第八十話 アイリスVSパンツァー、そして突然のクエスト
大変お待たせいたしました。10月中には投稿すると言っておいて月末も月末です。
大学が最近忙しくて······CGの授業ではポコポコ生えるエラーに悩まされ、提出期限が課題出た翌日とかいう鬼畜レポートに追われ、とてんてこまいでした。
別にキツくはなかったけど作曲させられる英語の授業もそれはそれで難しかった。曲作りとか初めて。
······曲作り終わったら漫才やらされるみたいな噂聞いてるんですけど、私が受けている英語の授業は本当に英語の授業なんですかね············?でもテストないのは嬉しい。
「いやー、ただ的を殴るだけじゃ物足りなかったからありがたい」
「俺だって力勝負は久しぶりだから楽しみだ。とりあえずさっきの体捌きを足でもやって一回殴ってみてくれ」
「っ!分かるのか」
「なんとなくだが。拳はえらい速くなってたが他はそうでもなかった。あのしなりを見るに、足でもできるんじゃねぇかってな」
「······まさか再現できたりはしないよな?」
「無理に決まってんだろ。何やってるかは予想付いたが、やり方はさっぱり分からん。······リオンならできるかもだが」
「「え?」」
二人の会話を聞いてボクとリオンから驚きの声が漏れる。
「リオン、アレを見ただけで再現できるの············?」
「いやいやいやムリムリムリ!あんな頭のおかしい技の真似なんてできるわけないじゃん!そもそもアレ格闘術ですらないのになんでアタシならできるかもとか言ってんのアイツ!」
あ、格闘術じゃないの分かるんだ。おじさんは勘違いしているけど、仕方ないよね。現に父さんは格闘術と併用しているし。
「何、違うのか」
「実は武器持っててもできるんだよなー。まぁ一発で武器がお釈迦になるからやらんが」
「いつか武器ありでの一撃も受けてみたいもんだ」
えぇ······。さすがに引くよ、おじさん。
「じゃあ一発行くぞー」
「よっしゃ来い!」
「せぇーのっ······ドラァッ!!!」
ズドンッッ!!!!!
「ぐぬっ············!」
父さんの一撃をもろに受けたおじさんはその勢いで10m以上も後ずさり、止まったかと思えば曲がるはずのない場所で折れ曲がった腕をプラプラとさせていた。
「············さすがにフル封印した状態で鬼化したお前さんの攻撃を受けるのは無謀だったか。折れた」
「いや、痛くないのかそれ」
痛覚どうなってんの············?
「パンツァーのことは心配するだけ無駄じゃぞ。封印かけて肉体強度を落としても生命力や魔力は変わらんが、あやつの生命力はそこらの竜種を鼻で笑うレベルじゃ」
「腕、見てて」
どうしたのカンナ。わざわざ腕を見ろだなんて············は?
魔術もポーションも無しで骨折が十秒で治るとかボク以上に生物として怪しいでしょ。【生命力自動回復】でもHPは回復できても骨折は治せずそのままなのに。
「何あれ。不定形生物かな?」
「コロコロ種族が変わるおぬしが言えることではないのだがのう」
「スノウ、ドッペルゲンガーみたい」
竜種だが???
