第八十三話 弟子と指導と恋愛模様 ~ダンジョン攻略を添えて~
月末近いとはいえ月を跨ぐ前にちゃんと更新できたぞ、ヨシ!(地面に埋まったハードルを見ながら)
あ、後書きにちょっとした設定的なものを置いておきました。作者が見返すためのメモとも言う。
「んー······よし!完成!」
「何作ってるのかと思えば······剣の形した飛び道具か?」
「本来は武器としても強いんだけどねー。素材やスキルレベルの関係でどっちか一方面に絞らないと中途半端になりそうだったんだよ」
「本来はってーと······真似た元があるのか」
「見た目が一番時間かかった」
検索して見つけた画像とにらめっこしながら微調整すること数時間。多大な集中力と引き換えに得たのは本物そっくりのクオリティと【細工】のスキル経験値。
性能はこんな感じ。
えくすかりばー
異界の物語に登場する伝説の武器をごく一部再現したもの。光・聖属性の斬撃を放つという魔道具的な機能にリソースを集中させた影響で武器としては非常に弱い。剣の形をした広域殲滅用魔道具と表現した方が近い。
・装備補正
STR+5
・付与スキル
光属性強化
聖属性強化
詠唱強化
極光(魔力砲撃:光・聖)
驚きのSTR+5。初期武器ですらもう少し高いよ?
ステータス補正はあってもなくても変わらない程度だが、これでも剣カテゴリの武器だからなのだろう。
武器として見るにはナマクラもいいところだよね!魔法攻撃用アイテムとして見てもMP的にそんなポンポン使えるようなものではなく、総合的な評価としても「かっこいいけど使い勝手は······」くらい。事前にMPをチャージしておいて囲まれた際にぶっ放す、以外の使い道はないと思われる。
······まぁそれだけ役割があれば十分か。
ちなみに光・聖属性強化ガン振りの防具一式やオルタverの剣および防具一式(影・闇属性)も作っていたりする。使う機会が来るかは分からないけど作りたかったんだから仕方ないよね。
「上出来だが、誰か来る前にさっさと片しとけ。剣のくせして剣としての機能を捨てたそれは、ドワーフの価値観からすれば邪道だからな」
「! そうなんだ」
「昔は剣や槍、鎧みたいな戦士のための装備はドワーフが、杖やローブとか魔術師のための装備はエルフが作るという風潮があってな。戦士用の装備を作るエルフや魔術師用の装備を作るドワーフは異端とされてたんだ。お前はドワーフじゃないが、ドワーフに師事しているからその一門としてカウントされる。最近でこそ寛容になってきたが、それでもいい顔はされないぞ」
「なるほどねー」
助言に従って完成した品をインベントリに放り込んでおく。今日は来客の予定があるからね。
カランコローン
「師匠、ミシェルが只今参りました!今日もよろしくお願いします!」
「だとよ、お師匠様?」
「揶揄わないでほしいんだけどー?」
今でも指導役変わってくれても全然いいんだよ?
イスファ一門じゃボクが一番鍛冶のスキルレベル低いんだからね。
「実際、あの坊主を指導できるのはお前くらいだ。逐一魔力濃度を観測して適量の魔力を吸収し続けるなんざ、オレ達でもそこそこ大がかりな設備を作る必要がある」
「出来ないとは言わないんだ」
「まぁな。ただ、貴重な素材を使う必要があるうえに作ったところで使い道が限られてるから作る気はさらさらないな。ほら、出迎えてやれ」
「はいはーい」
◇◆◇◆◇
「し、師匠」
「んー?」
「前から思ってたんですけど、なんで身体をくっつけるんですか······!?」
「この距離と体勢が都合いいんだよねー。離れると魔力の調整がうまくいかないんだ。ほら、今は例のスキルも発動してないし順調に鍛冶を進められてるでしょ?」
「え、えぇ。そうですけど」
「いつまでも指導できるとは思えないから、ミシェルにはスキルが発動しても問題ないくらい鍛冶に習熟してもらうかスキルの発動を自力で抑えられるようになってもらわなきゃね。その二択だと後者の方が現実的じゃん」
「それもそうですが······!」
「勝手に流れ込む魔力を絞りながら、スキルが発動せず加工やエンチャントができる範囲に金属に流す魔力を調節する感覚。段々覚えてきたんじゃない?」
「この近さじゃなければもっと早く覚えられている気がします············!!」
「さっきも言ったけど離れると魔力の調節が途端に難しくなるんだよねー。······あ、髪を上半身に巻かれるのとどっちがいい?」
やっぱり胸が当たってるのがマイナスに働いてるっぽいね?
