第七十九話 思わぬ一戦を終えて
お久しぶりですー。大学初の落単をかましそうな姫河ハヅキです。テストは自筆ノートのみ持ち込みokだったんですが、単語問題はほぼなく、初見の問題ばっかだったんですよね······。
それ持ち込みokの意味あるのか······?って感じでした。
はい、愚痴ってすみません。どうぞこの話をお楽しみください。
◇◆◇スノウside◇◆◇
ちなみにこれが踊り子装備一式のステータス。
踊り子のフェイスベール
とある砂漠の国が発祥の衣服。
その薄布の奥に隠された素顔は如何に?
INT+200 MND+150
付与スキル:魅力強化、堕落の邪視
踊り子のストール
とある砂漠の国が発祥の衣服。
煌びやかに舞う様はまるでオーロラのよう。
INT+ 300 MND+250
付与スキル:魅力強化、術式隠蔽
踊り子のチョリ
とある砂漠の国が発祥の衣服。
イイ············腋ですねぇ··················
INT+420 MND+350
付与スキル:魅力強化、認識攪乱
踊り子のハーレムパンツ
とある砂漠の国が発祥の衣服。
スリットからパンツが見え······見え······ない!?
INT+350 MND+300
付与スキル:魅力強化、妖艶舞踏
【魅力強化】
パッシブスキル。
魅力値上昇。
【堕落の邪視】
パッシブスキル。
視界内にいる相手の魅了耐性を引き下げる。
MP消費で効果上昇。
【認識攪乱】
アクティブスキル。
MPを消費してごく短い時間相手の自身に対する警戒心を和らげる。
【術式隠蔽】
アクティブスキル。
MPを消費して構築・起動待機中の魔術を魔力探知系スキルから隠蔽する。
【妖艶舞踏】
パッシブスキル。
自身の露出度が高いほど魅了系スキルの効果上昇。
素肌が露出していない部分でも布が透けていれば補正は入る。
手掛けた人物の良識を疑いたくなる説明文と素のテンションでは着られない破廉恥なデザインを併せ持つ最悪の装備だが、例によって例の如く性能は極めて優秀である。
ステータスだけ見てもINTに1270、MNDに1050というプレイヤー間に出回っている装備品と隔絶した補正値で、魔法職ならトッププレイヤーが相手でも互角以上に立ち回ることも可能······いや、ボクの機動力も合わせればタイマンなら勝てそうだな?
ステータス補正だけでもそう思えるくらいに強いがそれだけでは飽き足らず、付与スキルはそれぞれの装備品に二つずつも付いている。どれも一つは魅力値という魅了判定の際に適用されるマスクデータを強化するスキルで、他の付与スキルは相手に魅了を仕掛けることに特化した構成。
精神系状態異常の判定時に参照されるステータスは状態異常を受ける側はMND、その時のMP量、対応する耐性スキルのスキルレベルであり、状態異常を与える側は対応する○○値と称されるマスクデータ、対応する【状態異常攻撃】系統のスキル(一次で【状態異常攻撃】、二次からそのまま全般的な補正を伸ばすか一つの状態異常への補正を伸ばすかで分岐する)のスキルレベル、そして消費MP量である。ちなみに身体系状態異常の判定は受ける側の参照ステータスがMNDからVIT、MP量がHP量に変わり、与える側の参照ステータスは変わらない。
と、そこまでは判明しているのだがマスクデータに補正が入る装備はあまり多くない。防具での例は確認されておらず(防具は状態異常耐性が付いているものが時々ある)、現在の所は武器のみでしか確認されていないうえに武器でも毒、麻痺、睡眠など身体系状態異常がほとんどだ。
その原因として、プレイヤーの現在での行動範囲に精神系状態異常を仕掛けてくるモンスターが出現しないことが大きいだろう。猛毒大蛇や麻痺蜘蛛など森林には身体系状態異常を仕掛けてくるモンスターはそこそこ多い。そいつらから採れる素材で試行錯誤した結果身体系状態異常の耐性を持つ防具と身体系状態異常のマスクデータに補正が入る武器が開発されたのだから、精神系状態異常を仕掛けてくるモンスターが出現するまではそれらに補正の入る武具は出てこないだろう、という結論に至った。
