第七十八話 帰還、からの思わぬ一戦
お待たせしました!
どこでキリがよくなるかなーと思っていたら全然終わらなかったので少し無理やりひと段落着けました。
「ただいまー」
「おう、嬢ちゃん達おかえり。〈黄竜坑道〉はどこまで進んだんだ?」
「【ヒヒイロカネ】までだね。かなり時間かかって疲れたしこれ以上は無理そうだったから帰ってきたんだ」
「最後まで攻略できなかったのは悔しいが、それ以上の収穫があったからまぁ満足だわ」
「むしろなんで満足しきってないんですかね······」
「いっぱいアイテムと装備ゲットしたー!」って嬉しさと「ダンジョン攻略できなかった······」って悲しみは別だからね。
それはそれ、これはこれよ。
「たった六人でそれなら十分だろ」
「ちなみに「それ以上の収穫」ってのは?」
「これとか?」
「あとはこんなのも」
「「ほぉ············」」
ボクがインベントリから取り出した手甲と足甲に目が釘付けのリオンとイスファ。これでそのリアクションなら、ヌル出したらどんな反応するんだろ。
「イスファは魔導工学修めてたよね。似たようなもの作れるんじゃないの?」
「や、オレには無理だ。確かに魔導工学を触っちゃいるが、ダンジョンや古代遺跡から出土したモンを分解してどうにか構造を理解して、の独学なんだよ。ガトリングや大砲みたいな重火器はサンプルが多かったから造れるが、お前が今持ってるそれなんかは分解経験少なすぎて仕組みが分からん。······分解させろとまでは言わねぇからちょっと見してくんない?出来ればこれで戦うところも見たい」
「あ、じゃあアタシ戦いたい!」
「え、今?」
「「今」」
「······明日じゃダメ?」
「「ダメ」」
ボク〈黄竜坑道〉から帰ってきたばかりなんだけど!
もう今日は戦闘はお腹一杯なんだけど!
こうなったら父さんに押し付け············あれ?いない。
「父さんは?」
「パンツァーさんと一緒に修練場に向かいましたよ」
チクショウ、身代わりがいない。
しかしまだ逃げ場はあるはず。簡単には諦めないよ。
「あ、そうだ!この魔導機械、専用のカートリッジ必要だから今すぐ戦闘は無理だね!」
「レシピあるだろ?見してみ?グロス単位で作る」
何故レシピの存在バレたし。
にしてもグロスは多くない?
~三十分後~
イスファにカートリッジを作ってもらい、それにボクがMPを込めて、などと準備をしてから修練場に。
リオンはとっくに模擬戦用の結界も展開しており、やる気満々の様子。
「明日なら全然いいのになんでそんなに急かすかなー······」
「アタシたちくらい長く生きてるとワクワクすることなんてほとんどないからねー。面白そうなの見つけたら皆集まるし、出来るだけ早く見たいんだよ」
「······そうなんだ」
年齢の話ってデリケートだから反応に困る。
リオンからその話題を持ち出してきたんだから乗っかっても怒られないと思うけど······時々自分から「私もう年だから~」と言い出したのにも関わらず否定しないと露骨に機嫌が悪くなる人いるからね。
「ほら、皆手に酒とツマミ持ってんじゃん」
リオンが指さす先には酒とツマミを手に持つ十二英傑と父さんの姿が。
そんなに腰を据えて酒の肴にする程の見応えないと思うよ?
「父さんはおじさんと戦うんじゃなかったの?」
「そのつもりだったが、その武装の腕の方の機能が見れるとなったら話は別だ。あっちじゃ足の方の機能しか見れてないし」
「俺も嬢ちゃんのそれが気になってな」
「ワシもユリア達もじゃな。休憩ついでに観戦するのもええじゃろうて」
「スノウの戦闘訓練は最近少しご無沙汰だったから楽しみね」
「「「その腕かっこいい!」」」
先程までユリア達に魔術の手解きをしていたエメロアと休憩に入ったユリア達まで観戦に乗り気である。丁度のタイミングだったのかもしれないが、わざわざ修練場を空けてくれるというね。
大人気じゃん【サンドリヨン】君。ちゃんと活躍してね?
