第八十二話 ある日の修行
······ギリ一月に間に合わなかった············。
はい、相も変わらず亀のような執筆速度の姫河ハヅキです。大学の授業が終わって春休みが始まりましたが、春休み限定のバイトも始めたので執筆速度は上がりません。
ふとブックマーク数を見たら2200目前で、そのお礼をこの前書きに書こうと思ったら「あれ、そういや2000超えた時にお礼って言ったっけ······?ブックマークがキリの良い数になるタイミングと更新のタイミングが合わなくて言ってないような······」ってなったので遡ってみたら、ブックマーク数のお礼は第六十四話の1600のお礼が最後でした。
1700、1800、1900、2000、2100の時のお礼を忘れてて申し訳ないです。言おうと思ってただけに悔しい。
これからもよろしくお願いします。
「······変装の必要あるの?」
「あります。この刀に使われている素材はとても希少なものですし、パッと見でもこの刀が優れているのは誰でも分かるでしょうね。そうなると異界人たちに素材や鍛冶師や入手方法など質問攻めにされるでしょうから」
「斬ればいい」
「やめてください。何度殺しても戻って来ますから」
初手斬殺はさすがに物騒過ぎません?
「向こうが悪い。冒険者の得物について詳しく聞き出そうとするなんて、『私はお前の武器を狙っている』と同義。常識」
「え、そうなんですか?それって武器について聞いた時点でアウトですかね」
「一度目は世間話の範囲。二度目はナンパ目的だったり武器狙いだったりと複数パターン存在するけど基本下心。三度目は武器狙いほぼ確定。武器に手をかけられても文句は言えない」
「なるほど」
············掲示板に投げておくべきですかね、この情報。
正直、どこぞの名も知らないプレイヤーがデスペナ受けても構わないのですが、そういう人たちのせいで異界人が誤解されるのは避けたいですから。
とは言っても、どの板に投げるか悩みますね。雑談板に投げても一部のプレイヤーしか見てないでしょうし、職業板や魔法板だと話題がかけ離れ過ぎてます。
······お、検証班が常駐してる板がありましたね。検証班が更新しているWikiはほとんどのプレイヤーが見ているとシユからは聞いています。板のタイトルに「どんな情報でもカモォン!」とありますので遠慮なく。
「あ、人だかり。魔力溜まりですね」
掲示板に書き込みをしつつ進んでいると、森の中に少し開けた場所とそこに集まる人だかりが見えました。
王都の全方位を囲むこの森には四方にフィールドボスが存在しています。強さは中堅以上のプレイヤー1PTで普通に勝てる程度、デイリーで回数制限はありますが経験値がなかなかに美味しいので常にプレイヤー達で賑わっているらしいです。
······予想はしてましたが、人だかりに近づくにつれて向けられる視線が増えてますね············。
「······ジロジロ見てくる。斬る?」
「ステイ」
その好戦的な性格でよく一人旅を続けられましたね。いや、一人旅していたからこその警戒心ですかね······?
「私達の身柄を狙っているわけではなく、装備や人数に驚いているだけだと思いますよ」
「······?変な格好はしてない」
「変とまでは言わずとも、ここではあまり見ない服装やメンバー構成なので気になるのは仕方ないかと」
近距離遠距離を可能な限りバランスよく揃えて六人フルパーティで挑むのが定石ですからね。
近距離二人のみ、しかも武器種も同じと「バランス?何それ」と言わんばかりのパーティ編成。さらに二人揃って半面と、奇妙に思われても当然なんですよね············。
「ところでなんで半面着けてるんです?」
「······今更」
それはそうですけども。
「ずっと気になっていたので」
「気分」
あ、特に理由なかったんですね。
傍から見れば少しアレかもしれませんが、ナンパを防げると思えば······
「よう、そこのお二人さん。オレらとパーティ組まない?」
············えー?顔が隠れてる女性ナンパします?見境無さすぎでは?
「不要」
「二人で十分ですので」
こういう手合いにはきっぱりと断るのが大事です。
稀にあっさりと退く人もいますから。······本当に稀ですが。
「いやいや。こんなとこに顔隠して二人だけで来てるんだから、なんか事情や困ったことがあるんだろ?言ってみ?」
スキルの試し打ち以外の理由はありませんけど?