ちなみに、武器自体に状態異常を与えるスキルが付いたものもあるが数は少なく、ゲーム始めたての初心者に向けて振るうと状態異常を与える前に斬りつけたダメージで死ぬくらいの付与確率で実用性は皆無だったりする。モンスターから入手できる毒腺なり専用の臓器なりを潰すなど何らかの処理をして金属に混ぜ込むという製法を取っているためであり、その過程や加熱の過程で毒性は酷く落ちるのだ。実用ラインのものができるまでにはしばらくかかると思われる。
そんなこんなで状態異常関連の武具についての検証は一旦沈静化した。
まぁ、検証ブームの火種になり得る武具はボクのインベントリに大量に転がっているのだが。火種どころかニトログリセリン級まである。
武器は鍛冶、錬金術、付与の練習で色々作ったんだよね。
マスクデータに補正が入るのだと、ミスリルと毒亜竜の牙を鍛え上げた病毒値補正のある短剣、電撃豹の爪や牙を穂先に使用した麻痺値補正のある槍とか。
武器自体に状態異常を与える効果があるのだと、一つ一つの効果は弱いが塵も積もれば的なコンセプトの麻痺まきびし、効果が高すぎて投げる際に一瞬柄に触るだけで使用者にも被害が及ぶ劇毒投げナイフ、あまりにも耐久値が低くどれだけ丁寧に扱っても一刺しで砕け散る代わりに猛毒、麻痺、石化の三重状態異常を与える畜生ナイフとか。
プレイヤー間で判明してないだけで実用に耐えうる状態異常を与える武器を作る方法は実はいくつかあるのだ。
一つ目は【錬金術】系統の〈抽出〉と〈濃縮〉、〈変換〉。素材に処理を施して金属に混ぜ込むという手法自体は現時点でのプレイヤーと変わらないのだが、毒性が落ちても効果があるくらいに元の毒性を高めておくのだ。プレイヤー達は非効率過ぎて「この方法違うくね?」と他の方法の調査に走ったみたいだけど合ってるんだよねぇ。時間と手間とコストがものすごくかかるだけだよ。
二つ目は【付与術】系統の〈特性付与〉。毒などの付与したい性質を持っている素材と付与する先の武器を用意し、アーツを発動することで素材が持つ性質が武器に移動するという方法だ。一つ目の方法とは異なり性質の劣化がほとんど起こらず手間は圧倒的に少ないが、非常に厄介な制約が存在する。素材のランクに見合った武器でないとアーツ発動時に武器は破損し、アーツ発動者が製作した武器でないと素材の性質は武器に移動する際に基本的に劣化するというものだ。
要は【付与術】と【鍛冶】の両方を一人で鍛える必要がある。生産系スキルのレベリングは武術系、魔術系よりも時間や費用がかかるのにそれを複数なのでまぁしんどい。ボクは称号の効果や建物自体に施されたエンチャントで成長速度にブーストがかかっているがそれでもあまり早くない。他プレイヤーと比べると段違いなんだろうけど。
生産職の掲示板覗いてたら生産系三次スキルに到達してる人って生産職全体の1%切ってるらしい。二次ですら20%程だとか。それも一つのスキルに集中して、だ。ボクは亜神化で進化した結果だが六つある生産系スキルの内三次は一つ、他五つは二次。端的に言って異常である。
また、ボクが異常なのはベースレベルとスキルレベルだけではない。持っている情報の質・量共に他プレイヤーをぶっちぎっている自覚がある。
世界各地のモンスター分布、植物・金属の性質およびそれらによって作り出される薬品や合金のレシピ、一番ヤバいのだと全てではないけども最上位職の詳細と転職条件とか。
下位職の条件なんて対応する一次スキルの保有というあってないようなものだし、中位職もそのスキルを二次後半まで鍛えてたら自然に達成しているものがほとんど。上位職の条件は大半が中位職の条件の上位互換なので達成するのに少し時間はかかれど特殊なものはないのでいずれ達成できる。