「んじゃ俺が合図を出そう。用意············始めっ!」
「先手必勝!」
「おっ!?」
もはや戦闘時のレギュラーメンバーと化した『魔纏:真紅雷霆』と、【魔力制御】に含まれるアーツ〈魔力身体強化〉で二重に強化した肉体を【サンドリヨン】の機能の一つ、【魔力噴出】で押し出して瞬く間に接近、その勢いのままさらに【刃脚】を起動した右足でリオンの頭部を蹴りつける。
この【魔力噴出】、自前の『魔砲』で同じことができるのだが、発動までの速度、魔力効率共に『魔砲』に勝る。
おまけに角度や出力の微調整も可能で、慣れればこんなことも。
「ギア上げてくよー!」
右足の一撃は躱されたので【魔力噴出】で再加速。回転の向きを変更してもう一度右足を使ってのオーバーヘッドキック。今度は受け流されたがさらに加速して回転、隙を【身体操作】や『魔弾』で埋めつつ左の回し蹴り。
続けて右後ろ回し蹴り!左サマーソルト!右上段!たまに拳で〈雷華〉!
「わっ、ちょっ!ええ!?」
蹴りは悉く回避や受け流しで凌がれ、不意打ち気味に放った【仙闘術】は【魔闘術】で相殺される。
リオンは初見の戦法のはずなのになんで一発も有効打が出ないかな!
······あ、数百年も生きてれば今のボクと似た戦法を使う人と何度も戦ってるか。うん、初見殺しは無理だね!
それでもリオンが攻勢に移るのを阻止できるくらいの効果はあるらしい。
ボクですら軌道や順番が予測できない連続攻撃を受けるがいい!
◇◆◇◆◇◆◇
縦横斜めあらゆる方向にランダムで高速回転するという、見ている側が酔いそうな気持ち悪い挙動で攻め立てるスノウを複雑な表情で見つめるスノウの指導者たる面々。スノウが成長しているという事実は喜ばしいものだが、眼前の光景はその喜びを半減させてしまっている。
「······なんだあの動き」
「ワシは知らんぞ。誰じゃ教えたの」
「格闘はリオンの担当なんだから、そのリオンが知らねぇなら誰も知らんわ」
「リオンさんの反応を見るに、間違いなく初見ですよね」
「アイリスさん、異界にはあんな動きがあったりするんですか?」
「うんにゃ。回転しながら両手に持った短剣で連続で斬り付ける、くらいなら異界でもあるが、それだと回転は一方向だけでな。速いだけで動き自体は単調だし、スノウほど隙が無いわけじゃない。多少参考にはしたかもだが、今の完成度まで引き上げたのはスノウ本人だろう」
「······スノウ、何者?」
「いや、俺もスノウも一般的な庶民の生まれって言ったよな?」
「冗談だろ」
「この場にいる者は誰一人信じてないよな」
「なんで???」
「たったの二ヵ月で上位職取れる奴が一般人であってたまるかよ。英才教育受けてる貴族でも無理だってのに」
「私としては、スノウちゃんやアイリスちゃんが一般人だとはもちろん思ってないですが、それより異界に魔力が無いということの方が信じられないですよ」
「なるほどのう。一理どころか百理ある」
スノウが地面を踏みつけて鋼の大杭を出現させ、それをリオンが拳で容易く砕いたかと思えば、空洞だった杭の内部に待機させていた複数の魔術がリオンに炸裂する。
リオンはすぐさま【魔闘術】で相殺を試みたが、スノウの魔術のどれもが別々の【混成魔法】。【混成魔法】を持たないリオンでは完全な相殺は不可能で、【魔闘術】で威力をいくらか軽減したものの、相殺しきれなかった分のダメージが入る。
スノウはさらに別の【混成魔法】を纏った髪で追撃し、着実にダメージを蓄積させていく。
現状はこれまでの対決を含めても最もスノウが有利となっている。
「あれで魔力に初めて触れてから半年も経っておらんとはもうジョークじゃろ。荒唐無稽すぎて笑うしかないわ」