しかし、ボクだってそこそこ大変なのだ。鍛冶およびエンチャントに適した魔力操作をミシェルの魔力を外から動かすことで教えながら、金属に余分に流れ込みそうになってる魔力を吸収しつつ吸収した魔力をミシェルに返して、と三つの作業を並行して行っているのである。
そもそも他者の魔力を操作するのは難易度が非常に高く、そこらの魔術師が同じことをしようとすれば相手の魔力回路を傷つけてしまうのがオチだ。他者の魔力の流れをも見ることができる【竜眼】で難易度を格段に下げることができているが、それでも自身の魔力とは感覚が異なるため少し神経を使う作業である。相手から離れると難易度が跳ね上がるため、こうして「当ててんのよ」状態になっているというわけだ。
他二つの難易度はそこまで高くないが、それぞれの作業がごっちゃにならないようにだけ気を付ける必要があったりする。
「······髪?」
「うん、この銀髪をぐるぐるーってミシェルの上半身に巻きつけるの。ボクはスキルで髪を伸ばせるから」
重要なのは接触しているということ。接触する部位や素肌かどうかは関係なく、髪でも構わないのだ。
······髪を巻き付けると絵面がホラーに寄ってしまうのが難点である。
「············今のままでお願いします」
「おっけー」
まぁそうだよねー。
「スノウが胸を当ててる自覚あるのが質が悪い」
「毎回あの状況になっておきながら少しずつとはいえ成長できてるのすごいですね」
「あまりよろしくない成長もしてそうなんだよなぁ」
さっきからそこのドワーフ三人衆が酷い言い草だ。イスファとミネルヴァはともかく、グスタフさんですらボクに野次を飛ばすのは予想外だった。
「ボクが弟子を惑わす悪女みたいな野次はやめてほしいんだけど?れっきとした師匠なんだから」
「いや悪女だろ」
「罪は犯してないですが教育には悪すぎます······」
「こっちは無自覚なのが悪質すぎる」
「「激しく同意」」
フルボッコである。酷くない?
なお、指導を終えた後にミシェル本人にどう思っているか聞いてみると答えを濁された。
解せぬ。
◇◆◇◆◇◆◇
「よろしくない成長つっても変な癖はついてなさそうだが?」
「癖は癖でも恋愛の方ですぜ。坊ちゃんはほぼ確実に異性の好みが姫さんになっちまってるから、同族から理想の嫁を取るのは諦めるべきでしょうな」
「あー、なるほどな。やっぱ男でも分かるのか」
「そりゃあんだけ分かりやすければね。ミネルヴァの姐さんも珍しく自分で気付いたんじゃないですか?」
「『珍しく』は余計です。······まぁ、私でも一目で気付きましたが」
「気付いてないのはスノウだけ。犠牲者二人目とは早ぇな」
「おや、既に一人いるんですかい」
「お前も見たことある普人の騎士だよ」
「······あぁ、あのいかにも真面目そうな。姫さんは罪深い女だ」
「ところで、同族から嫁を取るのが難しいとは?家格や伝統的にはむしろスノウちゃんをお嫁さんにする方が難しいんじゃないですか?」
「「············」」
「な、なんですか」
「さっき少し見直したかと思えば、やっぱお前はそこら辺鈍いよなぁ」
「これでこそミネルヴァの姐さんですよ」
「二人して酷くないですか!?」
「お前が鈍すぎるんだよ。いいか?初恋ってのはそいつの心にいつまでも残ってるもんだ。初恋の相手と結ばれずとも、その後に好きになる相手は初恋相手に似てる部分が多少なりともある」
「······な、なるほど」
「······分かってなさそうですがいいんですかい?」
「元から分かると思っちゃいねぇよ。オレもだが恋愛未経験だしな。
で、だ。スノウの顔つきやプロポーション、あと性格はどうだ?」
「急になんで「答えろ」······はい。えぇと、顔はとても可愛いですよね。凛々しさは欠けてますが、保護欲を掻き立てるあどけなさがあります。プロポーションは······あの小動物っぽさや身長の低さに見合わない立派なモノを持ってますよね。ギャップが凄まじいです。あと性格は······好奇心と探求心が強いですが、基本的に穏やかです。ほんわかしてますよね」
「まぁ、そんなもんだな。じゃあドワーフの特徴も今みたいに言ってみな。あ、女ドワーフだけでいいぞ」
「ドワーフは······可愛らしさはなくて精悍な顔立ちですよね。自分で言うのも悲しいですが低身長なうえに起伏がほぼない身体つき、性格に関しては人にもよりますが頑固な人が多かったはずです。あと良くも悪くも真っすぐなので、素直ですが人によってはキツいと感じる人もいそうですよね」