しかし、最上位職だけは少し毛色が違う。上位職のそれをバージョンアップさせた条件以外にも、普通に鍛えるだけでは達成できないものが、ゲームによっては実績・トロフィーと言われそうな条件が存在する。《剣王》だと「100人以上の《上級剣士》と剣のみ(攻撃手段は剣のみという意味。防御だけなら盾もOK)による仕合を行い勝利する」、《盾王》だと「上位竜以上の竜種のブレスを盾を用いて単独で防ぎきる」など。
条件を達成した後に転職水晶を起動すれば選択可能な職業に最上位職が表示されて転職条件も見ることができるが、それを他人に明かす者などいない。最上位職に就くことができるのは一人で、枠が空くのは自ら最上位職を退くか死ぬことのみ。
何が起きるかは明白だよね。
ならば何故ボクが最上位職の転職条件をいくつも知っているのかというと、十二英傑の面々のおかげである。
日々の訓練でベースレベルもスキルレベルも順調に上がっているのだが、皆自分と同じ道を歩んでほしいようで訓練中に「狙っている最上位職はあるのか」という旨の質問をかなりの頻度でされる。まだ決めていない、と返すと揃って「自分が知っている最上位職の条件を教えよう」という流れになる。長く生きてきたこともあって、人によってはいくつもの最上位職の就職条件を達成しているのだとか。
現時点でボクが条件とジョブスキルを知っている最上位職は戦士系統が《剣王》、《盾王》、《槍王》、《斧王》、《鎚王》、《刀王》、《闘王》、《仙女》、《武術王》。
魔術師系統が、《極炎》、《極水》、《極風》、《極土》、《極爆》、《極氷》、《極雷》、《極鋼》、《極光》、《極影》、《極聖》、《極闇》、《魔術王》。
職人系統が《最高位鍛冶師》、《最高位錬金術師》、《最高位調合師》、《最高位料理人》、《最高位付与術師》、《最高位法陣術師》、《最高位魔導工学師》、《生産王》。
多いんだよなぁ······特に魔術師系統。基本属性コンプしてるんだが。
内訳としては、《刀王》がカンナで《闘王》と《仙女》がリオン、それ以外の戦士系統はおじさん、魔術師系統は全てエメロア、職人系統はイスファかミネルヴァ、といった具合である。
狙うは《魔術王》かなー。ボク物理メインじゃないから戦士系統は避けるとして、職人系だと戦闘力が心もとなくなるので魔術師系統を選ぶべきだろう。かと言ってどの属性魔法も使うから対応した属性以外にマイナス補正のかかるものは避けたい、となると残るのは《魔術王》だけなのだ。
条件は非常に面倒くさいが、どうせ目標にするなら高い方がモチベーションは高くなる。というか、面倒くさがりで怠け者なボクは高い目標で自分を追い込まないといまいちやる気が出ない。頑張らなくていいなら許されるギリギリまで手を抜く自信がある。
ちなみに父さんは《武術王》を目指すとのこと。他の人に取られないために今まで以上の密度でスキルのレベリングを行うと息巻いていた。
······あの条件なら急がなくてもそうそう取られないと思うけどなぁ。《魔術王》もだけど、死をいとわないプレイヤーですら相当かかるよ。基本的に安全第一の現地人だと長命種でどうにかレベルの条件あるのどうかと思う。というか条件知ってないと達成できないよアレ。
なお、ただの平民が系統問わずたった一つの最上位職の条件を知っているだけで国中の貴族から身柄を狙われることになるのでいざという時は守るが自分でも注意してくれ、とも言われた。
もしかしなくとも今のボクって歩く宝の地図では?
「嬢ちゃん、【淫乱竜】は解除しないのか?」
「え?もう解除したよ。ほら、髪や角だって······あれ?」
おんやー?髪に肌、翼や尻尾は元に戻ったけど、角が悪魔化したままだな?