「魔力操作精度だけ見ればまだ粗があるが、あの状況であの数を同時に制御って考えたら十二分だな。つーか戦闘中の並列思考に限ればオレ負けてるな······」
「スノウちゃんの脳はいくつあるんですかね」
『魔槍』の形状変化、それも内部に空洞を作るだけならそう難易度は高くないが、それと同時に【混成魔法】を四種類も並列構築するとなると、基の術式が単純なため難しくなろうとたかが知れている『魔槍』は兎も角、ただでさえ制御難易度の高い【混成魔法】のじゃじゃ馬具合は跳ね上がる。
その難易度を現実で例えるなら、「思考操作可能なペンを貸すから高校レベルの現代文、数学、化学、歴史の問題を同時に解け」といったところだろうか。【混成魔法】より制御難易度が上の儀式魔術などは言わば「難関大学の入試問題を解け」であり、難しさのベクトルが違う。
さらにダメ押しと言わんばかりの〈魔力身体強化〉と【身体操作】。〈魔力身体強化〉は魔力を持つ生物なら大抵会得しているため詳しい説明は省くが、【身体操作】は事情が全く異なる。スライムのような不定形生物が持つスキルであり、人型の生物が使うには全く向いていない。むしろ不要である。というのも、その真価は、多種多様に肉体を変形させることによって相手を翻弄してはじめて発揮されるもので、形が定まっており変形の余地がほぼ存在しない種族では効果的な運用ができないのだ。
少ない例外が体毛だが、実は【身体操作】は今のスノウのような使い方をするものではなかったりする。変形には「自分の肉体(スノウの場合は髪)は変形して当たり前だ」という認識と変形するものに対する強いイメージ(脳裏にその形がはっきり浮かぶくらい)が必要となる。スライム系の種族は知能が低い代わりにそれを本能でこなしているが、相当上位の個体でもない限り複雑な変形や連続での変形は不可能である。
また、確固たる自我や思考、高い知能を持つ生命体は己の意思で行わなくてはならない。少しでもイメージが崩れれば【身体操作】は解除されてしまうため、普通の人間は【身体操作】と別のスキルの同時発動ができない。
しかし星宮 雪は完全な同時並列思考が可能だ。そうして常識では不可能な所業を、スノウ単独で複数の【混成魔法】と【身体操作】、〈魔力身体強化〉の同時行使、さらには【身体操作】の継続使用による流動的な変形という離れ業をやってのける。
「あいつも人間だし脳は一つしかないに決まってんだろ」
「魔道具などの補助なしであの芸当はおかしいんじゃがのう。ワシも無理じゃし」
「え、そうなのか?」
「【混成魔法】の並列起動くらいならやってやれんことはない。じゃが、見た所【身体操作】が曲者でな。魔術とは全く違う魔力操作のあれを魔術と同時に使うのは変態じゃろ。······本当にスノウの脳は一つだけなんじゃよな?」
「ん、二つあってもおかしくない」
「お前ら人の息子を何だと思ってんだ。つーか並列思考なら姉の柊和······シユの方が大量にこなせるぞ」
「あれ以上ですか!?」
「あれ以上とか本気で人間かどうか怪しくありません?」
「あ、いや、スノウとシユだとちょっと勝手が違うからスノウみたくは無理だな。シユが得意なのはボードゲームの多面指しとか、大人数の指揮だっけか」
スノウは全く同時に複数の思考を働かせることが可能だが、シユはスノウとは少し違う。コンピュータのマルチタスクのように高速で思考を切り替えるという方式でスノウより速く、多くの物事を処理しているのだ。
詳細を知らない者からすればシユがスノウの上位互換に思えるが、一概にそうとは言えない。それぞれに向いた状況と不向きな状況が存在する。