「······そういや魔道具起動しないの?」
「あ、忘れてた。ぽちっと」
「「あ」」
なんで不満そうなの二人とも。
「安心しろ。障壁の強度弄って本人依存にしといたからしばらく楽しめるぞ」
「「ならいい」」
ボクとリオンの一戦ではハンデとして障壁の強度が本人依存じゃなくて二人とも一緒になるように設定してたんだよね。本人依存だったらリオンの被ダメージ下がってたしボクの被ダメージめちゃ上がってたしでかなり苦しい戦いになってただろうね。
今回勝っちゃったので次回以降のリオンとの対決ではハンデはおそらくなくなる。辛い。
「試合開始ー」
「「オオオオオオオォォォッッ!!!」」
開始の合図の直後に二人の拳がぶつかり合い、多数のスキルと鬼化で補正が重なった父さんがおじさんを大きく吹き飛ばす。
「封印解いてくれよパンツァー!そっちの方が絶対楽しい!」
「おうよ!」
お互い満面の笑みで殴り合う姿は傍から見るとやべー奴らである。
「楽しそうだねー」
「そう言うスノウは興味なさげだね。アタシとカンナの試合は目ぇキラッキラさせて見てたのに」
「好みの問題かなぁ。速さとか多彩な技で繰り広げられる戦いが好きなんだよね」
自分の動きの参考になる、ということが好きな理由の一つである。
なのでゴリッゴリの物理型たる父さんとおじさんのぶつかり合いは「おおー······」とはなるが見ててテンションが上がるかと聞かれればそうでもない。
ちなみに同様の理由でスポーツ観戦にも興味がなかったりする。ワールドカップだろうとオリンピックだろうと気にせずゲームしてます。
嫌いではないんだけどねー。
「現状は······お?アイリス優勢なのか。お互いろくにガードしてないのにこんな差が付くもんか?」
「アイリスちゃんは複数の強化を重ねて、パンツァーさんは一つ目の封印を解除していて、身体スペックに差はあまりないみたいですけど······」
「まぁ妥当かなー。むしろおじさんはかなり頑張ってると思うよ」
「「「「「「え?」」」」」」
父さん相手に打撃戦はアンデッド相手に影属性魔法だけで戦うようなものなんだよなぁ。ちなみに実際に影属性魔法をアンデッドに撃つと一割くらいしかダメージ通らないよ。
「普通に戦ったらおじさんが勝つけど、わざわざ打撃に絞ってるからねぇ」
「どういうこと?」
「足元見ててー」
ボクとリオンは激しく動き回りながら戦いを繰り広げ、魔術や仙闘術など広範囲攻撃の応酬もあったため、その後の地面は削れていたり穴が空いていたりと酷い有様となっていた。
それとは逆に父さんとおじさんの戦いは範囲攻撃が一切ない近距離の肉弾戦。殴られた衝撃でのけぞったり後ずさる以外ではその場からほぼ動かないこともあって、おじさんの足元は足跡がいくつかある程度で大して荒れていない。
しかし、父さんの足は地面にめり込み、辺りの地面には亀裂が入っていたりとどうしてそうなったのか問い詰めたくなるような悲惨な有様。
「なんでそんなことに······?」
「あ、父さんが殴られる瞬間に足元と障壁の耐久値よく見ててね」
ちょうどおじさんの一撃が父さんのお腹にクリーンヒットするが、父さんの足がさらに地面にめり込むだけで障壁にほとんどダメージは入らず、反撃の拳がおじさんに突き刺さる。
「············何が起こってんだこれ」
「言われた通りの場所を見ていましたけど分かりませんね」
「魔力が一切関わっておらんのは確かじゃが······」
「まさか············いやでもさすがに馬鹿げてるでしょ」
「······ありえない」
リオンとカンナは気付いたっぽいね。
ただ、近接戦闘に優れた二人ですらこの反応なのはかなり予想外。父さんがラノベを真似して習得したあの技術、そんなに無茶なことなのね。これは身内の医者から人外判定出されるのも無理ないか。
「やってることは単純だよ、アレ。今の場合はお腹に受けた衝撃を体内でなんやかんやして足まで伝えて、足から地面に流してって感じで受けるダメージを一割以下に抑えてるの」
「?」
「何をどうして何したって?」
「それを魔力抜きでやるとかどうなっとるんじゃあやつの身体」
ボクよりマシだけど散々な言われようである。
「さすがに人類種だとは思いますよ。······人類種ですよね?」
「熊獣人のはずなんだけどねー」
「海人種にアイリスと似たようなことできる部族いなかったっけ」
「あぁー······いたような気がする」
「いるんだ!?」
身内からしてもバグキャラだよ父さん。似たようなことができる人が部族単位で存在しているとは世界は広いものだね。