今まで何度も【淫乱竜】を発動したがこんなことは初めてだ。
いや、何度も使ったからこその変化か。
「エメロアの目で見てどう?」
「ふむん·········これまでは『悪魔の力の一部を宿した竜』、今は『悪魔でもあり竜でもある』、かのう」
なるほどなるほど。
んー······ん?この感覚············。
角を竜のものに戻してみる。
「あ、戻りましたね」
角を悪魔のものに変化。
「また悪魔化したぞ」
角を再度戻しつつ尻尾を変化。
「戻っ······今度は尻尾?」
尻尾を戻して翼を変化。
「······嬢ちゃん、わざとやってんだろ」
「うん」
検証が済んだのでなんとなく全身悪魔化してから竜に戻る。
うん······【淫乱竜】無しでの悪魔化、できるようになったね。少し前から服の変化なしでの【淫乱竜】出力全開もできてたけど、今思えばこれの兆候だったのかな。
「竜と悪魔の比率も調整できるとはの············。スノウ、おぬし真っ当な生物として少し怪しくなっておるぞ」
「えっ」
「残当」
「すいませんお嬢様、擁護できません······」
「酷くない!?」
「種族可変式が真っ当な生物であってたまるか」
それはそう。
「まあそれがなんだ、って話だが」
「神化した後のオレ達も一般的な生物の枠から外れてるからなー」
「でも、私たちはあくまで同系統上位種族への進化ですよね?スノウちゃんは全く違う種族に変異してますからやっぱりおかしいような······」
「結論は?」
「スノウ、変」
知ってた。
「おかーさんがエロくても構わないの!」
「···アリ寄りのアリ。むしろ利点」
「大人の魅力ってやつを勉強するのです」
「露出大歓迎よ!」
これ喜ぶべきかな?三人娘の器の大きさに感動する前に、母に色気を求めていることに嘆くべきでは?
ユリアはもう手遅れよ。
「確か憤怒は鬼種の性質が表出するんじゃったよな?憤怒の練習頻度を増やして鬼化も習得し、バランスを取ってはどうじゃ?」
ボクが持つカラミティスキルやエクストラスキルはスキル名に【竜】と付くが、何故か竜以外の種族の特徴を備えている。生物としての肉体的スペックが高い竜種に他種族の強力な特性を加えることで、世界の調停者たる役割を持つ竜種に大きな影響力を与えているというのがおじさんから聞いた話だ。
······それ言っちゃって大丈夫なやつ?このゲームを初めて二ヵ月ほどのプレイヤーが知っていい情報かな?
「何のバランス」
「戦闘スタイルじゃよ。悪魔化と踊り子衣装で魔術特化なら、鬼化して鎧を着こんで物理特化、というのも面白かろう?」
「確かに形態変化はロマンだけどねー」
なんならSTR・VIT特化の装備がインベントリにあるから憤怒を発動して装備を着用、くらいなら今すぐ実行できたりする。それも和風なので鬼化にピッタリなデザインだ。
それにしても鬼化ねー。【淫乱竜】抜きでの初めての悪魔化で、スキルを介さない異種族化の感覚が残ってる今の方が後から練習するより習得しやすかったりするのかな。一度やってみるか。
まずは【憤怒の暴虐竜】を発動して邪神化と一部鬼化。
ここからは悪魔化の要領で······あ、予想通りだ。【憤怒の暴虐竜】って【淫乱竜】よりスキルとしての格が高いから感覚掴みやすいな。【憤怒の暴虐竜】から回復阻害などの能力的な部分だけを切り離しつつ【憤怒の暴虐竜】を解除してっと。
三本目の角が額から生えて、翼と尻尾は引っ込んでる。
ステータスも魔法系が下がって物理系が上がってる。よし成功。
「············マジかおぬし」
「早すぎて笑うわ」
「お前不定形か擬態系か何か?」
「スノウちゃん、今度実験に付き合ってもらってもいいですか······?」
人体実験は遠慮させてもらうね!