シユの方式では将棋の多面指しをはじめとした、完全に同時ではなく矢継ぎ早に解答が求められる状況を得意とし、シユ本人はやりたがらないが、その気になれば高校の将棋部員相手に十面指しまでなら安定して勝ちを収めることができたりする。また、シユがかつてプレイしていたあるMMOで大規模なPVPイベントが開催された際には、各戦場の状態がリアルタイムで伝達されていたとはいえシユ一人で十近い盤面の戦況を把握、敵方の動きを先読みしながら数万人を指揮し、自陣を勝利に導いた実績もある。
しかし、【身体操作】のように一瞬たりとも気を抜かず常に集中し続けることが求められる作業には向いておらず、それぞれの思考に関連性がないと処理速度や同時処理可能数が落ちてしまうという弱点もある。
スノウの方式では、シユに同時処理可能数で劣る代わりに、それぞれの思考に全く関連性がなくとも処理効率が落ちることがなく、コントローラが片手で操作可能なものであればゲームの一人協力プレイもできる。
「今聞こえただけでもすごそうな人ですね。······まさかスノウちゃん以上の怪物なんです?」
「得意分野が違うんだよなー。もし二人がパーティ組んだらスノウはスキルや魔術を並列発動しながら前衛で回避盾兼アタッカー張って、シユは後衛で戦況をコントロールしながら魔術チクチク撃ってくる感じ。二人を組ませると大分メンドい」
アイリスはこんなことを言っているが、スノウとアイリスのタッグの方が何倍も凶悪である。スノウとシユ、もしくはアイリスとシユの組み合わせでも弱くはないし、そこらの同レベル帯のプレイヤー六人で組んだパーティなど相手にならないレベルの連携が可能だ。しかしスノウとアイリスのステータス構成上、一般的な盾役と同じような立ち回りでは真価を発揮できない。状況によってはパーティを組まずに単独で動いた方が戦果を上げる可能性が高かったりする。
そこでスノウとアイリスの強みを最大限活かすために取るべき選択肢は、「スノウとアイリスの二人を組ませて突撃させる」である。
重量武器であるはずの戦斧を高速で振り回して首筋などの急所に叩き込むアイリスに、あまりにも速すぎる魔力回復と人間離れした魔術構築の合わせ技で某シューティングゲームを思わせる弾幕を繰り出すスノウ。あとは【投擲術】やら【身体操作】やらで二人だけで近中遠全ての距離に対応可能であり、機動力も非常に高い。大軍のど真ん中に放り込んでも、ひたすら暴れて大量にキルスコアを稼いで普通に帰還するだろうことが想像に難くない。
なお、後々にプレイヤーのほとんどをスノウとアイリスをはじめとした数人で相手取り、一般プレイヤー達を恐怖の渦に陥れることになる。
◇◆◇スノウside◇◆◇
ここで唐突な装備紹介コーナー!
腕甲・脚甲型魔導兵器【砲腕刃脚 サンドリヨン】
「近距離魔術戦闘」というコンセプトの元に設計、製造された魔導兵器。足の裏と肘の辺りに搭載された収束式魔力放出機構により高速で接近し、脚部のオリハルコン製ブレードもしくは腕部の魔力砲撃機構で敵対者を殲滅する。
・起動条件
「【魔導工学師】以上の魔導工学系統スキルの保有」
「規定値以上の魔力量」
「規定値以上の魔力回路」
・装備補正
なし
・保有スキル
【魔力噴出】
使用者の魔力を消費し、肘もしくは足の裏にある魔力噴出孔から無属性の魔力を放射。相手への距離を詰めたり打撃の威力を高めたりなど用途は様々。
【刃脚】
所有者の意思に反応して脚部からオリハルコン製のブレードが出現する。ブレードは着脱可能なため用途に応じて形状や材質はご自由に。
【砲腕】
事前に製作しておいた専用のカートリッジを使用し、射程と範囲を捨てた代わりに高い威力の魔力砲撃を行う。一度に複数のカートリッジを使用することも可能だが、その機能を使用すると冷却時間が必要となる。