「はい、じゃあスノウとドワーフの共通点を探してみようか」
「············なくないですか?それどころかほぼ正反対な気がするんですが··················あ」
「やっと気づいたか。あの坊主の女の好みはスノウになっちまったから、ほぼ正反対の同族から理想の嫁を見つけるのは無理だな」
「しかし、坊ちゃんの家は同族以外から嫁を取るのは許さんでしょうな。難儀なこった」
「貴族って面倒ですよね。······そういえば、スノウちゃんみたいな女の子ってどの種族にならいるんでしょうか?性格はもちろん、顔つきや体つきも一般的な竜人とはかけ離れてますよね」
「さっきも言ったがまずドワーフは無理。エルフやダークエルフは高身長ツルペタだし、鬼人も大体高身長。スノウは胸はデカいが他は細いから魔人も違うし、普人と竜人は個人差あり過ぎて話にならん。となると············牛系か羊系の獣人ワンチャンか?あの辺高身長が多めだが小っちゃい奴も割といたはずだ」
「姫さんはあそこまでのんびりしてませんが、ほんわか具合は近いかもしれやせんね」
◇◆◇スノウside◇◆◇
ヴォロベルクにダンジョンはいくつかあるのだが、レベリングと鉱石集めを並行で出来る〈黄竜坑道〉へ行くことに。
以前もやったように途中まではリル達中心で頑張ってもらい、疲労が溜まってきた頃を見計らって選手交代。今はボクと父さんでゴーレムの群れをしばき倒しているところだ。
「そうだスノウ、イベント告知見たか?」
「見たよ。九月ということで月と兎がモチーフなんだってね」
「俺が気になったのはイベントフィールドとNPCについての仕様だな。『本イベントの町はイベント用に作られたもので、イベント終了後には行き来できませんが、イベント後のフィードバックや影響を気にする必要はございません。NPCも同様です』とか、町中で事件起きますよってことだろ。ストーリーの分岐によっては町吹き飛ぶんじゃねぇの?」
「いやいやまさか」
それはさすがにやり過ぎだと思うんだ。
「あっても分岐全部間違えるくらいしないとそのルートにはいかないと思うけどな。建物がいくつか倒壊する、くらいならどのルートでもありそう」
「まぁ、そのくらいならね」
「俺の予想ではイベント中にPVP起きる気がするんだよなー。前回のイベントもPVPではあったがスポーツ対決だったから、『ガッツリ戦闘したい』って感想多かったらしいんだよな」
「······つまり町中でPVP?」
遠距離持ちや範囲攻撃持ちが悲鳴あげるのでは?町の規模によっては長柄武器とか両手武器担いでる人も辛そう。
「それだ」
「自分で言ったことだけど違うでしょ。一部の近接職が有利過ぎる」
「いや、割とありえるぞ。別にイベント中ずっと同じことをしなきゃならんわけじゃないし、この前の夏イベは遠距離持ちや重量級武器持ちが有利な競技あったから今度はそいつらが不利な状況が来てもおかしくない」
「うーん······PVPかぁ」
「ん?お前別に戦闘は嫌いじゃないよな?なんでそんな微妙な顔してんだ」
「スキルや装備の出所を探られそうな気がするんだよねぇ。悪目立ちするのは好きじゃないから」
「まぁ、質問責めには遭うだろうな。【精霊術】や【仙闘術】は習得条件判明したが、お前まだまだレアな手札あるもんな。······そういや、金属系のゴーレムには打撃以外ろくに通らないのによく俺と同じくらいの速度で討伐できてるな。レベルはお前の方がだいぶ高いが、STRにはあんまり振ってないだろ?」
「まぁね。とあるアーツが悪さしてる」
「聞いていいか?」
「いいよ。【槌術・ドワーフ流】の〈鋼砕き〉ってパッシブアーツ。岩石系や金属系のオブジェクトおよびモンスターへの打撃属性の攻撃による与ダメージ増加って効果。······ハンマー限定じゃなくてしれっと打撃攻撃全部に補正乗るんだよね」
「おまっ、それは」
「それ以外のモンスターへの打撃攻撃の与ダメージは減少するんだけど、斬撃属性や魔術には影響ないからただの強力なバフ」
【料理】系統と何らかの武術系スキルを持ってたら【料理】の方に〈調理の心得〉なんて生物系モンスターへの与ダメージ増加(微)のパッシブアーツ生えるし、【木工】系統と【斧術】系統の複合スキルにも似たようなのありそう。
「あ、言ってなかったけどこの髪今は鞭判定」
「は?」
「形状を少し変えれば蛇腹剣判定です」
「は??」
「やろうと思えば大体の武術系スキル適用できるよ!」