「ちなみに半分悪魔化、もう半分鬼化ってできるのか?」
「できないことはないけど意味ないんだよね」
悪魔化でINT・MNDが上昇する代わりにSTR・VIT低下、鬼化はその逆というね。ステータスは強化と弱化とでほぼプラマイゼロになって変化なし、種族スキルは鬼と悪魔の両方とも元の半分の出力しか発揮できないため、半々の変化は弱体化とイコールなのだ。
「俺も鬼化できたりする?」
「今は無理。あくまで竜とその種族の性質の比率を調整してるだけだし、そもそも竜としての性質を持ってないと二つとも発動不可能なんだよ」
「そっかー」
父さんとボクの間には【恋愛神】で形成されたリンクがあるため、全てではないがスキルの効果を父さんに適用させることもできる。しかし、【淫乱竜】や【憤怒の暴虐竜】は「竜」特性持ちじゃないと効果が発揮されない。
逆に言えば少しでも「竜」特性あれば使えるから、ボクの血を採取して父さんに飲ませたらOKだったりする。素材として有用性クソ高いからボクの血は貧血にならない程度に採取し瓶に詰めて、インベントリに大量に保管してあるのだ。
まず、魔力伝導性がマジで高いんだよね。
ポーションの材料に使えば回復系だろうと強化系だろうと異常系だろうとその効果を大幅に引き上げるし、【属性炸裂瓶】の魔力水の代わりに使えば威力は数倍というね。世界的に見ても最上級らしく、これより上となると世界樹か神器に使われる金属であるオレイカルコス(このゲームではオリハルコンとは別にある)くらいだとメーティス姉妹から太鼓判を押されている程だ。
次に、組み合わせる素材やエンチャントの相性を問わないこと。
竜の素材に【竜殺し】、アダマンタイトに【自動修復】、今挙げた例は極端なものだが、相性の悪い素材とエンチャントは他にも多数存在する。無理やりエンチャントを施そうとするとよくてエンチャントの劣化、最悪の組み合わせだとエンチャントが付かないうえに素材の品質が著しく低下する。
そういう事態を避けるためには素材とエンチャントの組み合わせを変えるのが一番速いのだが、時にはそうもいかない事情が存在する。
例えばアダマンタイト。アダマンタイトに限らずミスリルより高位の金属を用いた武具はBランク冒険者でもほぼいない。入手場所が少ないのもあるが、そもそも加工できる鍛冶師が国に五人もいないからだ。どうにか入手できたとしても、一度破損すると、金属を探して必要量を入手し、加工可能な鍛冶師を探して依頼をして、とどんなに軽微な傷でも修理に少なくない費用と時間がかかる。
そこで【自動修復】。さすがに折れたり大きく歪んだりすると素材と鍛冶師の手による修理が必要だが、多少刃が欠けたりだとか切れ味が鈍ったくらいならこのエンチャントで事足りる。また、ミスリル以下の金属でも修理費用を抑えられるに越したことはないためCランク以上の冒険者の武具には大抵付与されていたりする。
【自動修復】は武具のエンチャントとして必須級なのだが、アダマンタイトとの相性がすこぶる悪い。付与しようとすれば武具としての性能は落ちるだろうし、他のエンチャントを付与する余裕もなくなる。かといってアダマンタイトより硬い金属など無いに等しいため鎧や盾にはアダマンタイトが最も望ましい。
イスファとミネルヴァでもこの問題を今まで解決できていなかったのだが、それを何故か解決したのがボクの血である。
解決に至ったきっかけは些細なこと。ある日の【付与術】の授業で起きた。
その授業の内容は「それぞれのエンチャントの触媒に適した部位」。
そもそもエンチャントとは〈特性付与〉の俗称で、触媒とは〈特性付与〉で移す性質を持っていた素材を指す。触媒として使用されるのは専らモンスター由来の素材だが、付けたいエンチャントによって使用する部位は異なる。甲殻や鱗は【耐久力強化】、爪は【切断力強化】、牙や角は【貫通力強化】、そして血液は【属性強化】と【属性耐性】だ。
血液くらいなら人型範疇生物から採取するのは珍しいことじゃないようで、土・鋼属性の強化や耐性をエンチャントする際は自分たちの血液を触媒に使うとのこと。そこらのモンスターの血液より効果の高いエンチャントを付与できるうえに材料費がタダとメリットばかりなのだとか。
【属性強化】と【属性耐性】のエンチャントの感覚の違いやおじさんやエメロアの血液だとどんなエンチャントが付くかなど色々教えてもらいつつボクも自分の血液で【属性強化】のエンチャントをしてみたのだが············付いたのはまさかの【全属性強化】。【属性耐性】のエンチャントをしても、付いたのは【全属性耐性】。こんな例は初めてだという。