事情があったとしても初対面の相手に言う気はないです。
「邪魔」
「特に困りごとはないですね」
カンナの言う通り邪魔だからどいてくれませんかね。ボス待ちの列に並びたいのですが。カンナがさり気なく刀に手をかけているので早くどいた方が身のためですよ。
「あっれー?【刀術】持ってるからフラグ立つと思ったんだけどな」
「種族とか他の条件あるんだろ」
「だよなー。あ、すまんなお二人さん。どうぞ並んでくれ」
············おや?
身構えていた私達に頭を下げ、男たちは離れていきました。イマイチ状況が掴めていませんが気にせずボス待機列に並んでおきます。
「あれ、八百屋の店員さんだよな。武装してるの初めて見たから誰かがイベント発生させたのかと」
「確かクロコさんだっけ。クロコさんも隣の鬼人もレアっぽい着物と刀だったし、【刀術】系統のスキルクエストNPC発見か!って思ったがそう甘くないよな」
······んー············?
あ、NPCと勘違いされてますね私。このゲームはキャラクターアイコン出ないのでプレイヤーとNPCの区別難しいんですよ。
おまけに、現時点で判明している戦闘系エクストラスキルや流派スキルのクエストNPCは街中では至って普通の住人に見えるのに戦闘エリアではパッと見で分かるくらいには上等な装備を着けていることが多いらしく、その特徴が私に見事なまでに当てはまっているようです。八百屋の店員をしていたのがまさかのファインプレー。
NPCに間違われようと問題ないので誤解は解きません。むしろ私がプレイヤーだとバレていたらナンパされたでしょうから誤解されたままの方が好都合です。
いやぁ、男の視線は分かりやすいですね······。
NPCと思われたからかそれ以降は声を掛けられることもなく、私達の番が来ました。ボスエリアに入ると、インスタンスエリアに切り替わったことで周りのプレイヤー達の姿は消え、私とカンナ、そしてボスたるランドベアだけが残りました。
いいですねこの仕様。ドロップのかすめ取りや妨害目的での横殴りを防ぐための措置らしいですが、私みたいな隠すべき手札が多いプレイヤーはそういう意味でも助かります。
「土属性相手には······風属性ですね」
〈魔力循環〉を刀を対象に発動し、重ねて風属性の『魔纏』を発動させることで、本来武器には使えないはずの『魔纏』の効果が刀に適用されます。
〈魔力循環〉を発動している間はそれが身体だろうと武器だろうと全て身体判定になるらしく、身体を対象としたスキルを武器に対しても発動できるようになります。
そしてこれがカンナ流刀術の基本にして真髄。魔力の性質が原因で一切の放出魔法が使えず、自身の肉体に魔法を纏わせることしかできなかった彼女が編み出した流派です。【付与術】系統のアーツを組み合わせた派生技を含めても遠距離技は全くありませんが、武器に『魔纏』を使うことができるというのは私にとって遠距離技がないというデメリットを補って余りあるメリットだったのです。
私は既に【熟練刀術】を【熟練刀術・カンナ流】に進化させており、アクティブパッシブ問わずアーツが色々変更されてます。
パッシブアーツだと〈刀の心得〉が〈刀の心得・カンナ流〉となり効果が「刀による与ダメージ上昇」から「刀による与ダメージ上昇。〈魔力循環〉発動中はさらに与ダメージ上昇」と強化されました。一つ一つ挙げるとキリがないので省略しますがパッシブアーツは大体こんな感じで強化されてます。あまり大きな変化はないですね。
逆に大きく変化したのがアクティブアーツです。〈鎌鼬〉をはじめとした遠距離アーツが全て使用不能になりました。以上。
武術系スキル一種につき流派スキルは一つだけという制限があるため、【刀術】系統で遠距離攻撃をすることができなくなってしまいましたが、問題はありません。遠距離攻撃は魔術使えばいいだけの話です。
ちなみに武術系と魔術系の統合進化である属性武術系スキルは取得数に制限はないんですよ。SPがそこそこの勢いで溶けますし育成の手間が恐ろしいことになりますが、不可能ではありません。