ヌルやこの【サンドリヨン】をはじめとした魔導機械には共通した特徴が二つある。
一つはステータス補正がないこと。これに関しての不満は特にない。その代わりに保有スキルがどれも優秀だし、PVPを視野に入れると重要になるのはステータスより多彩な手札だ。もちろんある程度のステータスが無いと戦闘の土俵にも上がれないが、土俵に上がってからは如何に相手が知らない攻撃を予測していないパターンで繰り出すかが肝だというのがボクの持論である。
もう一つは起動条件としてスキルやステータスが求められるということ。大抵は【魔導工学】系統のスキルとMP・INTが条件に含まれているため、まず前衛のほとんどが脱落するだろう。魔術に関するその二種のステータスを重点的に挙げる前衛はまずいない。彼・彼女らが優先して上げるのは攻撃役ならSTR、盾役ならVITおよびMND、斥候や回避盾ならAGIだ。さらに言えば、【魔導工学】は生産スキルなので後衛だとしても戦闘職は条件を達成できる者がいるかどうか微妙だ。
そもそもソロプレイをする気が無いプレーヤーは、自分の役割を決めてそのスタイルに必要なステータス以外にはLP、SPを振らないのが常識だ。あれもやりたい、これもやりたいと節操なくステータスを割り振ったりスキルを取るプレイヤーに待っている末路は、どの分野も中途半端にしかできない器用貧乏である。
盾役と支援・回復役以外の全ての役割をこなすボクみたいな、ね。
現時点では高いレベルと希少なスキルにモノを言わせてPVPでもそこそこ勝てるはずだが、プレイヤーのレベルがボクに追い付けば勝率は途端に下がるだろう。そのことを理解してこの構成にしたんだけども。
結局ボクが言いたいのは、魔導機械は直接戦闘の苦手なボク達生産職のためのアイテムではないかということ。武器や魔術などの威力はステータス依存だが、魔導機械のスキルでの攻撃はその威力がステータスには左右されない。事前に準備すればする程威力や継戦能力が上がる。この魔導機械以上に生産職に向いた戦闘用装備などないだろう。
え?「戦闘系エクストラスキル複数持ってる奴は生産職を名乗るな」?
LPの七割DEXに振ってるから立派な生産職ですぅー。
戦闘系上位職に就いてるけどDEX2000超えてるから生産職ですぅー。
「〈火炎・三連〉!」
「熱っ!?」
今だって魔導機械に頼りながら必死に格闘家を相手にしてる生産職ですぅー。
あ、氷属性の『魔纏』で冷却時間短縮しとこ。【砲腕】の出番多いし。
ついでに速度最低&威力極振りにカスタマイズした『魔弾:黒曜讐炎』をいくつかランダムに配置し、オートで少しずつ移動するように設定。何も考えずに動くとぶつかって大ダメージを受け、警戒し過ぎて気が散ると【砲腕】や【身体操作】でボクがその隙を突く。かといって意にも介さずボクを直接狙おうものならボクが『魔弾』を直接操作して背中にぶつける。
我ながら厭らしい手だ。
とは言っても、対応手段はかなり簡単である。
「邪魔ー!」
うん、接触してダメージ受ける前に破壊すればあっさり解決できるんだよね。この戦法は遠距離攻撃を持たない相手じゃないと効果がほぼないのが難点だ。
でもリオンに対応のワンアクションを取らせるという役目を果たしたからOK。
「発射!」
鋼属性の『魔槍』でリオンが回避するスペースをなくしてからインベントリから取り出した四つの【封術石】を起動。それぞれに付与した術式は火属性、雷属性、風属性、氷属性の『魔砲』。相殺をし辛くするためにあえてバラバラの属性を選んだ。
「ちょっ······こなくそー!」
なんで事前に大量のMPを充填しておいた『魔砲』四つを相手に咄嗟の〈複合魔法〉の〈閃華〉で張り合えるのかな!