ボクと同じく全ての属性魔法を習得しており、さらにラーニング系のスキルでもあるのか種族特有の魔法だったりボクより多くの【混成魔法】を習得しているエメロアの血液を触媒にしても、付くのはエメロアが一番適性のある【木属性強化】である。人型範疇生物かモンスターかに関わらず血液を触媒として付与されるエンチャントはその者の一番適性の高い属性一つだけで今まで例外は無かった。しかしボクはその理から逸脱している。
ボクのエンチャントの結果を見た二人は「何これ新種の素材では?」となり、高位モンスターの素材をふんだんに使った増血ポーションを何本も飲ませてまでボクから大量の血を取り、性質検証を行った。
その過程で、エンチャントしたい対象にボクの血である処理を施すことによって相性の悪いエンチャントも劣化なく付与できるようになるというボクの血が持つトンデモ特性が判明したというわけだ。
なお、この性質が異界人由来なのかどうかを確かめるために父さんの血液でエンチャントをしたところ、【属性強化】どころか【全属性魔法封印】と【身体超強化】が付くという予想の斜め上の結果となった。親子揃って異常な結果である。
······えーと、元は何の話だっけ。
そうそう、父さんもボクみたいに異種族変化できるかどうかだったね。
「でもこれ飲んだらしばらくは鬼化できるよ」
正確には、これを飲んだら鬼化を父さんにも適用できる、だけど。
「クッソ赤いが何だそれ」
「ボクの血」
「カニバリズム趣味はないんだが?」
「何か混ぜたらその分鬼化できる時間短くなるけど」
「マジか。マジか······」
悩んでるなぁ。物理完全特化の父さんは鬼化にメリットしかないからね。
「んー············一回試すか。スノウ、それくれ」
「はいな」
「んっんっ······思ったより血の味しないんだな」
そんなこと言われてもね。ボクはボク自身の血なんて飲まないから味に関して何か言われても答えようがないのだ。
「飲んだね?よいしょー」
はい鬼化。
「おお!身体が軽い!」
空中戦も想定して建造された、修練場の随分高い天井に届きそうなジャンプをぴょんぴょんといとも軽やかに繰り返す父さん。
あれ、ボクの時より補正高くない?ボクも物理系ステータス上がったけどそこまでじゃないはず。
「まずは最大火力試したいだろ?アダマンタイトの的出すわ」
「サンキュー」
地面からにゅっ、と生えてきたアダマンタイト製の標的に向かって弓を引き絞るように拳を構える父さん。自己バフ系のスキルを重ね掛けしているのか、父さんから発せられる圧が刻一刻と膨れ上がっていく。
「オラァッ!!!」
ズガアァン!!!!!と落雷にも似た轟音が鳴り響いたと思えば、あまりにも呆気なく砕け散るアダマンタイト。
「は?」
「あ、エンチャント何もしてなかったわアレ。そりゃ壊れるわな」
「それでもおかしくないですかね」
あー······言われてみればエンチャント付いてないな。エンチャントの魔力って対象からほとんど魔力が漏れ出ないから、見え過ぎるのも困り物だという理由で日常生活時には魔力視を意識的にセーブしてる最近のボクじゃエンチャント付いてるかどうかの判別難しいんだよね。
にしても父さんと鬼化の相性良すぎでしょ。
「見慣れない動きだったけど、アイリスってあっちでも武術やってるの?」
「あぁ、色々やってるよ。ちなみに今の体捌きはあっちでも父さんともう一人しか使えない特殊なやつ」
なにせ親戚たる天宮家が武術の名門。幼い頃から剣術に抜刀術、体術や槍術など天宮家の武術をいくつも習っていたらしい。ボクよりはマシとはいえかなりスタミナが少ないので練習時間は短かったが、上達具合は他の門下生どころか師範すらも呆れる程だとか。
おまけに、上達し過ぎた結果「ラノベを真似したらできた」なんて宣ってラノベに出てくるトンデモ技術を現実で体得しているのだ。天宮流の技にその体捌きを組み合わせることで本来の数倍の威力を出すことが可能になっており、今の一撃にもその体捌きが使われていたりする。
このトンデモ技術、天宮流の門下生(一般人)はもちろん、世界レベルの武術の才能に溢れた人材がゴロゴロ転がっている天宮家の面々でも体得出来た者はおらず、天宮家の中でも体術に特化した才能を持つ者でやっと取っ掛かりが掴めるかどうか、くらいの難易度である。
星宮、天宮、間宮の三つの家系全てを含めても父さんともう一人、つまり体得しているのはたった二人である。
やっぱ父さんおかしいよ············。
「ほぉ、特殊な武術か······よし、アイリス!その状態で戦おうぜ!」
「いいぞ!」
えっ、マジで?
怒涛の最上位職の羅列よ······。正直ルビ振り大変でした。
そこだけ読みにくかったかもしれませんがご了承ください。