具体的に説明すると、【刀術・カンナ流】と【刀術・ヤクモ流】を両方取るのは不可能です。流派スキルは一つ取得した時点でその系統の他の流派スキルのクエストが発生しなくなります。ですが他の系統なら影響はなく、【刀術・カンナ流】と【格闘術・獣王流】の両方を取ることが可能です。なんならさらに【斧術・テンペスト流】を取ることも可能です。
また、【火炎刀術】と【雷鳴刀術】、【火炎刀術】と【刀術・カンナ流】の組み合わせもOKです。
「水属性に変えて」
「相手土属性ですよね?」
「雑魚。風じゃすぐ終わる」
あの、こいつ一応パーティ推奨なんですよ。私のレベルが高いとはいえそんなすぐ終わるとは思えないんですが。
「前足を斬ってみて」
「了解しました」
まぁカンナの言うことですし信憑性は高いです。時間かかりそうならもう一度抗議しましょう。
「ほっ」
熊なだけあって動きは遅い。その屈強な前足での大振りを避けつつ水が渦巻いた刀で前足を斬りつけます。厚い脂肪によって浅い傷しかつきませんでしたが、私が斬りつけた数秒後に同じ場所から水飛沫のようなエフェクトが発生してランドベアにダメージを与えます。
「GUGAAAAA!?」
これが【刀術・カンナ流】に【付与術】を組み合わせた派生技です。【付与術】系統のアーツは対象が非生物、自身の魔力が込められたもの、もしくはテイムモンスターをはじめとした「敵対状態ではない」生物であるため絶賛戦闘中であるランドベアは対象外ですが、相手に傷を付けた際に魔力を送り込むことでアーツの対象に取ることができるようになります。
そして付与したのが〈追刃〉。【熟練刀術・カンナ流】に進化した際に【付与術師】に追加されたアーツです。効果は、任意のタイミングでその部位に魔術の斬撃を生み出すこと。
漫画やアニメでよくある、すれ違った時に何回も斬っており、納刀したタイミングで斬撃が一斉に発動するあのシチュエーションを再現できます。イメージが一番近いのは某有名海賊漫画の愉快な骨さんの鼻唄のアレですね。
【刀術・カンナ流】と【付与術】のスキルレベルに応じて〈追刃〉の付与できる回数が増加するため、将来が楽しみです。
というか、今の一合でランドベアのHPは5%も削れてたんですね。熊型のモンスターには物理攻撃が通りにくく、メイスなどの打撃属性や戦斧・ポールハンマーなど重量武器はまだマシですが、斬撃や突撃属性はダメージがほぼ通りません。おまけに頼みの綱である魔法はわざわざ不利属性の水を選んでいたという······。それで5%も削れていたんですから、風属性だったら10%くらい削れていたのではないでしょうか。有利属性での攻撃と不利属性の攻撃では確か二倍くらいの差があったはずです。
「············ダメージ入り過ぎでは?」
「······だから言った」
「まさかここまでとは思わないじゃないですか」
スキルレベルはちらほら上がりましたが、経験値ゲージが微動だにしてませんよ。厳密に言えば少しは動いているんでしょうが、目視では動いたかどうかが判別つきません。
本当に皆さん毎日やってるんです?普通にフィールドで虐殺した方が効率いいですよこれ。
色んなモンスターに対応できるように、と属性をコロコロ切り替えながら何度か〈追刃〉付きで斬っていると割とすぐ倒れました。正直物足りないですね。
「······足りなさそう。他三体も······やる?」
「え、多分ですがこいつが一番防御力や体力が高いですよ。他三体行っても不完全燃焼で終わると思うので、もう戻って立ち合いした方が有意義ですよそうしましょう」
「立ち合いは楽しい」
よし。
「けど、やり過ぎはよくない。対人ばかりになっちゃう」
「いいんですよ。対モンスターは火力でゴリ押せば済みますから」
「私はスノウの師匠。師匠は弟子に健やかな成長をさせるもの」
健やかとは。
「ん、行く」
「······分かりました」
結局、ブレイズウルフ、テンペストホーク、カレントバイパー、と他三体のフィールドボスも倒しましたが予想通りランドベアが一番タフで、あまり修練にはなりませんでした。
カンナとの立ち合いが楽しかったです、まる