······まぁダメージは与えてるからいいかも?今のペースならMPの回復が追い付くし、MP消費が加速しても回復手段はいくつかある。このままリオンの間合いの外からチクチク削り続けたら勝てる可能性は低くない、はず。
とりあえず追撃するか、と【兵器倉庫】からガトリングガンを取り出してトリガーを引く。
「あ痛たたたたたたた!」
銃弾は生身じゃなくて障壁に当ってるから痛いはずはないのだが。
まぁ、ボクも身体をどこかにぶつけた時には痛くなくても「痛っ」って言っちゃうから気持ちは分かる。
でも撃つ。撃ち続ける。
「撃つべし撃つべし」
「ウザったーーーい!!!」
ウザかろうウザかろう。
銃身をわざとブレさせて弾丸を散らし、回避を困難にしているからね。消費魔力を障壁にダメージを与えるうえでの最小限にしているから弾丸の一つ一つはゴミみたいな威力しかないけれども、連射速度は非常に速いので当たり続けると障壁はどんどん削れていくのだ。
そうしてしばらくチクチク嫌がらせ戦法に精を出していると、リオンが予想だにしていなかった暴挙に出た。
「あーもう!第一封印解除ーーー!」
「「「「はぁ!?」」」」
「「「えっ?」」」
「嘘でしょ!?」
鬱陶しい戦い方した自覚はあるけどさすがにその対応は大人げないと思います!
こうなったら対人使用を控えていた諸々も全力稼働で対抗だ。
「【遥か理想の生命樹:『自由の風』】【機竜外装:白兵形態】」
器用貧乏では勝ち目がない。リオンの風属性の使用頻度が高いことを加味して風属性特化型兵装の『自由の風』を展開、さらに白兵戦に適した【機竜外装】で防御を固める。
「〈風華〉ぁ!」
よっしゃ予想的中。『自由の風』相手に風属性はただのカモよ。
「へ?」
ボクが攻撃を防ぐ様子もなく自分から〈風華〉に突っ込んだのを見たリオンが素っ頓狂な声を上げる。
無理はない。色々スキルや魔導兵器を展開しておきながら勝負を放棄するような行動に出たのだ。誰だって驚くだろう。
でも油断し過ぎじゃない?魔術を吸収する敵とは今まで遭遇しなかった?
「【淫乱竜】」
「うぇっ!?」
〈風華〉の嵐をすり抜けた後は【遥か理想の生命樹】と【機竜外装】を解除し、代わりに【淫乱竜】を起動。同時に防具を巫女服から以前アルマさんに貰った踊り子一式に変更。
露出が非常に多く極力着たくないのだが、今はそうも言っていられない状況だ。正面戦闘は不利なのだから搦め手で攻めるしかない。
魅了の時間だオラァ!!!
「イイこと······する?」
「するー!」
あ、通った。
じゃあ遠慮なく。
「〈真紅雷霆・十連〉」
魅了が通ったとはいえ効果がどれくらいの時間で解けるか分からないのでボクの手札の中で出の速さと威力の高さが共に高水準である【砲腕】を選択。独力で制御可能なギリギリの出力で砲撃を放って決着。
いつかは武術や魔術で勝ちたいものである。
まぁ一勝は一勝ですとも。
初勝利、いぇい。
◇◆◇◆◇◆◇
「「「「「「「··················」」」」」」」
リオンの突然の封印解除、その状態で放たれた〈風華〉をスノウがもろに食らったはずなのに無傷で凌ぎ、そこから劇的な早さで初勝利を収めたという急展開の連続で開いた口が塞がらない面々。
「······まさか勝つとはのう」
「リオンが封印解除した時はさすがに負けたと思ったんだがな」
「【淫乱竜】の出力上がってね?装備でブーストしても封印解いたリオンに通るほどじゃなかったはずだし、そもそも個人に向けた魅了が離れたこいつらに効くのおかしいだろ」
「アイリスちゃんはしょうがないとしても、魔力抵抗を鍛えている騎士君があっさり魅了されるのはどうなんでしょう?」
「坊主こそ仕方がなかろう。そこらの術師の魅了なんぞかからんが、よりにもよってスノウが相手じゃからの」
