個体が割といるらしいし」
「三人もそこまで育て上げるとか早過ぎるニャー。社会人としては、感心するより先にリアルを疎かにしてないか心配にニャるんだけど」
「······驚かないんですね?」
驚いてほしいわけじゃないんだけど、反応薄過ぎてこっちがびっくりしたというか。
もしかして人化するモンスターも精霊も珍しくない感じ?
「いや、驚いてはいるよ。ここの面子はどいつもこいつもぶっ飛んだ技術や切り札を持ってるから『アレに比べたらまだ珍しくないか』って驚きが薄れちゃうだけで」
「えぇ············?」
ボクはとんだ人外魔境に来てしまったらしい。ボクも切り札はあれどそこまでぶっ飛んでないから、レアで高性能なアイテムやスキルで対抗するしかあるまい。
「今は風竜討伐のクエストですからその作戦について話しましょう。世間話はクエストの後でもいいですし」
「それもそうか。······で、どうする?私を軸にするなら火属性と爆属性の耐性引き下げる代わりに他の属性耐性を上昇させる魔法薬をぶつけるつもりなんだが」
「火や爆がメインのアタッカーはこのパーティじゃヒバナしかいないから反対ニャ。複数パーティ推奨だしさすがに一人は無茶だと思うニャー。それをするなら「それいいですね。ボクが属性の問題は解決できますので、その魔法薬の使用をお願いします」············ニャ?」
「どうするつもりなんです?」
「ボクのエクストラスキルで······あ、一応の確認ですけどあるとりあさんとマタタビさん【魔力精密操作】持ってます?」
「「持ってる」」
「それなら二人の属性魔法を混成魔法に変化させることが可能なので、それであるとりあさんの聖属性とマタタビさんの闇属性、あとリル達の属性魔法を火属性が混ざった混成魔法にします」
混成魔法って元になった二つの属性の性質を持っていて、たとえ敵が元の属性の片方に耐性持っていたとしても、もう片方が弱点属性なら混成魔法自体は弱点で攻撃したって判定になるんだよねー。
さすがエクストラスキル。割とエグい。
「は!?」
「他プレイヤーの属性魔法を混成魔法にするとかどういうこと······?」
「これでアタッカーとか詐欺ニャ」
つい昨日スキルの実で獲得したエクストラスキル【大いなる業】。生産系と魔法系の複合のようで、生産アーツや魔法アーツが色々と追加されたのだ。
その一つが【付与術】系統の〈属性魔力付与〉。自身が持つ混成魔法を味方に付与できるアーツだ。付与の対象が付与したい混成魔法のどちらかの属性魔法と【魔力精密操作】以上の【魔力操作】系統のスキルを持っているという条件をクリアすれば、何人にでも付与が可能なめちゃ強アーツである。
しかし大きな欠点があり、付与する側も付与される側も大量のMPを要求されるのだ。付与される側は効果時間中、魔術の消費MPが五倍になり、付与する側は付与するのに一人あたり5000という消費量である。
ボクでさえMPは20000弱なので一度に三人までしか付与できないため、今回はまず三人に付与を行い、MPが回復したら残り二人にも付与をするつもりである。
「普段より消費MPがかなり多くなってしまいますが、大丈夫ですか?」
「10倍となると厳しいですが、5倍くらいなら······」
「アチシは酒呑んでればリジェネかかるから心配ないニャ」
問題なし、と。
「一塊で動くと事故りそうだから二人か三人で一組にするか。······スノウはヒバナ担いで空爆、地上では俺とヴァルナ、リルとあるとりあ、もこもことイナバとマタタビ。こんな所だな」
「「「「異議なーし」」」」
「「「(···)了解(なのです)」」」
うん、属性とか防御力とか考えたらそれが妥当だね。
防御面としては、前衛の中ではイナバとマタタビが防御力ワースト1、2だからトップのもこもこさんに守ってもらって、リルは風属性の魔物で風属性への耐性が高く、対風竜においてはもこもこさんに次ぐタンク適性があるため、イナバとマタタビさんの次に防御が薄いあるとりあさんの守りについてもらい、余った父さんとヴァルナで組む。
攻撃面としては、相反する属性なあるとりあさんとマタタビさんを離せば他は特に問題ない。強いて言うなら父さんとヴァルナの斧術は同じ流派を取っており、そこでシナジーがあるくらいだ。
ボクとヒバナさんは言うまでもなかろう。
「······私は?」
「「「「「「「あ」」」」」」」
今回は回復・支援に徹するって言ってたからそもそも誰かと組ませるという考えに至らなかったんだよね。
「順当に考えて私とヒバナさんのペア以外に付いてもらうのがいいですよね。メインタンク張ってもらうもこもこさんに······」
「や、私回復とバフは自前であるから他二ペアのどっちかで」
「あれ?さっきはヒーラーもバッファーもいないって」
「称号の効果で性能が強化された代わりに自分以外には使えないんだ。それじゃヒーラーでもバッファーでもないでしょ?」
「······確かに」
「俺達はVITとHP高いから全方位魔法攻撃さえ来なけりゃそうそう崩れないだろうし、基本的にはリルんとこでいいぞ」
「···多少の魔法なら私でも全然平気」
「ではユリア、よろしくお願いします」
「ええ、即死しない限りは治してあげるから安心しなさい」
よーし、風竜討伐クエスト、スタートだよ!