「スノウが想像してるのとは多分違うぞ。身体特性上打撃が効きにくいってだけでアイリスみたいに変態技術で受け流すわけじゃない。何て言えば伝わるかなー············クラーケンを人型にした的な?」
「なるほどね?」
つまりイカとかタコの系列。
「その人たちに父さんの技術を伝授すれば、すごいことになりそう」
「バカ言え。リオンやカンナがこんな反応するトンチキ体術を習得できる生物なんざいねぇよ。さっきの体捌きですら定命の奴じゃ······あー、いや、そっちにはいるのか。そいつはあの受け流しできるのか?」
「うんにゃ、あれは無理。ちなみに父さんでも向こうじゃろくに使えないよ」
「············なんで?」
「父さんの肉体強度、こっちと向こうで何十倍も差があるんだよ。実はあの受け流しは完璧じゃなくて、こっちの強靭な肉体頼りにしてる面もあってね」
そもそも本家がノーダメじゃ済んでないからね。大半の衝撃を無理やり地面に流しながらも少しずつダメージは受けているのだ。
「おっと、二人の決着はそろそろか。障壁の耐久値が揃って二割以下だ」
「マジで!?」
「アイリスちゃんの受け流しの精度が落ちてきてますね。ログを見返すとアイリスちゃんの受けるダメージが段々と増えてます」
普通の受け流しと違ってあの受け流しは相当集中力いるから長時間するのはキツいって言ってたっけ。でも格闘家を相手にした時にように超至近距離を維持した戦闘だと、普通の受け流しは隙があって使えないとも言ってたな。
打撃しかない格闘戦は父さんに有利かと思ってたけど、長期戦になるとそうでもないのね。
って、
「あ」
「結構頑張ってたんだがなぁ」
集中力が切れて少しふらついた所にアッパーを受けてしまい、数瞬とはいえ地面から足が離れてしまう。おじさんがその隙を見逃すはずもなく、ダメージを逃がす場所がない父さんに全力のストレートを叩き込んだ············はずだった。
「は!?」
「えぇ······」
直撃したかに見えた拳を、身体を回転させることで受け流し、さらにその勢いを利用して鋭い踵落としを見舞う父さん。
しかし足首をおじさんに掴まれ、そのまま地面に叩きつけられて決着だ。
「負けたーーー!」
「いや、ずっと互角だったしそれでよくない?」
「そうですよ。封印を一つ解いたパンツァー様とあそこまで渡り合える実力者は国に十人もいないくらいなんですから。むしろ受け流しでアイリス様以上の人物がいるかどうか······」
「これが自力でやった結果なら俺も素直に喜べたんだがなぁ。スノウにかなりデカいバフ貰ってやっとこのくらいだ」
「この世界に来て二ヵ月でそれなら十分どころかお釣りが出ますよ?」
「だってさ。父さんがおかしいんだよ」
昔から父さんは強さを求めてるよねー。そんなに焦らなくていいだろうに。
「いや、リオン様に勝ったお嬢様の方が異常度合いでは上なんですがね············?」
「!?」
アルフが背中を刺してきた!?
「あやつ、特大ブーメラン投げた自覚なかったのかのう」
「わざとだと思いましたよ私」
野次は無視だよ無視!
「ボクは装備頼りだけどね?しかも自力で獲得せずに貰い物みたいなもんだし」
「強請ったりだとかPKして奪ったもんじゃなけりゃ経緯はどうあれそれはお前のもんだろ。運も縁も実力の内だ」
「使いこなしているのはお嬢様の技量があってこそですしね」
「そうかなぁ······」
ボクの戦闘力の大部分が装備に依存しているのは事実だからね。なんなら、魔法火力は兎も角物理火力は装備ありきですらお世辞にも高いとは言えないのだ。
鬼化と物理特化装備でステータス構成を物理型にできてもスキルが少ないからねぇ。
「じゃ、稽古、しよっか」
「······カンナ?」
「前から目は付けていた。私と似た性質の魔力で、全属性適性持ち。受け継ぐならスノウしかいないと思った」
カンナの長文とは珍しい。初対面の頃から時が経つにつれて片言ではなく普通に話すようになってきたが、それでも口数が劇的に増えたわけではなく、喋っても短文を一つだけ。
そのカンナがこの喋りようだ。一体何があったというのか。
「ねぇ、スノウ。私の流派、唯一の後継者になる気はない?」
《流派クエスト:刀術・カンナ流が発生しました。》
《クエスト発生条件:【熟練刀術】以上の刀術系統スキルの保有、全属性魔法スキルの保有、【魔力精密操作】以上の魔力操作系スキルの保有》
武術系スキルの癖して条件の過半数に魔術系スキルをぶっ込むのやめてもらえます???
前回の投稿から二ヵ月も開いたのにブックマーク増えててすごく嬉しかったです。これからも執筆頑張ります。