「まあしょうがねぇよな」
「スノウちゃんだから?······あ、もしかしてそういうことですか?」
「「「「そういうこと」」」」
今更気付いたのか?とミネルヴァに呆れた視線を送るパンツァー、エメロア、イスファ、カンナの四人。声に出していないだけでユリア達も、今アルフレッドと共に魅了にかかっているアイリスも当然気付いており、彼の懸想を知らなかったのは、ミネルヴァと、彼の想いの相手であるスノウだけだったのである。
スノウは知らないが、魅了をはじめとした一部の精神系状態異常は抵抗にステータスだけでなく意思の強さ、要は心構えが必要となる。MNDがべらぼうに高かろうと全く警戒していない親友や身内から仕掛けられると時と場合によっては抵抗に失敗してしまうのだ。
特に魅了はその傾向が強く、惚れた者が相手の場合ほぼ確実にかかる。
「にぶちん」
「うっ」
一人旅が長く感情の機微に疎いカンナでも少し見ていれば察するくらいにはアルフレッドの懸想は分かりやすい。カンナより先にスノウ達と会っていたミネルヴァが今まで全く気付かなかったのは鈍いとしか言いようがない。むしろ気付かない方がおかしいのである。
「言ってやるなよカンナ。ミネルヴァは数百年レベルの引きこもりでお前より人との関わり薄いんだから」
「うぐっ」
オブラートに包む気のないイスファの言葉でそこそこ大きいダメージを受けるミネルヴァ。
引きこもりの自覚はある。人族至上主義が台頭していた頃はともかくそれからも500年以上身内や知り合いとしかほぼ関わっていない自分は引きこもりなうえにコミュ障だ。スノウやアイリス、アルフレッドはおよそ600年振りの友人(スノウは友人兼弟子)である。
この引っ込み思案な性格を直さなければとは常々思っているのだが、もし話しかけた相手に冷たい反応をされたらと考えてしまって話しかける勇気が出ないのだ。実際に冷たくされたら数十年は立ち直れないだろうことが想像に難くない。
十二英傑であることを明かせば彼女が危惧する事態にはならないが、それでは友人ができるはずもない。彼女が望むのは完全にとまではいかなくとも損得や権力が絡まない普通の友人だ。十二英傑の肩書と影響力を良く知っており遠慮が見えるアルフレッドは一般的な感性で見れば友人かどうか微妙なところなのだが、ミネルヴァの認識では友人である。ほぼ毎日顔を合わせて会話するので態度に遠慮が見えようと敬語だろうと立派な友人である。
「イスファは擁護に見せかけた追い打ちをするでない。真実とはいえ少しくらいは濁さんか」
「うぐぐっ」
3連続の口撃でついに膝から崩れ落ちるミネルヴァ。
自覚があるからこそ辛い。
「エメも追い打ちしてんだよ。ミネルヴァは今は落ち込むより嬢ちゃんを褒めてやれ。ほら、笑顔でこっち来るぞ」
「いい加減、起きる」
「あでっ」
「痛っ」
パンツァーがミネルヴァを慰め、カンナが魅了されっぱなしの二人の頭を鞘で小突いて正気に戻す。
「勝ったよ!純粋な戦闘力ではないけど!」
「リオンの耐性を突破できたんだし大したもんだろ」
「先越されたなー」
「むしろ封印一つ解除して負けたリオンはどうなんだ?」
「不甲斐ないのう」
「ざぁこ」
「むきー!イスファもエメロアもカンナも、一度戦ってみなよ!アタシのこと言えなくなるって!スノウ今すぐこいつらボコして!」
「疲れたからヤダ」
〈黄竜坑道〉での【ギガント・ヒヒイロカネゴーレム】との長時間戦闘、そこから黄竜王との邂逅や武具の選別などでインターバルを置いたとはいえまともな休息を取らずにこの一戦である。
肉体的な疲れはないが精神的には疲労困憊なのだ。
次話は装備の説明などの補完がメインです。
設定考えるのたのちい