「は???」
【身体操作】の知られざる利点よ。慣れれば形を上手いこと調節してお好みの武術系スキルを使えるという。慣れるまでが大変だが手数が倍に増えるのでやる価値は十二分にある。
あとMPを持続的に消費するため本格的に運用するなら【魔力自動回復】は持っておきたいところだ。
「マジで便利」
「今更お前のマルチタスクには驚かんが······ちなみにあの戦術と併用できるのか?」
「できるよ!」
「マジか」
「脳を酷使するからあまり長時間は無理だけどねー。対集団の乱戦でも通じる戦術を持ってるのは大きいよ」
『なんでアレを魔導機械や魔道具抜きで実行できるのか甚だ疑問なのだけど······?やっぱり人間じゃないわよねスノウ』
「すまんスノウ。アレを体感した人間としてはお前に人間を名乗ってほしくはない」
「喧嘩なら買うよ?」
『アイリスもどっこいなの』
『···反応が速すぎる』
『二人とも人間じゃないのです』
「父さんも割と言われてて笑う」
「オイ三人娘。言いたいことがあるなら直接言ってくれよ」
「当機の『智慧の瞳』ならマスターの並列処理もクマさんの高速処理も可能ですヨ!ガンガン使ってくださイ!」
「「お前が一番人前で使えない代物なんだよなぁ······」」
「なんト!?」
「魔導機械とかトップ層しか存在知らないし、見つかってるのは拳銃やナイフくらい。完全自律思考が可能なロボなんざ爆薬過ぎるわ」
「ヌルが狙われるのは避けたいから我慢してほしいんだ」
「それは仕方ないですネ······。じゃあこのダンジョンは当機を使って攻略してくださイ!もう辺りに他の人型範疇種族はいませんシ、見られる確率はほぼゼロでス!」
「「おっけー」」
ボクが風・雷属性特化兵装の『自由の空』を、父さんが近接戦闘特化兵装の『覚悟の剣』を装着してダンジョンに挑んだところ、かなり苦戦したとはいえ〈黄竜坑道〉を攻略してしまい、ヴォーロスと早い再会を果たすことになったボク達なのであった。
〇Tips 現代の各種族の性格、顔つき、体つき
もちろん例外が存在しており、全員が似たような姿や性格をしているわけではないが、統計的な傾向というものはある。故郷で暮らしている期間が長い者ほどその傾向が強く、逆に故郷以外の土地で暮らしている期間が長い者ほどその傾向から外れている。
プレイヤーの場合、性格は当てはまらないことが多いが、顔つきと体つきはキャラメイクで種族を選択した際に不自然にならない程度に種族ごとの補正が入る。
・普人
:性格、顔つき、体つきのどれもこれといった傾向がない。個体差が激し過ぎて統計を取ることが難しい、ともいう。
・獣人
:犬系、猫系、狐系、と種類ごとに傾向はあるが、作者がリスト作るのを諦めたので割愛。作者曰く「そもそも獣人を何種類いることにするかも決めてない」
・エルフ
:顔つきは基本的に凛々しい感じ。美人系
:Theスレンダー。男性は筋肉がほぼつかないモヤシだが、背は高い。女性は胸も尻も小さいが等身が高くてモデル体型。
:その美しさから昔は奴隷として身を狙われていたことから警戒心が強く排他的。仲良くなっても当たりは強い。ツン99%
・ダークエルフ
:顔つきと体つきはエルフと一緒。
:エルフ程でないが警戒心は少し強い。でも仲良くなったら普通に接してくれる。
・ドワーフ
:顔つきや体つきは大体ドワーフと聞いてイメージするものに一致している。男性はチビでムキムキ、そして髭もじゃ。女性は合法ロリ
:性格は頑固でおおざっぱ。騒ぐのが好き
・鬼人
:男性は塩顔系イケメン、女性はおっぱいの付いたイケメン。つまり男女関係なくイケメン
:全体的に背が高い。瞬発力のあるしなやか筋肉を持つスレンダーか馬力のあるムキムキ筋肉を持つガチムチの二択で分かれている
:義理と人情に厚い。普段はサバサバしているが恩は必要以上に返すタイプ
・竜人
:顔つきや体つきは人族ほどではないが個体差が大きく、特にこれといった傾向はない。
:性格はこれでもかというほどに傲慢。力こそ全て的な。とはいえ弱者を虐げることはあまりなく、「弱いんだから下がってろ」パターンが多い。非戦闘員は守ってくれる。
・魔人
:寒い地域に住んでいるからか男女共に彫りが深い。険しい表情をしていることが多く、初対面の人物には誤解されることもしばしば。しかし性格は穏やかで、慈悲深い。優しい田舎のおばちゃん、おじちゃんに近い。
:体温を失わないためか筋肉or脂肪が多め。細いのは滅多にいない。




